変革を担う人事リーダーを半年かけて育成する人事リーダーズスクール

労働人口の減少やグローバル化など、激変する社会/経営環境に対応するため、日本企業は今、大胆な変革を迫られている。この変革を推進できる人事リーダーを社外で育成しようというのが、ProFuture株式会社主催の「人事リーダーズスクール」だ。多種多様な業界の企業から気鋭の人材が集まり、半年にわたって企業改革を実現するため人事に求められる視点を学び、協力しながら思考力を鍛えている。このワークショップのビジョンや内容から、日本企業の改革に必要な人事リーダーの能力とはどのようなものかを考えてみた。

企業に必要な変革を人事の誰が実行するのか

 改めて言うまでもないことだが、日本の大手企業の人事は大きな変革を迫られている。第二次大戦後70年の間に日本は高度成長を成し遂げ、世界の経済大国になったが、これを支えてきた仕組みが通用しなくなりつつあるからだ。
 グローバルな競争の激化、国内市場の収縮、高齢化・労働人口の減少など、経営環境・社会環境は大きく変わり、どの産業・企業もこれに対応した新たな人材マネジメントの仕組みを必要としている。
 たとえば労働人口の減少では、2014年3月で団塊世代の65歳までの再雇用が終了した。今後労働人口は急激に減り、企業は人材の確保に苦労し始める。女性や外国人の活用などいわゆるダイバーシティの推進もひとつの解決策だが、65歳〜70歳への雇用延長もこれから進んでいくことになるだろう。
 かつて日本企業では当たり前とされてきた新卒採用主体の終身雇用や長時間の残業も過去のものとなり、人材の流動化、ワークライフバランスを前提とした多様な働き方がさらに加速していこうとしている。
 事業のグローバル化を進める企業では、グローバルに活躍できる人材の育成と活用、海外拠点やM&Aで獲得した外国企業の人事管理など、新たな人事の枠組みを必要としている。

変革を実行するリーダーを育てる

 こうした変革を実行するリーダーには、日本の経済や企業、人事のあり方を過去・現在・未来にわたって深く洞察できる能力や、世界の情勢やグローバルビジネスにおける人事を見渡す広い視野を備え、自分の会社に必要なものを的確に判断した上で、新たな枠組みを構築していく能力が求められる。
 その育成には、個々の企業内だけではなく様々な企業から次世代の人事リーダー候補を集め、卓越した知見を集約したハイレベルな講義に加え、受講者たちが互いに切磋琢磨しながら成長していける場を提供する必要がある。この発想から生まれたのが、「人事リーダーズスクール」だ。
 発足は2015年2月。多種多様な業界の企業約30社から中堅人事担当が参加し、半年間にわたって学び、これからの時代に求められる人事の視点や思考方法を鍛えている。参加者の中心は30代。10〜20年後にその会社の人事責任者になる世代だ。
 「今、大企業の人事を統括している執行役員や人事部長は大体50代後半。新卒で入社以来、団塊世代に育てられ、これまでの日本企業の枠組みで人材マネジメントを行ってきた世代です。従来型の人事には詳しくても、これからの会社に必要な人事とは何かについては、彼らにとっても全く新しいことになるわけです。改革実行において彼らが果たすべき役割は、未来に向けた改革の方向性を理解し、正しい方向づけをすることです。そして、この改革を実際に考え実行していくリーダーは、今の30代を中心とした世代なのです」と「人事リーダーズスクール」のコーディネーターを務める中央大学大学院の楠田祐教授は語る。
 楠田教授は2009年から毎年500社の人事部門を訪問し、人事の役割や人事プロフェッショナルのキャリアについて調査研究を続けてきた。この研究から見えてきたのが、この二つの世代が変革で果たすべき役割であり、彼らが必要とする能力なのだ。
 ProFutureはすでに人事リーダーズスクールに先立つ1月末、大手企業の経営者・人事役員・部長クラスを対象とした2日間の「HR EXECUTIVE FORUM」を実施し、楠田教授はそこでファシリテーターを務めている。これは経営者や人事トップに、企業の持続的成長を実現するために人事は何をすべきかを伝えるための特別なセミナーだ。
 これに対して、実際の改革を実行する人事リーダーの育成には、短期間のセミナーではなく、長期的かつ継続的な学びの場が必要となる。「人事リーダーズスクール」が半年間という長期にわたって実施されるのもそのためだ。
 参加者32名は初回のオリエンテーションで5つのグループに分けられ、半年にわたって各分野を代表する講師陣によるセミナーを受講し、人事リーダーに求められる視点・知識を学びながら、最後にグループ単位の研究発表を行う。

