HRテクノロジーカンファレンス「TECH SHIFT」~国内外の事例から学ぶHRMへのテクノロジー活用戦略~

 近年HRテクノロジーの取り組みが進み、AIの進化もともなって、ビジネスへの貢献がますます期待されてる。一方で、テクノロジーを人事に積極的に導入している企業と、そうでない企業の二極化が進んでいるのも事実であり、HRM(採用、育成、評価、登用・配置といった人的資源管理)のどの部分に導入すべきか、どのような活用の仕方があるのか、導入するうえで人事はどう変わるべきかなど、疑問を持っている人事担当者も少なくないだろう。そこで本セミナーでは、実際にテクノロジーをHRMに導入あるいは導入支援に取り組んでこられた方々、国内外の動向に精通された方々にご登壇いただき、話をうかがった。

◆グロービス・デジタル・プラットフォーム
マネジング・ディレクター 井上 陽介 氏(ファシリテーター)

HR Techとは何なのか?
 そもそもHR Tech とは何なのでしょうか。目的でしょうか、それとも手段でしょうか。グーグル人事担当のラズロ・ボック氏の著書『WORK RULES!』には、組織について次のような2つのポイントが書かれています。
 1つは理想境地(ニルバーナ)を目指すこと。すべての社員が成長し続けるために、すべてのポストに人材を配置し、学習する機会を創って、社員がより生産的に、健康に、幸せになる手助けをするものである。
 そして2つ目は、データを使って未来を予測し、形づくること。すべての人事データを見える化することで会社の全体像を正確に描き出し、洞察をもとに未来を予測して実験する。そして効果を見て全社に導入せよと述べています。

 では組織はどのように変わっていかなければいけないのでしょうか。
 例えば従来の日本型マネジメントが横並び主義なら、グローバルリーダーシップは実力主義ですが、いかにその実力を図るのか、いかに見える化していくのかが問われます。これは私の解釈ですが、変化に強く競争に勝てる組織、学び成長し続ける社員を創り出すことこそが組織変革の本質であり、最大の目的でしょう。そのためにHR Techが役立つのなら、活用すればいいだけのことなのです。
 これまでは「採用」、「配置・登用」、「評価・処遇」、「育成」という各ファンクションがそれぞれに運用されてきました。外部環境の変化から事業戦略や人材ニーズが生まれ、その中で一つのサイクルがぐるぐる回っており、従来は暗黙知ベースのHRMで良かったのです。しかしこれからは外部環境の急激な変化から、機動的な事業戦略・実行や多様な人材が求められます。そこでHR Techを活用することで、「採用」、「配置・登用」、「評価・処遇」、「育成」というサイクルを、見える化・統合化・加速化していかねばなりません。

グロービスのチャレンジ
 弊社は現在、ビジネスナレッジを誰でもいつでも学べる環境作り、ラーニングプラットフォームの構築・進化、データの蓄積と活用という3つの取り組みを進めています。1つ目のビジネスナレッジを誰でもいつでも学べる環境作りでは、グロービス学び放題、略して『グロ放題』というサービスを展開。これはビジネスナレッジ動画を通じたいつでも学び放題の「定額型」サービスで、動画コンテンツは今年度内に約500本に拡充する予定です。さらに弊社ではその他にも、モバイルミニMBA、リアル研修、オンライン研修など、さまざまな学習機会をお客様にご提供し、そこで行われた学習履歴情報をきちんと蓄積して、ラーニングプラットフォームを構築。それをタレントマネジメントシステムとデータ連携し、アナリティクスを回すことで、より効果の高い教育を提供することが可能となります。

 具体的な事例として某企業とのプロジェクトをご紹介しましょう。
 ある会社では、会社を支えてきた50代社員の退職が迫り、今後若手人材の「一人前化」への育成スピードを大幅に早めていかなければいけないという課題がありました。そこで、ハイパフォーマーのインタビューから、あるべき行動、スキル、マインドを特定。続いて、一人前早期化OffJTプラン策定(デジタル化の積極導入)、OJTの見える化を進め、さらにKKD(仮説、検証、データ分析)を推進しています。このようにデジタルテクノロジーでビジネスパーソンの学びにイノベーションを実現し、新たな付加価値をお届けする。それがグロービスの目指すところです。

