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「高度プロフェッショナル労働制」の危険性

HRプロ編集部
2015/02/25

いま日本の労務管理のあり方が模索されている。労働政策審議会(労働条件分科会)において「労働時間法制のあり方」が検討されているからだ。先日の報道で「年次有給休暇の取得時季を会社側に義務付ける」といったものも、この分科会で検討されている内容の一つである。本稿執筆時点において、まだ何も確定しているわけではないが、今回はこの分科会で検討されている事項のうち「特定高度専門業務・成果型労働制の創設」について、危惧する点を指摘したい。

高度プロフェッショナル労働制とは何か

 まず、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)とは一体何なのか概要を確認しておこう。これは、労働時間ではなく“成果”を基準とした働き方を希望する労働者であることを前提に次の@〜Bをすべて満たした場合に制度として利用できるというものだ。

@一定の年収要件(1,075万円を基準に検討し省令で規定予定)であること。
A職務の範囲が明確で高度な職業能力を有していること。
B長時間労働防止措置を講じること。

例えばAの具体的な職務として挙げられているのが、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務、コンサルタント業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等である。最終的に省令で規定することが予定されている。

Bは「健康管理時間(=事業場内に所在した時間+事業場外で業務に従事した労働時間)」が1月に一定の時間(省令で規定予定)を超えないよう、また超えた場合は医師の面接指導を一律に実施することを求め、休日は4週間を通じて4日以上+年間104日以上の休日確保が求められている。

これらの要件を満たすと、使用者側は時間外協定の締結や割増賃金の支払義務等が除外され、労働者側は成果さえ上げれば、柔軟な働き方や短い勤務時間で高い報酬を得ることが可能になるかもしれない。労使双方でメリットがあるだろうとの目論見だ。

職務の客観化・標準化なしには成り立たない

筆者が危惧する点は大きく次の2点である。
第1は「特定の高度な職業能力」と範囲を狭く設定されているものの、成果主義を想起させる点だ。なぜ過去に失敗で終わった成果主義を蒸し返すのか。その最大の理由はサービス産業が主となった現代の日本にとって、一昔前のように労働時間と生産性は必ずしも比例関係でなくなっている点が大きいと思われる。長時間働いたからといって必ずしも成果(利益)を生みだせるわけではない。労働時間と賃金を縛る労基法は現代に馴染まないということなのだろう。ただこの前提に立つならば、過去に日本が採ってきた能力主義や成果主義の反省を生かさなければならない。すなわち、制度を有効に機能させるためには上述Aが非常に重要なのだ。

西澤弘著「職業紹介における職業分類のあり方を考える」のなかに興味深い記述がある。一部を抜粋しよう。それは

「ILOの国際標準職業分類は職務分析の概念を使い職務と課業によって構成されているのに対し、日本は『個人が継続性に行い、かつ、収入を伴う仕事』を職業と定義しているだけで、職業の概念構成に踏み込むことは避けている」

という点だ。日本は人の処遇が中心で職務概念が極めて希薄であり、職務の客観化や標準化をはじめ体系的な職務の検討をしてきていない。成果を中心とした処遇に切り替えるのであれば、個々の職務を体系化し明確にする作業を省いてはいけない。日本で業績・成果中心の諸制度がうまく機能してこなかったのは、この部分を飛ばしているからであることは周知の事実である。しかし、今回も新制度の運用手法ばかりが検討され重要な職務という論点が置き去りにされている感が拭えない。

第2は、制度創設時は限定的に導入し、後に年収要件や職種の緩和がされないかという点である。前述した個々の職務の明確化ができなければ日本の雇用社会全体の崩壊に繋がりかねない。国が職務を体系化し、職業訓練政策を並行して打ち出す必要がある。そうでなければ結局、職務を明確に定めないがために、あれもこれもと仕事の負担が増えなし崩しになる。それは長時間労働を助長し、職場の荒廃を招くことに繋がる危険性が高い。また、職務中心に切り替えることは、統一的な基準が企業の外に置かれるべきである。各々の体系化された職務に係る公共職業訓練の場を持たなければ人材の使い捨てになることも懸念される。

成果主義やホワイトカラーエグゼンプションも、今回の高度プロフェッショナル労働制にしても、本質は賃金の分配方法をどうするのかという点に帰着する。会社へ貢献した者に対し高賃金・高待遇を施したいという方向性は、成熟化している日本にとって無視できない視点であることは確かだ。であれば、枝葉だけではない人を中心とした管理から職務を中心とする根幹の議論もあわせて展開して欲しいものである。


SRC・総合労務センター、株式会社エンブレス 特定社会保険労務士 佐藤正欣

著者プロフィール

HRプロ編集部

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