人事リーダーになるために必要なスキルとは

 楠田教授はオリエンテーションで受講者に、目指すべき人事リーダーに必要な要素のうち、「人事リーダーズスクール」で得られるものとして、「人事管理の基本」「360度の視点」「専門分野のリーダーからの学び」「異業種の人事とのリレーション」の四つを挙げている。半年間のスクールにはこれらを学び鍛えるための様々な仕掛けが盛り込まれている。
 まず、各回のセミナーのテーマは、人事管理の基本からダイバーシティマネジメント、日本型雇用の過去と未来、人事と賃金、経営をリードする戦略的人事、グローバル時代の人事など多岐にわたり、そのひとつひとつに専門分野のリーダーたちから得られる貴重な知識や視点、考え方が凝縮されている。
 特に注目されるのはこれからの人事を考えるために、未来や海外だけに目を向けるのではなく、過去や日本的な人事も深く掘り下げる内容になっていることだ。目的は未来の人事を考えるための知識と力を身につけることだが、そのためには過去や日本、欧米のやり方も徹底して知る必要がある。楠田教授はこれを「360度の視点」と呼んでいる。

未来の視点
 『未来の視点』とは、たとえば5年後10年後、さらに数十年後の日本の労働人口がどう変化/減少していくか、それが各産業にどのように流れていこうとしているかといったことだ。数値的な予測はすでに出ているが、大切なのは将来の人事リーダーがそれを知っていること、それを基に自分の会社がどうあるべきかを考える力をつけることである。
過去の視点
 これに対して、『過去』とはたとえば日本の賃金の歴史だ。大手企業はある時期から給与計算など人事の事務をアウトソーシングするようになり、中堅までの人事部員は賃金の基本的な考え方や、設計理論などのノウハウを知らないまま育ってきている。これから65歳・70歳定年の時代を迎えたとき、賃金カーブをどのように設計するか、退職金をどうするかといった課題を解決するには、日本企業の賃金の歴史や基礎理論を知っておく必要がある。
欧米的な視点
 欧米企業の人事について知ることが大切なのは言うまでもない。今は多くの日本企業が海外拠点を持ち、日本人・外国人を雇用しているが、最近は海外拠点がますます多様化しつつある。たとえばM&Aで買収した海外の企業は、日本企業が自前で構築した海外拠点とは全く違う人材マネジメントが必要だ。「カーブアウト(事業分離)」と呼ばれるやり方で海外企業の一事業部を買収した場合、その企業がグローバル化している場合は、これがさらに複雑になる。どれだけ従来のやり方、カルチャーを活かし、どこで日本とのシナジー効果を発揮するかなど的確な判断をしていくには、海外のやり方を詳しく知っておく必要がある。
日本的な視点
 一方で日本型人事は過去のものなのかというと、決してそうではない。90年代から韓国や北欧、スペインなどから、大胆なグローバル化を断行した企業が次々と現れているが、こうした国々は人口が少なく、国内市場が小さいため、思い切って海外に活路を求めざるを得なかったのに対し、日本の人口は2060年でも8200〜8700万人と予測されている。つまり人口減少がこのまま進んでも、かなりの規模の国内市場が存在する。
 したがって日本企業はグローバル指向一辺倒になるのではなく、海外と日本を両方見据えながら、最適な方法を選択・適用していく必要がある。

 「自分の会社だけを見ていては、変化に対応して会社を変えるために、何を残し、何をどう変えていくべきかが見えてきません。過去からの視点、未来からの視点、日本の視点、グローバルな視点から自分の会社やビジネスを見渡す360度の視点が必要なのです」と楠田教授は言う。
 ミシガン大学ロス・ビジネススクールのデイブ・ウルリッチ教授は、市場・顧客・世界など外からの視点で人事を考える「アウトサイド・イン」の視点を提唱しているが、楠田教授がここで提唱しているのも、可能なかぎり多様かつ広範な視点から物事を見、考えることなのだ。

濃密な異業種交流が生み出す豊かな学びと人脈

 もうひとつ「人事リーダーズスクール」で重要なのは、質の高い異業種交流の場を作り出していることだろう。参加者は電子機器メーカー、食品メーカーなどの製造業から総合商社、広告代理店、ITサービスベンダーまでバラエティに富んだ業界のトップ企業で活躍している人事プロフェッショナルだ。
 彼らは半年間のワークショップを通じて異業種企業の取り組みや考え方に触れることにより、多くのことを学ぶことができる。第1回のワークショップではオリエンテーションと参加者の自己紹介の後、懇親会が開かれ、活発な意見交換が行われたが、半年にわたる継続的な交流を通じて気心の知れた仲間が生まれ、スクール修了後も続いていく人脈が形成されていこうとしている。
 研究発表を行うグループは、オフィシャルなワークショップ以外にも自主的にメンバーの会社に集まって勉強会を開いており、そこからさらに密度の濃い交流と学び合いが生まれている。
 歴史を振り返ると、80年代前半くらいまで日本の企業は産業別労働組合を基盤とした業界内の結びつきが強く、人事も同業他社との交流から多くのことを学んでいた。
 しかし、80年代後半以降、特に90年代のバブル崩壊後は、日本企業の人事は新たにコンサルティング会社から多くを学ぶようになった。日本型経営が行き詰まり、成果主義など海外企業の仕組みを導入するようになったからだ。しかし、こうした試みは必ずしもよい結果ばかりもたらしたわけではなく、多くの失敗事例が生まれ、その反省に立った試行錯誤が現在も続いている。
 「同業他社やコンサルティング会社からの学びは継続されていくでしょうが、これからは異業種の企業から学ぶことが大きな意味を持ってくるでしょう。たとえば課題に取り組む優先順位が、同じ業界では似たり寄ったりになりがちなのに対して、異業種では違う順番で取り組んでいることが少なくありません。異業種に人脈があれば、そうした取り組みについて貴重な情報を得ることができます。特に重要なのは失敗事例です。成功事例は専門誌やセミナーで紹介されていますが、失敗事例は親しい人から直接話を聞かなければ知ることが難しいからです」と楠田教授は言う。