◆日本オラクル株式会社
クラウド・アプリケーション事業統括 HCMクラウド統括本部
エンタープライズ営業部 部長 小野 りちこ 氏

トランスフォーメーションの実現
 弊社はデータベースでは世界一のシェアを誇っておりますが、さらにクラウド市場でのシェア拡大を図るべく、現在「The Power Of Cloud by Oracle」(POCO)戦略を推進しております。そうした中、弊社は2016年に『HRテクノロジー大賞』を受賞いたしました。これは弊社の人事部が独自に応募したもので、その内容は「クラウドテクノロジーを最大限活用し、世界中の社員相互をインターコネクト(情報・人材を繋ぐ)する採用、人材育成戦略の展開」というものです。そこで今回はこの取り組みについてご紹介させていただきます。
今まさに先行きの見えないVUCAの時代を迎え、人事のスペシャリストでも未来が予測できなくなっています。果たしてどのようにしたら先行きが予測できるのか。そこで弊社が目指したのは、グローバルワイドな人事への変革です。
 それを実現させるために必要なことは主に2つあります。1つ目は、数字で語れる人事になること。2つ目は、人材に付加価値をつけること。これがグローバルワイドな人事になるための第一歩なのです。そんな中、弊社にとって最大のターニングポイントになったのは、2011年に人事部が大きな組織変革を行ったことでしょう。従来の人事部は、それぞれの国や地域で、それぞれの機能やデータを持って活動していましたが、それをHRビジネスパートナーとして組織変革し、国や地域を結びつけました。例えばグローバルリクルーティングでは、従来はバラバラに人を採用していましたが、ヘッドカウントを決めるなどしてすべてを見える化。こうしてVUCAに対応するために、グローバルワイドな人事になるために、さらに戦略パートナーになるために、大幅なトランスフォーメーションを実現させたのです。

今後人事が取り組むべきこと
 テクノロジーとは、人事が作った制度を加速させるためのツールです。よって人事の皆さんが行っている業務が何よりも重要となります。そしてその業務には守りと攻めがあり、守りの業務とはいろいろなデータを保持すること。この守りのデータをどうやって攻めの経営に活かすのか、その点を考え、実践していく必要があるでしょう。そのうえでコア業務とノンコア業務が何なのかを、きちんと分けておかなければなりません。
 今やアメリカでは、人事は将来なくなってしまう職種であるとも言われていますが、HRアナリティクスやAIなどが発達しても置き換えられない部分は必ずあるはず。そこを明確にして、コア業務とノンコア業務をきちんと分けることができれば、人事の果たせる役割はまだまだたくさん残されていると思います。

◆株式会社イー・ファルコン 代表取締役社長 志村 日出男 氏

HR Techを導入するために
 HR Techを導入するにあたっては、大きく2つのアプローチがあると考えております。まず1つ目は、そこにテクノロジーがあるという前提で、それをいかに活用していくのか。2つ目は、組織の問題や課題に対してテクノロジーを使って、いかに乗り越えていくのか。前者をテクノロジーオリエンテッド、後者をテクノロジーオブジェクトと呼ぶなら、後者のオブジェクト志向こそが重要でしょう。そして人と組織にまつわる問題を直視し、それがどのような要因から起こっているのか、しっかり検証する姿勢が必要です。データとは、人間の実態のある部分を捨象したものに過ぎません。しかしそのデータには必ず何かしら意味があると謙虚に捉え、その向こうにある真実に真摯に歩み寄っていく――そんな姿勢こそが、人と組織を動かしていく人事に求められる姿勢だと思います。
 そこで「期待~報酬モデルに見られるGAP」についてお話しましょう。そもそも「世の一般的価値」と「社の固有的価値」が存在し、この両方を見つつ「社の期待」が統合的に整理されていきます。この「期待に応える素質」とは一体何なのか、また「期待に応える行動」とは一体何なのか。本来これがきちんと連結・定義されなくてはなりません。それに伴って仕事の「成果」があり、そこに「評価・報酬」を与えて、さらに「行動の修正・習慣の形成」を行っていきます。ところが今ご紹介した「期待」~「期待に応える要件」~「活動の成果」~「成果の評価」~「行動形成」の間には多くのGAPやズレが存在しているのも事実です。例えば一般性と個別性のズレ、期待の不明確さ、素質を確認する方法の欠如、成果をもたらす行動の検証、フィードバックの欠如や方向性の合意の不足など。こうしたGAPやズレが社員ひとり一人の能力の発揮を妨げているという課題にぶつかったときにこそ、HR Techが大いに役立つと考えております。

