【セミナーレポート】AI×採用~AI・人工知能で採用はどう変わるか?

 人口知能(AI)を活用した取り組みが猛烈なスピードで進化していく中、企業の人事領域においてもその活用が取り入れら始めている。少子化による人口減少、女性活躍推進を含むダイバーシティなど様々な課題を抱えている企業の採用・人材戦略においてAI活用がどのように行われているのか、行われるべきか。
 マンパワーグループ株式会社主催のセミナー「AI×採用~AI・人工知能で採用はどう変わるか?~」にて、その動向の一端を垣間見ることが出来た。

様々な業態で実用化が進むAIテクノロジー

 第1部では「AIとIoT」と題して、これまでのAIの歴史やAI・IoTの活用分野とその現状について、株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部 戦略IT研究室 上級コンサルタント 塚田秀俊氏が登壇した。
 近年のテクノジーの進化にともない、金融・医療・交通・生活などの分野で既にAI・IoTが活用されはじめている。具体的には、住宅・自動車・飛行機など物質的なプロダクトを通じてデータがモニタリングされ、利用状況や使い方など取り巻く活動全てが可視化される。そうしたデータから付加価値の高いサービスを提供していくことがIoTの基本原則となる。例えば自動車にセンサーを搭載して運転データをモニタリングし、丁寧な運転を行っているドライバーには自動車保険を割り引くといったように、今後は業態や企業ごとに特色を反映させ、どういう付加価値を創出していくかが重要になってくるという。

 講演の中では野村総合研究所で取り組んでいるテキストデータ分析システム「TRUE TELLER」の紹介もされた。TRUE TELLERは野村総合研究所が分析コンサルティングを行う上で開発された“日本語に強い自然言語処理エンジン”で、約600社以上に及ぶ企業で実際に活用されているという。活用範囲の例としては、コールセンターにて受電した内容を音声認識システムで自動的にテキスト化し、用途に合わせた要約文を生成、FAQナレッジやVOC分析に連携することで応対品質・顧客満足度向上に反映させている。そのほか、化粧品分野では掲示板サイトやブログの口コミ・評価からターゲット層が持つブランドイメージや商品に対するリクエストを分析し、商品改善や潜在的なクレーム・急騰するワードの把握にも活用することが出来るという。

AIが採用にもたらす効用と活用基盤の重要性

 第二部ではAIが採用にもたらす効用や活用方法についてマンパワーグループ株式会社 RPO事業部 鈴木岳氏が登壇した。冒頭、鈴木氏からは採用における現状課題とAIによる課題解決が示された。

<現状の課題>
・採用競争は激化、良い人材と出会えなくなっている
・選考活動には面接官の主観やバイアスがかかり、選考精度の信頼性が低い
・入社後の早期退職やパフォーマンス不足といったアンマッチの発生

<AIによる解決>
・採用ソリューションにおける検索やレコメンドなどの機能向上による母集団の質・量が向上
・データ分析による曖昧さを排除した選考精度の向上
・データ分析による早期離職の予測やパフォーマンス予測

 ただし、AIは万能ではなく、人間とAIのそれぞれ得意領域を認識して、棲み分けを明確化する必要があると鈴木氏は付け加える。AIが得意とする領域は「規定のタスクを反復的に行う*」「複雑なマルチタスクを同時に速やかに行う*」といった前提となるロジックにもとづいた行動・実行であり、事前に使用目的や解決すべき課題を設定し、適切に活用することが必要となってくる。
 「AI活用の基盤づくりとして、選考のために現在収集している情報が正しいのか?評価項目や基準は正しいのか?といった採用プロセスを見直し、必要に応じて整備・再構築することが重要である。」
*出展:国際社会経済研究所「ビッグデータ×人工知能が人間の創造社会を変える」

