2016年1月17日、ソフトウェア開発のサイボウズが同社での仕事を複(副)業(以下複業)にする人材を募集すると発表した。安倍政権が働き方改革のなかで、副業容認の方向性を打ち出していることもあり、今回の同社の発表は大きな注目を集めている。

サイボウズが「複業採用」を行った理由はどこにあるのか。なぜこの制度が必要だったのかを考える。
サイボウズが「複業」採用を開始!あえて副業で働く人を採用する意味

サイボウズの「複業」採用とは?社員の副業許可の次は本業のある人を積極採用

「人は誰しも複数の活動に携わっている」という考え方から、サイボウズが使用している言葉だ。同社は2012年に複業を解禁しているが、それ以降使われ続けている言葉でもある。

一般的な「副業」の意味合いは、本業がひとつあり、空いた時間でサイドビジネスを行うという考え方が強い。しかし「複業」では、本業をひとつと定義せず、様々な業種で仕事を兼務すると考える。広い意味合いでは、育児や家事も複業に含まれるというのが、同社の認識だ。

今、ダイバーシティ経営が注目され、多種多様な人材の採用に各企業が力を入れているが、サイボウズはずっと前から「多様性」を尊重し、多様な人材の採用を進め、その多様な人々がチームとしてつながる組織を目指してきた。そのチームとの距離感やコミットのしかたは、それぞれの事情や立場によって違ってくるのは当然と考え、「100人いれば、100通りの働き方」があるという人事制度の基本的な理念が生まれた。これにより、2012年の社員の複業解禁、そして今回の複業採用に至っている。

副業採用では、個々の働き方にとらわれず、サイボウズの掲げる理念や考え方に共感し、ともに邁進してくれる人材を募集している。雇用形態はいわゆるサラリーマンでも、個人事業主でもかまわないが、現在の勤務先から副業許可を得ていることが条件となる。

サイボウズが考える複業のメリットとは

同社の情報サイト「サイボウズ式」には、サイボウズの青野慶久社長が個人向けメディアサービス「note」に書いた記事が紹介されている。題して、「副業禁止を禁止しよう」。その中で、青野社長は複業のメリットついて以下のように述べている。

▼人材不足の解消・新たなイノベーションの創出
複業が進めば、ひとつの企業で働く人数は単純に増えるので、人材不足の解消につながる可能性がある。また異業種で働く人材を迎えることで、これまでとは違ったイノベーションが生まれることも想定される。

▼従業員のスキルアップ
従業員は様々な業種で力をつけることができるので、結果としてスキルアップにつながることが想定される。業務的な知識や経験だけではなく、複数の仕事を管理するためのマネジメント力や、短時間で成果を出すための仕事の方法など、より実践的な能力ほど、複業で底上げされやすいといえるだろう。

▼ハイスキル人材をローコストで雇用可能
複業では、これまで給与面で雇用が難しかったハイスキル人材を、ローコストで雇用できる可能性がある。
複業は、例えばAの仕事は週3日、Bの仕事は週2日というように、ひとつの仕事にかける勤務時間が、通常の就業時間よりも比較的少ない人が多い。そのため、就業時間をベースに給与交渉を行った場合、通常よりも少ない給与で人材を雇い入れることができる。

その他にも、企業としてのベンチャー支援につながったり、リタイアした人材に給与問題を心配せずに再度活躍してもらいやすくなったりと、様々なメリットがある。

もちろん複業には、情報漏えいや人材流出などのデメリットも想定される。これらのリスクを考えると、企業としてのマネジメント力も試させることになる。


働き方改革で副業禁止から副業容認へと変わる流れに

副業を認めるのは、サイボウズのような一部企業だけではない。終身雇用が崩れていくなかで、今後は国としても副業を推進する流れに舵を切る方向だ。

2016年10月には、政府が「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)会合で、副業・兼業の環境整備を進める方針を打ち出した。また厚生労働省では、企業の就業規則の参考資料として用いられることが多い「モデル就業規則」について、副業・兼業に関する記載内容を変更すると発表している。これまでは「原則禁止」という記載だったが、今後は「原則容認」の表記に切り替えるようだ。

大企業では副業容認の動きが見られるが、中小企業ではまだまだ抵抗を持つところが多い。東京商工会議所が2016年12月に行った「中小企業の景況感に関する調査」によると、現在も、そして将来的にも副業を認める予定がないと答えた企業は、全体の43.0%にのぼっている。

しかし、「人が集まらない」「ハイスキル人材を雇用したいが、給与の問題で難しい」といった、中小企業が抱えがちな問題は、副業(複業)で解決の糸口がみえてくる可能性がある。今後は国が旗振り役になることで、中小企業にも広まるのではないだろうか。

働き方自体が大きく変わろうとするなかで、他で得た経験や人脈を、新たな分野で活用したいと考えるハイスキル人材は多いはずだ。この点に着目し、採用の在り方を改めて見直す時期が来ているのかもしれない。

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