東急リバブル株式会社では「お客様満足を起点に考え、行動できる社員を育成する」という教育方針のもと、「属人的な指導」から「標準化・体系化した育成プログラム及び評価基準」を策定することで、育成状況の見える化を図り、組織全体で若手社員を育成した結果、過去3年間で飛躍的な成果をあげた実績が高く評価され、第7回 日本HRチャレンジ大賞『大賞』に輝いた。「虎の巻プロジェクト」と銘打たれたこの取り組みが始まった経緯や、プログラムの内容、成功の要因などについて、同社 流通事業本部 業務管理部 人材育成課長 小山 健悟氏にお話しいただいた。

第7回 日本HRチャレンジ大賞『大賞』

東急リバブル株式会社

「プログラム×指導スタイル」の人材育成イノベーション:『虎の巻プロジェクト』

「お客様満足を起点に考え、行動できる社員を育成する」という教育方針のもと、「属人的な指導」から「標準化・体系化した育成プログラム及び評価基準」を策定することで、育成状況の見える化を図り、組織全体で若手社員を育成した結果、過去3年間で飛躍的な成果をあげた実績が高く評価されました。

ゲスト

  • 小川健悟 氏

    小山健悟 氏

    東急リバブル株式会社
    流通事業本部 業務管理部 人材育成課長

    1979年生まれ(39歳)。2001年4月 東急リバブル入社(新卒)後、津田沼センター、あすみが丘センター、西葛西センター、上野センターで売買仲介職を担当し、管理職(副センター長)に昇進。業務管理部人材育成課へ異動し、現在に至る。
お客様満足を起点に「プログラム×指導スタイル」の人材育成イノベーションを推進

採用数を拡大する中で「未習熟」レベルの営業担当者が増加

お客様満足を起点に「プログラム×指導スタイル」の人材育成イノベーションを推進
── 御社が「虎の巻プロジェクト」を始められた経緯を教えてください。

小山健悟氏(以下、小山) 当社では、2011年に全社ビジョンとして「『お客様評価』『生産性』『働きやすさ』の3つの業界No.1」を掲げるとともに、事業規模拡大を推進して採用を積極的に行っていました。そんな中、新卒や中途入社の営業担当者が増え、売買仲介部門では『経験値の少ない若手社員が半数』近くにまで達し、若手社員の育成が課題となりました。

そうした背景から立ち上げられたのが、お客様満足を起点に行動できる社員の早期育成を目的とした「虎の巻プロジェクト」です。従来は職場の先輩や管理職が個々の経験や考えをもとに後輩や部下を指導する、属人的な育成スタイルでした。それを標準化・体系化するのに加えて、お客様満足度向上のために何をすべきかを起点に考えられる人材の育成を目指して、「計画的な育成プログラム」と「指導スタイルの変革」を掛け合わせた人材育成イノベーションを行おうと考えました。そして、育成スピードを従来よりも1年前倒して、新卒は3年目、中途は2年目で一人前にすることを目標に定め、1年かけてプログラムを構築し、2014年度から「虎の巻プロジェクト」を始動させました。

── 具体的にどのような内容のプロジェクトを展開されたのか、ご紹介いただけますか。

小山 新卒は3年で一人前の営業担当者(習熟度レベル「シルバー」到達)に成長してもらうことを目標とし、『理解』『体得』『評価』『指導』の4つのサイクルを標準化・体系化しました。これを効率よく回すことで育成スピードを上げていくというのが、虎の巻プロジェクトの全体像です。

まず『理解』においては、「お客様の気持ち」や「営業担当者が考えることは何か?」といった考え方を結集したオリジナルの「テキスト」を使用し、プロセス別のポイントを学びます。次に『体得』においては、現場と本部トレーニング実践を繰り返します。そして、『評価』においては、お客様満足の実現に向けて身に付けるべき項目について評価を行います。最後の『指導』においては、この評価を基に、フィードバックや課題の抽出を行い、本人の気づきや成長を促していきます。

高業績の営業担当者の考え方と行動をまとめた「テキスト」

お客様満足を起点に「プログラム×指導スタイル」の人材育成イノベーションを推進
── 評価も含め、非常に大がかりな変革に取り組まれたという印象ですが、ポイントはどのようなところでしょうか。

小山 「テキスト」の作成にあたり、当社で高い実績を上げている優秀な営業担当者たちが、実際にどのような考え方や行動をしているのかをまとめ、「お客様の心をくみ取り、提案する言葉や考え方」としてプロセス別に体系立てたことが大きいと思います。この営業担当者たちには、当初のプログラムを設計していく段階からワーキンググループに加わって意見を出してもらいました。やはり、優秀な営業担当者の考え方ですから、テキストにせよプログラムにせよ、社内の誰にとっても納得度が非常に高く、若手社員もぜひ真似したいと思うようなものになったと思います。

── 現場のエース社員を育成部門に引き抜かれては困るといった声はなかったのでしょうか。

小山 そういう気持ちは本音としてはあったかもしれません。しかし、経営層が会社のビジョンを掲げている中で、それを実現させるためには必要なことなのだと現場も理解し同じ方向を向いたと思っています。

全営業担当者が持つiPad用に「テキスト」をアプリ化


小山 「虎の巻プロジェクト」のポイントをもうひとつ挙げると、営業担当者にiPadを配布した上で、「テキスト」をiPad※用にアプリ化し、考えながら学べるタップ式テキストにしています。現在300以上のシーンがあり、営業担当者はいつでもどこでもテキストを見ることができます。例えばお客様を訪問する前に、同じシーンのテキストを見て、どのような対応をすればよいのか事前に考えることもできます。このiPadは全営業担当者が持っていますので、若手に限らず、すでに習熟度レベル「シルバー」に到達している先輩社員もテキストを見て学び直し、参考や気づきになっています。

