生産性向上と定着率向上を目指した組織づくり

 「この先、組織をどのように維持していったらいいのか」、「組織の体制を立て直すことはできるのか」――。アフターコロナを見据え、今や多くの企業がこうした不安や悩みを抱えている。非常時に企業が取り組むべきこと、それは組織の再構築である。そしてそのベースとなるのは、生産性が向上する仕組みづくりと、人が定着する仕組みづくりだ。実際にどのような仕組み・施策が有効なのか、船井総研の田井哲弥氏に解説していただいた。

非常時にこそ求められる「組織力」

 今や新型コロナウイルスの影響で組織の在り方・捉え方は大きく変わりつつあります。経営者の多くはアフターコロナを見据えて、新規事業・出店等の仕掛けのトーンダウンや、急激な売上ダウン対策、赤字の最小化、組織の体制復活などに頭を悩ませているでしょう。これらの課題に向けて、従業員のためにも短期的な組織対策をスピーディに行うことと並行し、中長期的にも、やめること、続けること、新たに取り入れることを決断する必要があります。

 会社が持続的に成長するためには、「組織力」が欠かせません。では、そもそも「組織力」とはどのようなものなのでしょうか。私たち船井総研HRD支援部では、「組織力」=戦略遂行力・事業運営力と捉えています。事業運営力を高めるためには、長所伸展(個々人の長所に着目し、伸ばしていく)の思想のもと、従業員とトップの組織ギャップを認識し、本来目指すべき組織に向けて、明確な打ち手を実施することが重要です。

生産性が向上する組織の条件とは?

 アフターコロナを見据えた出口戦略において一番のポイントとなるのが、生産性の向上です。そして生産性を向上するためには、売上・利益回復のための事業戦略と、より少ない工数で業務を行うための組織戦略が必要になります。そこでここでは、組織戦略の鍵を握る環境整備(ハード面)と人財育成(ソフト面)について考えてみましょう。

 ハード面で生産性向上につなげる環境整備には、3つのポイントがあります。1つ目は、自動化です。ひと言に自動化と言っても、人財を減らすことが目的ではありません。これまで手間暇をかけて行っていた業務を機械化することで、時間の空いた社員はより付加価値の高い業務に集中できます。続いて2つ目は、システム化。今こそ会議や研修のシステム化を進める絶好のタイミングです。そうした中、デジタル人財である若手の積極登用や、人財開発専門部署を作って採用・育成・評価のオンライン化を進めましょう。そして3つ目は、見える化です。これは手順・場所・情報がひと目でわかる状態にすること。「戸惑わない」「探さない」「思い出さない」「間違わない」ようにするために職場を工夫しましょう。これら3つの環境整備を推進することで、生産性が向上する組織へと生まれ変わります。

 一方の人財育成に関しては、新型コロナの影響でリアルな接点が減っていくため、今後はオンライン育成制度などデジタル化への切り替えが必須になるでしょう。そうした中、テクニカルスキルの習得においては、スキルマップを活用して人財の多能工化(マルチスキル化)を推進することが重要です。スキルマップを活用することで、拠点ごとにトータルの戦力値を俯瞰視することや、個別のスキルの到達度を測ることもできます。また多能工化を効果的に進めるためには、さまざまな業務の経験を積めるジョブローテーションを行うことも大切です。

 アフターコロナ対応型組織を作るためには、従業員一人当たりの年間粗利を一つの目安にして、ひとり一人の生産性を上げることに徹底的にこだわる必要があります。ただし、生産性向上というと従業員に求めることが多くなるため、会社としても何かしら従業員に還元しなければなりません。では、具体的に何を還元すればいいのか。ビフォアコロナでは深刻な人手不足の中、労働時間や休日数など働きやすい環境を整えることで離職防止につなげる動きがありましたが、これからは一段上のやりがい創出の取り組み(企業理念・ビジョンへの共感、個々人の将来像を見据えた長期育成など)を行う必要があるでしょう。

報酬・評価制度が定着率アップの鍵に

 「組織力」を高めるためには、生産性向上とともに離職防止も重要になります。そこで、続いては定着率アップのための組織づくりについてお話しましょう。人が定着する組織の条件としては、まず事業計画が明確であり(少なくとも1年に1回共有する機会がある)、計画に合わせたキャリアアップ制度がしっかり整備されていることが挙げられます。また定量的な成果が出たら、利益を従業員にきちんと還元することも重要です。利益の一部は全従業員に均等に分配する、あるいはどの役職になればいくらもらえるのかを明確にし、役職と評価結果に基づいて分配しましょう。さらに、月次決算で毎月の数字をオープンにすれば、従業員はやりがいを感じますし、自ら考えて行動するようにもなります。

 評価制度が明確になっていることも、定着率アップの条件です。またオンライン面談等でフィードバックする際は、評価・査定の厳格な運用よりも、日頃感じている承認・感謝ポイントを優先して伝えましょう。その他、上司や先輩へ相談しやすい雰囲気を作り、部署をまたいで協力し合う風土を作ることも大事な要素になります。

 ここで定着率がアップした組織づくりの事例をご紹介しましょう。静岡県で酒類・食品販売、飲食店の運営などを行うM社は、創業300年、年商13億円、正社員31名(パートアルバイト50名)ほどの典型的な地域密着型企業です。同社では、新卒5名が半年以内に全員退社してしまった、評価制度が形骸化するなど、マネジメント面の課題がありました。そんな中、現在の社長就任に合わせ、従来のトップダウン型からボトムアップ型へと組織を変革。さらに従業員とその家族の幸せまでも考えたクレド(企業理念を具体的にした信条や行動指針)を共有するなど、人財ファースト経営にシフトしました。また、社名変更によるリブランディングも実施。社会・地域貢献をビジョンやミッションに掲げ、それを新しい社名に込めることで、従業員の意識変革につなげています。実際、「この会社で働き続けたい」といった従業員の声があちこちで聞かれるようになり、定着率も大幅に向上しました。

 最後に、先を見通しづらいアフターコロナの時代は、変化対応型組織であることがより一層重要になっていくでしょう。従業員ひとり一人が経営視点を持ち、マーケットの動向やお客様のニーズの変化を見極め、対応できる――そんな組織づくりを目指していただきたいと思います。


・船井総合研究所
https://hrd.funaisoken.co.jp/

・人財ファースト経営フォーラム
https://www.funaisoken.co.jp/study/036442

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株式会社船井総合研究所 HRD支援部 グループマネージャー 田井哲弥氏

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