いつまでもあると思うな親と金と我が社の社員|採用、育成・研修、労務・人事に関する情報ならHRプロ

人事にプロのサポートを―新卒採用、中途採用、人材育成、研修、人材マネジメント、労務、人事システム、適性検査ならHRプロ

いつまでもあると思うな親と金と我が社の社員

HRプロ編集部
2017/07/04

何かとトラブルになりがちな社員の「引き抜き」。場合によっては会社の死活問題にもなりかねない社員の引き抜き行為は、本来許されるものなのか、許されるとすればどの程度なのか、防止策はないのか。トラブルに巻き込まれないために、引き抜く側、引き抜かれる側それぞれの立場での注意点を考える。
劉備「諸葛亮さんはいるかい?」
童子「留守です」
−数日後−
劉備「今日はいるかな?」
童子「留守です」
−数日後−
劉備「今日は……」
童子「いるけど昼寝をしています」
劉備「では起きるまで待とう」

……こうして劉備は諸葛亮を得て、軍は大いに力をつけて天下にその名を轟かせ、諸葛亮もまた劉備亡き後も蜀の国を支える忠臣となった……というのが有名な「三顧の礼」の故事成語のあらましである。目上の人間が礼を尽くして人材を招いたという話であるが、こうしたことは現代のビジネスシーンにおいてもしばしば見られる。例えば退職した元社員が独立し、元の職場の社員を引き抜いたりすることなどが挙げられよう。しかしこの社員の引き抜きの場合は、「三顧の礼」のように美談で語られることはまれで、大抵の場合トラブルに発展する。感情論はこの際置いておくとして、場合によっては会社の死活問題にもなりかねない社員の引き抜き行為が、本来許される行為なのか、許されるとすればどの程度なのか、防止策はないのか、という部分がこの問題の本質である。
そうしたトラブルに巻き込まれないために、引き抜く側、引き抜かれる側それぞれの立場でどのような点に注意すればよいであろうか。

《引き抜く側の注意点》
特別な場合を除き、基本的に社員の引き抜き行為については、「不法行為→損害賠償責任」という構図が成り立ち得る。そこで、引き抜きを行う側としてはこの不法行為が成立しないように心を配る必要がある。そして、この点についてはラクソン事件(平成3年2月25日東京地裁)というリーディングケースがあり、次のような基準が示されている。
(1)単なる勧誘はOKだが、社会的相当性を逸脱し、極めて背信的な方法はNG
(2)事前予告を行う等、会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべき
これに照らすと、「隠れてこっそり計画」「大人数または重要人物を突如引き抜く」「相手の会社にダメージを与える目的がある」などの事実がある場合は不法行為が成立して、損害賠償責任を負うことになる可能性がある。実際に引き抜き行為を行う場合は、この「社会的相当性を逸脱した違法行為」をしていないかという点に特に注意したい。

《引き抜かれる側の注意点》
自社の社員が引き抜かれる背景には、必ずと言って良いほど現在の職場に対する不満がある。「給料が低い」「ボーナスがない」「昇給がない」「休みがない」などの労働条件に関するものから、「相談する相手がいない」「パワハラ等のハラスメントがある」「とにかく嫌いな人がいる」など人間関係に関するものまで、その内容は多岐にわたる。引き抜きを予防したいという労務相談も時折いただくが、その根本的な対策はこうした労務管理全般に対する普段の取組みがカギを握っていると言えよう。特に、社内でなんでも言い合えるコミュニケーション環境は重要である。最近目にしたケースで次のようなものがあった。
「独立した元社員から勧誘される」→「同僚に相談」→「同僚から上司へ」→「上司から社長へ」→「全員で話し合い」→「問題点の改善行動」→「転職はせず」
社内コミュニケーションが上手くいっていなければ、ひょっとしたら引き抜かれていたかもしれない。そして裏を返せば、ちょっとした社内の取組みで引き抜きに対抗できることもあるということでもある。何よりの予防策は、魅力ある職場づくりなのだ。

