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社保未加入なら建設業許可を取り上げ〜建設業における若年技能者の処遇改善策

HRプロ編集部
2015/04/20

採用難・人材不足問題に端を発し、建設業における若年技能者の処遇改善が求められている。一般社団法人 日本建設業連合会が2015年3月20日に公表した「再生と進化に向けて―建設業の長期ビジョン―」によれば「間もなく団塊世代はいなくなり、100万人規模の大量離職時代がやって来る。早急に女性を含めた多くの若者を建設業に招き入れ、世代交代を実現しなければ、10年を経ずして建設業の生産体制が破綻しかねない危機的な状態に至っている」と指摘している。

厚労省と国交省が協力して社保未加入から建設業許可を取り上げ

これに先駆けて、若年層の労働力確保策として建設業界では、平成24年から厚生労働省と国土交通省が協同して社会保険の未加入事業所を一掃すべく取り組みを開始している。具体的には、社会保険に加入義務があるにも関わらず加入していない会社を対象に、一定の指導期間を経ても改善されない場合は最終的に建設業許可を取り上げるというものだ。

建設会社にとって、許可証が取り上げられることは営業活動ができないことを意味し万死に値する。それでも、法の要請に従った適正手続を取らない会社を「不良不適格業者」と指定し、業界からの徹底排除に踏み切っている。省の垣根をまたぎ、なぜここまで強行的に舵を切ったのだろうか。それは、先に述べたように建設業界に若者が入ってこないのも、入ってもすぐに辞めてしまい技能労働者が育たないのも、社会保険や労働保険といった法定で義務付けられている最低限の加入徹底がなされていないことが一要因であるという結論に至ったからである。

社会保険未加入がもたらす3つの問題点

そこで今回は、労働保険や社会保険に未加入の事業所を放置することの影響や問題点を考えてみたい。それは大きく次の3つである。

第1に、若年労働者にとって最低限のセーフティネットである社会保険への加入が確保されない以上、自己の将来設計や職業人生を描けないことにある。不安定な土壌で技能向上や定着率向上を求めることはそもそも無理がある。その意味でも、先に触れた若年層の処遇改善策は喫緊の課題であると言えよう。

第2に、市場における公平・公正な取引を考えた時、社会保険に加入し法定福利費を適正に負担している企業と、そうでない企業とでは明らかにコスト負担が異なるという点だ。当然のことながら、法定費用を適正に負担している会社の方が、労働者1人あたりに占める労務費の割合は高くなる。一方、負担しない企業はコストが抑えられ有利に働く。これでは企業間の取引コストを考えた時、公平・公正な取引と言うことはできず、正直者がバカを見るような状況を引き起こしてしまう。

第3として第2に述べたことの関連になるが、法定福利費を適正に負担したくとも、これをカバーするだけの労務費単価で取引をしてもらえず、頭を悩ませている中小零細企業が一定数存在していることは忘れてはならない点だ。

このように、行政と業界が一体となって若年技能労働者の処遇改善策に取り組む姿勢は一定の評価ができる。日本の建設業界における労働者の技能は世界をみても目を見張るものがある。だからこそ、当該技能が衰退することなく技能伝承をしていかねばならない。しかし、一企業の経営努力も去ることながら、特に中小企業においては企業努力だけで課題解決できない問題も孕んでいることがわかる。法で要請された適正負担を求める一方で、それを実現可能にする環境作りとして必要な規制は国が積極的にすべきであると筆者は考えている。それを指摘して本稿の結びとしたい。

市場経済である以上、少しでも安い方に流れるのは当然の行為である。であるが故に、筆者は市場経済が万能だとは思わない。市場の行き過ぎがあれば一定の歯止め(規制)は必要である。法定された適正負担を企業に求める以上、最低価格(ライン)が存在するからだ。社会保険への加入促進も重要であるが、あわせて取引先企業からの圧力による「経営合理化」という大義の単なる価格ダンピングも早急に是正策を講じていく必要がある。既に国交省ではこれに対応する旨を発表しているが、まだ重層下請構造の末端に位置する会社にまで行き届いていないのが現状だ。

適正価格による取引ができなければ適正な法定負担などできるはずがない。無理のある市場取引の黙認は、その業界の、長期的な視点でみれば日本全体の国力低下を招くことに繋がる。市場原理主義の台頭により、何でも規制緩和される傾向にあるが、必要な規制はあって然るべきだ。必要な規制は適正な市場取引を維持することに繋がり、延いては若い世代が将来に期待を持てるような雇用環境が整えられる第一歩だと思うのである。


SRC・総合労務センター、株式会社エンブレス 特定社会保険労務士 佐藤正欣

著者プロフィール

HRプロ編集部

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