リーダー人材の採用と育成|リーダー人材の育成は新卒採用から始まる採用の見極めポイントと事例紹介

先行き不透明な時代を柔軟に乗り切るための「タレント・パイプライン」と多様なキャリア支援

急がれるタレント・パイプラインの強化

今、日本企業のおかれたビジネス環境は、先行き不透明な状態だ。加えて、グローバル化の波が押し寄せており、いつ外資系企業が日本市場を席捲するとも限らない。反対に、日本企業が世界市場に躍進する可能性もある。もちろん企業としては、そこを目指さなくてはならないだろう。

先の見えない時代の中で、次に何がビジネスの潮流となるか想像がつかないからこそ、企業はあらゆる事態に備え、必要な時に必要とされる能力を発揮し、求められる役割を担える人材をプールしておく必要がある。そのためには、臨機応変に、適材適所で人材を送り込める「タレント・パイプライン」の強化が急務である。

多くの企業がリーダー候補人材の採用を急ぐ背景には、タレント・パイプラインの充実を図りたいという思いも強い。今のうちから多様な分野で専門性をもち、リーダーシップを発揮できる人材を育てておくことは、非常に困難なチャレンジだが、企業の生き残りには必要不可欠ともいえる。

一方で、当たり前のことだが、現状の経営を支える既存事業もおろそかにはできない。既存事業で高いパフォーマンスを上げられるリーダー人材の育成も同時に行っていかねばならないのだ。既存事業のリーダーと、これからのリーダー候補人材は育成の仕方が異なるため、両者を別々に実施しなくてはならないが、そこに人材の交流はあってもいいだろう。

例えば、既存事業のリーダー候補が、新しい時代の経営に興味を持ち、ファストトラックに移ることになっても問題はない。むしろ、組織にとっては歓迎すべき展開といえるだろう。企業は一定の柔軟性を示しつつ、若手リーダーの育成に臨むのが適切だ。

キャリア、人材育成のあり方を見直す

今の時代の人材育成や成長支援が難しいのは、ビジネス環境と同様に、育成・支援の方法に、明確な答えが見えないからである。もともと人の成長に正解などないのかもしれないが、組織が既存事業の拡大を最大の目標として掲げていた時は、とにかくハイパフォーマーを育てていればよかった。確かな見本もあったから、キャリアパスや具体的な育成プランの作成も容易だっただろう。しかし今、そう簡単にいかないのは既述のとおりである。

今すぐ3年先、5年先の目標を設定しようとしても、明示できる人はいないだろう。また、「3年後にはこういうスキルを身につけます」と宣言したとしても、実際にその年数が経過してみたら既に時代遅れになっていた、などという事態もあるかもしれない。そのため、将来の展望について尋ねられても、「目の前の仕事を一生懸命に行う」としか答えようがない、ということが往々にしてある。先段の「自分の価値を高めたい若者」でも述べたように、今の若手が自社のみでのキャリアアップを重視しなくなった理由には、こうした背景も影響があると思われる。

キャリアパスのモデルとして、ひと昔前は目標に向けて一直線に駆けあがる「ラダー型」が主流だったが、今はそれが変化してきている。目指す場所や道筋が多岐にわたり、上に登るだけでなく、横や斜めや時には下に降りたりすることも認められる「ジャングルジム型」や、“今・ここ”を起点として環境や状況の変化を踏まえて見える景色が変わっていく「万華鏡型」が提唱されるなど、キャリアパスにも多様性や柔軟性が重視され始めているのだ。現在、キャリアに対する考えは、一種の「踊り場」に来ているといえる。少なくとも、会社側から社員へ、一方的にキャリアパスを示す時代ではなくなった。

以前は、組織のために個人が存在しているという考え方が浸透しており、個人もそれを受け入れていたと言っても過言ではない状況だった。しかし現在はSNSの発展を背景に、時に、個人が社会に与える影響が企業の発信力を超えるケースまで見られるようになってきた。個人のキャリアはもはや、その時点で所属している組織のためだけに形成するものではなく、これからは、双方が合意しながらキャリアを作っていくことが必須になると考えられる。

先ほど「踊り場」と書いたが、一口に「キャリア」といっても、一律に語れるものではなくなっている現状がある。したがって今、キャリア形成支援には企業ごとに独自の工夫が求められる。組織はフレキシブルな対応力を保ちながら、スピード感を持って現状の改善を行ったり新施策を導入したりといった対策を打ち、人材が育つ環境を整備していくことが重要だろう。

今現在手がけている成長の支援策が正しいかどうか、現状から推し測ることはなかなか難しい。それでも、人材の将来、ひいては自社の未来に関わることである。目指す方向とは違うと感じたら、いったん立ち止まって変更や改善を行う英断も必要だ。人材の育成支援が果たす役割は、これまで以上に大きくなっている。現状の育成のあり方を見直し、デザインし直すことが求められている。

  • 労政時報
  • 企業と人材
  • 人事実務
  • 月刊総務
  • 人事マネジメント
  • 経済界
  • マネジー