すべての日本国民は転職の自由が保障されている(憲法第22条)。つまり、今いる社員はいつ転職していなくなっても全く不思議ではなく、ましてや超が付く人手不足時代である今は、ますますそのリスクが高まっているといえる。「いつまでもあると思うな親と金……と我が社の社員」である。御社では社員に対してあたかも結婚40年の夫婦のように“当たり前”の意識で接し過ぎてはいないだろうか。感謝の気持ちを伝える、思いやりの心を持つ等、日々のコミュニケーションから見直してみるのも良いかもしれない。


出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

プロフィール

HRプロ編集部

「採用」「教育・研修」「労務」「人事戦略」など、人事がイマ知りたい情報をご提供します。 押さえておきたい基本知識から、最先端のニュース関連情報、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届け。

2019卒版 インターンシップ プログラム作成完全マニュアル申込受付中

関連リンク

  • いいとこ伸ばしとモチベーションアップ

    管理職研修の後に管理職の方と話していると、新入社員や若手社員に対して、褒めるのがいいのか叱るのがいいのかという質問をよく受ける。そこで、ある心理学者E.B.ハーロックの実験をご紹介する。

  • ご存知ですか?このマーク〜人材確保への“遠くて近い”道のり(1)〜

    平成29年5月以降、厚生労働省WEBサイトで毎月更新されている「労働基準関係法令違反に係る公表事案」は、コンプライアンスの観点でのいわゆる“ブラック企業”リストと呼べるだろう。 いっぽうそれとは対照的に、労働安全衛生や両立支援、女性活躍、若者雇用等に優れた事業者を省庁レベルで認定・公表する制度もまた、存在している。 全4回にわたる連載の中で、これらの認定を示すマークをご紹介し、人材確保へ向けた課題解決の糸口をお示ししたい。

  • 「自宅の近くにサテライトオフィスがあれば働ける可能性のある人」は135.9万人 ―― パーソル総合研究所が潜在労働力の推計調査結果を発表

    総合人材サービス、パーソルグループの総合研究機関である株式会社パーソル総合研究所は、サテライトオフィスの設置により、何人の潜在労働力を顕在化できるかを推計する調査「サテライトオフィス設置による雇用創出推計」の結果を発表した。

  • 飲みニケーションに頼っていないか?部下から相談を受けたときの対応方法

    ある企業で管理職研修をしていた時に、このような事例についてどのように対応するか聞いてみた。 「部下に普段とは違う仕事上のミスが目立ち、ひどく元気がないようにみえる。あなたは上司としてどのように対応するか?」 1. そのうち慣れるだろうと考えこのまま様子をみる 2. こんなミスは君らしくないと鼓舞する 3. プレッシャーが強すぎたのだろうと考え、責任者を他の人と変わってもらう 4. 体調が心配と思い本人に声をかけ、就業時間中に話を聴く 5. 体調が心配だが終業時間中に話を聴くのははばかれるので、居酒屋で飲みながら話を聴く

  • 「未払残業代請求」における背景と対策

    「未払残業代請求に関する無料相談なら、〇〇法律事務所へ!」 上記は、ラジオから流れてくるCMだ。ブラック企業大賞なるものも毎年発表されているように、長時間労働に対する監視・監督の目は厳しい。にもかかわらず労務管理がずさんであったり、認識不足もしくは無知・不十分等、対応が遅れていることによって未払残業代を請求されたり、請求されるリスクを負っている企業が多いのではないか。

  • 働き方改革でもらえるオススメの助成金 (1)職場意識改善助成金

    最近、いたるところで「働き方改革」という言葉を耳にすることが多くなった。政府は一億総活躍社会の実現に向け、本気で労働環境の改善に取り組んでいて、我々の生活にも浸透してきているということである。また一方、「助成金」とは、国や自治体など公的機関が政策を推進するために、その内容に沿った活動をする企業や団体の活動を支援する目的で提供する、返済する必要のない資金のことである。「政策の内容に沿った活動を支援」するのが目的なので、この「働き方改革」と「助成金」は密接な関係にあることは容易に分かる。そこで今回は働き方改革の取組で受給できるオススメの助成金の中から職場意識改善助成金を紹介していく。 職場意識改善助成金は、計5つのコースがあり、自社に合ったコースが選べるが、今回はオススメとして今年から新設された「勤務間インターバル導入コース」と締切間近の「職場環境改善コース」を紹介する。