求める人材要件~一般的×個別的価値の協議
 ここで具体的な事例をご紹介します。従業員数1000名を超える金融系システム開発会社の事例です。同社は前年度採用において、社会人基礎力の素質が高い人材を積極的に採用しましたが、結果的に内定者の承諾率が40%、辞退率が60%に達してしまいました。
 そこで弊社が協議に参加し、社会人基礎力を大事にしつつ、その会社で活躍する人材の要件を合わせ持っている人材を採用しようと提案。そこでまず実施したのが、代表社員に対するパーソナリティの調査、測定、パフォーマンス分析などです。これにより、社会人基礎力を体現するに必要な要件と、その会社のハイパフォーマーが持っている要件を明らかにし、採用を行いました。その結果、内定者の承諾率は53%、辞退率は47%と大きく好転。要件GAPの可視化・焦点化で生じた、採用選考の新たな成果であり、また人事部の中で求める人材の共通言語化ができて、それが広報や会社説明会や面談で押し出され、大きな吸引力となった成果だと思います。

◆株式会社i-plug 代表取締役社長 中野 智哉 氏

採用×テクノロジー
 採用×テクノロジーにおける最近の潮流は、大きく2つに分けられます。1つは、新たなデータを取り入れようという傾向。その代表がアセスメントです。そして2つ目が、機械学習を用いた採用×AI。つまりインターネットの媒体で蓄積されたデータに新たな変数を入れて、機械学習で回していくというサービスが昨今増えてきています。
 そうした中、弊社が現在行っているのが、活躍人材のコンピテンシー調査です。まずは自社で活躍する人材の変数を社員のデータから出して、それをもとにポジティブ要素が高いか、ネガティブ要素が低いか判断し、成功要因を特定していきます。さらに4万人の登録学生のうち2万5千人くらいに適性検査を受けていただき、そのデータから活躍する人材を見つけ出してオファーする仕組みを実現。従来なら早稲田や慶應などの学生に企業が集中していましたが、そういった学歴フィルターを取り払い、独自の採用カテゴリーを作っています。一方で、機械学習を導入し、検索効率を改善しました。さらに行動データを数値化して分析。企業や学生の行動履歴(オファー送信、プロフィール閲覧等)によるポイントから、例えばA社が今まで出会えなかった学生や、見えていなかった学生、また学生同士で行動パターンやプロフィールが類似しているケースなどを、企業にご紹介しています。このような『OfferBox』の新卒ダイレクトリクルーティングの仕組みによって、コストの削減や送信工数の削減などが実現でき、効率的に採用活動が進められるのです。 

これからの人事のあり方とは
 今後人事には、数値的な部分のさらなる活用が求められると思います。労働人口がどんどん減少し、人の採用が困難になっている一方で、優秀な人材さえ確保できれば、事業が伸びるであろう企業はたくさんあります。ではそのような時代に、どうしたら優秀な人材を採用できるのでしょう。従来のようにとりあえずたくさん人を集めて選ぶのではなく、いかにピンポイントで欲しい人材の心を動かせるか、それが鍵です。
 しかし欲しい人材を絞る作業は簡単ではありません。そこでやるべきなのが、現状社内にいる人材を見える化し、コンピテンシーなどを通じて共通要素を出すこと。そのうえで欲しい人材を絞って、採用に繋げていくという流れが主流になっていくと思います。手法としては、ダイレクトリクルーティングはもちろん、会社のホームページも活用できますし、さらに社員に紹介してもらうリファラル採用も有効でしょう。いずれにせよ、まずは現状をしっかり把握し、数値的に解決して、そのうえで施策を打っていくことが重要だと思います。

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