実証実験からみえたAIの具体的な活用方法とは

 マンパワーグループでは採用プロセスにおけるAI活用の実証実験を行っており、講演内ではそのテスト事例も公開された。分析対象となったのは、日系大手メーカーA社で2016年に実施された理系学部を対象とする80名規模のインターンシップ。400名超の応募があったため書類・適性テストと面接の2段階でスクリーニングを実施した事案が検証サンプルとして取り上げられた。
 実証実験に至った背景として、A社では「採用の質を上げるために今後AIを活用していきたいが、その有効性について試してみたい」という意向があったという。A社からは、エントリーシート・適性テスト・面接・最終的な合否といった採用プロセスの各データが提供され、分析には野村総合研究所のTRUE TELLERが用いられた。
分析は大きく下記の4項目に分類され、項目ごとに検証結果が公表された。

1.採用ターゲット層の特定(合格者に共通する属性情報とは?)
 最終的な合格者に共通する属性情報はあるか、という観点から分析を行ったところ、合格者は特定の学科に集中したという。また、合格者の応募経路を分析すると「知人(ゼミの先輩、他のインターン参加者)からの紹介」が最も多く、リアルなネットワークが有効な導線であったことがわかった。
 こういったデータを経年的に蓄積していくことで、「過去の合格者」の傾向に近い母集団を形成し、採用精度を上げていくことできる。

2.書類選考の工数削減(応募書類と合格者の関係は?)
 応募書類の「文字量」や「キーワード」をテキストマイニングして分析を行ったところ、合格者が記入した応募理由の文字数は200文字中で170文字以上であり、キーワードは「社員との交流を通じて社風や仕事内容を学びたい」というインターンの趣旨を理解したものが多かったという。
 エントリーシートにおけるワード情報と合格者の相関性を見出すことができれば、膨大な情報の中から合格の可能性が高い対象者を抽出することも可能になる。

3.選考歩留まりの向上(適性検査は正しい選考結果を導けているか?)
 A社ではストレス耐性を評価項目の一つとし、適性検査と面接でストレスチェックを実施。適性検査におけるストレス耐性において、もっとも低いランクの応募者は書類選考で不合格としていた。
 今回の実証検証で、適性検査・面接それぞれのストレスチェック評価を照合したところ、必ずしも一致はせず、「適性検査のストレス耐性評価」≠「面接官のストレス耐性評価」という結果が出たという。これは面接へ進めなかった応募者の中にも、A社にマッチした人材が潜在していた可能性があることを示している。この結果を受けて、導入しているストレス耐性チェックでは正しい評価には結びつかないとの判断から、次年度では評価項目からストレス耐性評価を外すことを決めたという。
 自社の選考基準や評価軸を見直すことで、自社にマッチする人材をより多く残していくことも可能になるのではないか。

4.面接精度の向上(面接官の評価は目線が統一されているか?)
 面接官の評価と合否との相関関係についても興味深いデータが示された。面接官Aが通過させた対象者は、その後の最終選考結果においても全員が「合格」もしくは「不可なし(再チャレンジOK)」となったのに対して、面接官Bはその後の最終選考では70%が不合格となった。面接官の目線を統一することで標準化を図るとともに、入社後もデータを取り続けることによって本当の意味での面接精度向上、欲しい人材の把握に繋げることが出来る。

新たに重要視される「HRサイクル」

 講演ではAI活用が進んでいる米国での取り組みを紹介しつつ、入社させて終わりというのではなく、入社後以降のデータも時系列で収集し、つなぎ合わせていくことの重要性も強調している。
・入社前における企業へ抱くイメージ、仕事への価値観(やりがい、給与など)、嗜好性
・入社後における配属先、研修・トレーニング、社内サーベイの結果、昇進・昇格

 これらのデータを一元的に集積していき、採用へとフィードバックさせ、それぞれの企業にあった「HRサイクル」をまわせるようにしていくことが今後求められていく。

 これら従業員データを収集・運用するにあたってはデータ取得の目的、領域、閲覧者を明示して透明性を担保し、監視や統制のための使用ではないという労使間の信頼関係の必要性にも言及していた。

 採用の中でAIを活用する取り組みはまだまだトライ&エラーの状況であり、実際に取り組んでいる企業のほうが少ないというのが実態であろうが、その歩みは着実に進んでいる。
 人材確保が困難を極めていく中、実務に忙しい人事担当者の工数を減らし、「自社にマッチする有益な人材確保」という課題を解決していける可能性を持つテクノロジー進化に、今後も注目していきたい。

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