平成29年の労働行政運営方針が公表された。まだ抽象的ではあるが「働き方改革」という言葉が前面に出ている。これらが意味するものは何であろうか?企業の実務上、また従業員個々のキャリア形成上、どのような影響があるのであろうか。
平成29年度労働行政運営方針と「働き方改革」

平成29年度労働行政運営方針の注目事項

平成29年度の労働行政運営方針が公表された。
厚生労働省は、毎年度「地方労働行政運営方針」というものを設けて、各都道府県労働局の運営方針を示している。各都道府県労働局は、その方針を基本に各都道府県毎の事情に即した、その年度の行政運営計画を立てる。
今年度の運営方針は下記の通りである。

「平成29年度地方労働行政運営方針」の策定について
 
ここ数年の傾向として「過重労働」への取り締まりが強化されているが、今年度はより一層力を入れていくことが推測される。また、報道等においても周知されているとおり「働き方改革」という言葉も前面に押し出されている。
今年の注目する点について、いくつか見ていこう。

【過重労働防止】
過重労働により健康を損ねること、最悪、過労死に至ることを防止することが最重要視されている。以前は、残業をさせていても「残業手当」を支払っているから大丈夫、という認識も少なくなかったであろうが、この考え方は変えていかねばならないだろう。
36協定の適正な締結と届出。そして、協定時間を超過しないこと。これを遵守することが求められる。
報道でなされている長時間労働の上限規制の法制化は未だされていないが、月間80時間を超える残業時間が発生する場合にはその抑制と従業員の健康管理に気を配る必要がある。

【マタハラの禁止】
女性労働力の活用に力を入れている。産休、育休といった制度の利用を阻害したり、出産後の職場復帰を妨げるような言動=マタハラ問題については、通達も出された。

雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために

マタハラ問題とならないよう、より一層の配慮が必要になってくるであろう。

【介護離職ゼロ】
家族の介護を原因とする離職を無くしていく為の施策を国も推進してくるであろう。育児介護休業法の改正により、今年の1月から介護休業が取得しやすくなった。しかし、これに留まらず介護離職ゼロに向けた職場環境整備のための法整備や助成金が、今後次々と出されるだろう。

【若者の正社員化促進・高年齢者の活躍促進】
現状の人材不足を機に、非正規雇用の正規雇用化・待遇改善を進めようという意向が強く出ている。「新卒者の正社員就職の支援」「フリーター等の正社員化」「ニートに対する就労支援の推進」「若者の正規雇用化の為の職業訓練」等がこれにあたる。
また高年齢者がより長く働けるような環境作りの意向も強く出ている。「企業における高年齢者の定年延長・継続雇用の促進等」等である。

【障害者、難病・がん患者等の活躍推進】
まさに「一億総活躍プラン」である。障害者雇用については、平成30年度より法定雇用率の算定基礎に精神障害者が追加される法定雇用率の見直しもなされる。また、これまで難病やがんといった病気により離職を余儀なくされたようなケースを無くし、療養しながら働き続けられるための環境整備が進められるであろう。

【テレワーク・在宅就労の推進】
仕事と子育て等を両立するため等ワークワイフバランスを推進するための一つとして、テレワーク・在宅就労の推進を掲げている。これらを導入しやすくするための個別企業への支援・助成金にも注目である。
ただ、テレワーク・在宅就労は、公私の区別がし辛いが為に運用次第では、労働環境の悪化にもなりかねない。その点においても、注意喚起を促す内容になっている。

「働き方改革」とは?

近年の労働行政運営方針において、私が最も注目している言葉の一つは「生産性向上」である。今年度の運営方針でも、「『日本再興戦略2016』に示されている『2020年度GDP600兆円』という目標を達成するためには、個々の労働者が生み出す付加価値(労働生産性)を高めていくことが不可欠である」としている。
 
これは今年の大きなキーワードの一つ「働き方改革」にも大きく連動している。そもそも「働き方改革」とは何か?
それは「労働者個々の生産性を向上させた上で、健康でより長く(高齢まで)働けるようにすること」であろう。

まず、健康が損なわれるような過重労働は防止する。出産や育児、家族の介護といったライフイベントやがん等の病気になっても、就業機会が絶たれないように環境整備をする。また、若い頃から正規雇用され、知識と経験を身に付け、テレワーク等の多様な働き方を可能にして、生産性を向上させる。そして、できる限り長く高齢まで元気で働けるようにする。

背景には、今後予想される労働力不足や、高騰する医療費・社会保障費の抑制といった問題もある。

「働き方改革」とは、そういうことではないだろうか?今年度の労働行政運営方針を読んでいて、感じたことである。


オフィス・ライフワークコンサルティング
社会保険労務士・CDA 飯塚篤司

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