受講者たちの中で始まった「行動変容」

 参加者たちにはすでに大きな変化が生まれている。
 ふだんの業務では会えない企業の人事担当と深く話し合うことで、誰もがそれまで考えたこともないような考え方に触れることができる。それに刺激されて、全員が研究テーマの設定について主体的に考えるようになった。
 「ものすごい刺激をもらっています」「社内ではこんな人脈は絶対にできないでしょう」「おそらく一生の宝になると思います」等々の感想が参加者から聞かれる。これがまず最初の成長だと楠田教授は考えている。
 「このスクールで受講者たちは、これまで経験したことのない色々な視点から物事を見つめ、考えることを要求されることに、最初は戸惑いや疲労を感じているようでした。しかし、その面白さがわかってくると、次第にそれが喜びに変わっていく。大切なのは受講する人たちがスクールを通じて、ただ知識を学ぶだけでなく、未来の人事のあり方を考え実行していける視点、考え方を身につけることです。そしてこの先も学び、力を磨きながら、10〜20年後に人事トップとして自分の会社を変革していける人材へと成長していかなければならない。どのような変革が必要かは会社によって異なりますが、このスクールで得た視点や考え方、人脈は、必ず大きな力になるはずです」と楠田教授は言う。
 楠田教授とProFutureはこの「人事リーダーズスクール」を毎年上期・下期の2回実施し、毎回数十人を人事リーダーとして育てたいと考えている。このチャレンジが5年、10年と続いていけば、将来の日本には幅広い業界にかなりの数の人事リーダーが誕生することになる。
 このスクールには単なる個々の企業の人事だけでなく、日本の企業がどれだけ強力に生まれ変わることができるか、そして日本が21世紀を通じて成長を継続できる国になれるかどうかが懸かっていると言えるだろう。

2015年度 人事リーダーズスクール 参加企業(32社)

株式会社IHI/伊藤忠商事株式会社/SMBC日興証券株式会社/NECソリューションイノベータ株式会社/株式会社エムティーアイ/小田急電鉄株式会社/協和発酵キリン株式会社/KDDI株式会社/株式会社コーチ・エイ/コニカミノルタ株式会社/株式会社サイバーエージェント/サントリーホールディングス株式会社/株式会社JCB/株式会社GENOVA/住友商事株式会社/株式会社セガネットワークス/株式会社そごう・西武/株式会社ソニー・ミュージックアクシス/ソフトバンクBB株式会社/大正製薬株式会社/株式会社ディー・エヌ・エー/帝人株式会社/東京エレクトロン株式会社/東京急行電鉄株式会社/東京地下鉄株式会社/日本電気株式会社/株式会社日立ソリューションズ/三井化学株式会社/ヤマト運輸株式会社/楽天株式会社/理想科学工業株式会社/株式会社ローソン

※社名読み仮名(株式会社を除く)五十音順

人事リーダーズスクール

主催ProFuture株式会社
コーディネーター 楠田祐 中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)
客員教授
対象者企業内人事担当の方(人事経験3年以上〜課長職まで)
会期第3期 2016年7月〜2017年1月 開講予定
開催日程全14回 毎回19:00〜21:00に開催
会場TKP赤坂駅カンファレンスセンター ほか

楠田 祐

人事リーダーズスクール コーディネーター
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 客員教授
戦略的人材マネジメント研究所 代表
特定非営利活動法人 女性と仕事研究所 理事
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問及び日本テレビ NEWS ZERO コメンテーターなども担う。

◇主な著書
「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。最新の著書は「内定力2016〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ) 2015年度 人事リーダーズスクール 参加企業(32社)
PODCAST配信中

COMPANY PROFILE

商号 ProFuture株式会社
代表者 代表取締役社長 寺澤康介
所在地 〒107-6123 東京都港区赤坂5-2-20 赤坂パークビル23 階
資本金 3,015万円
URL
お問い合わせ TEL:03-3588-6711
FAX:03-3588-6712
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