また、iPadには、東急リバブルの基礎知識、不動産仲介の基礎知識を学ぶための「テキスト」も入っています。これらの業務知識を習得するために、毎月、iPadに単元別に問題を配信して「テスト」を行いますが、結果は自動採点され、100点取得できるまで繰り返し実施する仕組みです。知識の定着を確認するために「卒業テスト」を行って合否判定も行います。育成対象の営業担当者は自己学習するのも、テスト期間中にテストを受けるのも、iPadを使って時間と場所の制約を受けずに行えるようにしています。

営業担当者に必要な育成項目スキルを分類し、共通の評価基準を設定

お客様満足を起点に「プログラム×指導スタイル」の人材育成イノベーションを推進
── 習熟度レベル「シルバー」到達で一人前の営業担当者と定義されていますが、どのように定義や評価を行っているのですか。

小山 習熟度レベルは、入社当初が「スタート」、半人前のレベルが「ブロンズ」、営業担当者として一通りのことができる一人前のレベルが「シルバー」という位置付けです。営業担当者が備えるべきスキルを分類し、共通の評価基準を定めて、各年次においてどのレベルに達していればブロンズなのかシルバーなのかという目標を設定し、評価を定期的に行っています。

── 新卒で入社した社員の場合、3年目の「シルバー」到達へ向けて、どのような流れで育成していくのでしょうか。

小山 1年目はインプット中心のプログラムですが、単なる暗記ではなく、覚えた知識を使って、いかにお客様に提案ができるかが重要です。例を挙げれば、「テキスト」で業務知識や考え方を身に付けるほか、毎日、アウトプットができる口頭での「テスト」を各現場で実施しています。テスト前日の夕方、育成対象の社員に「明日は虎の巻テキストのこのページから出題します」と人材育成課からメールで知らせます。対象者はiPadで予習をして、翌日、朝礼などの場で「こういうケースなら、あなたはどう考え、お客様にどう答えますか」という質問に答えます。その場で、先輩社員たちが、「自分には以前こういう経験があり、こういう対応をしたよ」といった助言を行い、それが、まだ経験の少ない若手社員の学びとして蓄積されていく仕組みです。

そして、1年目終わりに「ブロンズ」到達を目指し、2年目からはアウトプット中心のプログラムとなります。各「テスト」も継続して行いますが、学んできたことをお客様にどのように表現し、自分の言葉で伝えられるか、先輩の指導員をお客様役として、本社でロープレ研修を定期的に行っていきます。こうして、3年目終わりまでの「シルバー」到達を目指していきます。

「3年で一人前の営業担当者」を目標に掲げ、100%達成

お客様満足を起点に「プログラム×指導スタイル」の人材育成イノベーションを推進
── 「虎の巻プロジェクト」の成果について教えてください。

小山 入社3年目の「シルバー」到達割合が、2014年度の約30%から2016年度は83%と大幅に向上し、2017年度は100%を達成しました。そのほかにも、定期的に行う評価は結果をデータ化し、育成状況を見える化できるようになったことで、配属先や人事異動による影響のない、一貫性を持った育成体制が実現できています。育成に関わる管理職、先輩社員を巻き込み、1人の育成に全メンバーが関わる指導スタイルに変革したことにより、育成に対する社員の考え方、意識が大きく変わったことも重要な成果だと思います。

── 素晴らしい成果です。ただ、これまでのやり方を大きく変えるとなると、特に管理職の方々には抵抗感もあったのではないでしょうか。成功のポイントは何だったとお考えですか。

小山 経営層・本部事務局・現場のトップが強い意志を持ち、このプロジェクトの必要性について発信し、会社の本気度と重要性を社員に周知し、それを全社員が理解し取組んできたことが大きかったと思います。

── 採用や若手社員の離職率などへの良い影響も出ていますか。

小山 このような研修制度・育成プログラムがあることに魅力を感じて入社してくる営業担当者が非常に多くなっていますし、実際に入ってみると、現場と本社が連携してしっかりと育成していきますので、以前に比べると離職率も低下傾向にあります。

── 成長を促すだけでなく、エンゲージメントの向上にも寄与するという副産物まであったのですね。最後に今後の展望をお聞かせください。

小山 スタートから4年目にして、入社3年目の「シルバー」到達100%を達成することができましたが、これがゴールではありません。今後も、社員が成長を続けているか、お客様にご満足いただくためのプログラムになっているか、といった時代に合わせた検証を行い、さらなる内容の改善を進めていきたいと考えています。

取材を終えて

東急リバブル株式会社では「虎の巻プロジェクト」開始にあたり、現場の精鋭6人を本部スタッフ部門に異動させ、推進組織「人材育成課」を新設したという。現場で活躍してきたエース社員を巻き込んだことはプロジェクト成功の大きな要因といえるだろう。印象に残ったのは、「昔は『私の背中を見て育ちなさい』といった指導方法の管理職もいたが、今はそれでは人が育たない」という小山氏の言葉。属人化の要素を排した、学び、評価、指導に関する標準化・体系化、iPadの活用など、これからの時代の人材育成手法について、新しい方向性を示す貴重な事例だと感じられた。
※iPadは、Apple Incの登録商標です

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