経営×人事×タレントマネジメント
Vol.7 キャリア形成の主体は社員。全ポジションの社内公募、管理職のノーレーティング制度を開始し、働き方も評価も変えていく
タレントプランニングのシステムは全世界共通
タレントマネジメントのシステムについて、活用状況を教えてください。
グローバル共通のタレントプランニングのシステムを構築し、評価制度なども含めて、すべてこのシステムを使って行っています。例えば、あるポジションのサクセッションを検討する場合やグローバルで実施するキータレント向けのトレーニングプログラムを行うときは、候補者についての情報を全世界から集約し検討が行われる形です。
お聞きしていると、制度的な部分とシステム的な部分が連携して、非常に先進的なタレントマネジメントを実現されているなという印象です。
取り組み始めてから時間も経ち、試行錯誤しながらやってきましたので。ただ、制度は新しいものに変わってきましたが、マネジャーがキーであるということと、そのマネジャーをサポートするのが人事の役割であるということは一貫して変わりません。
制度や役割が変わってくる中では、マネジャーの方々も人事の方々も、自分自身トランスフォーメーションすることが求められてきたと思います。
そうですね。でも、結局、社員のことがわかるのは身近な上司であって、会社が大きな人事部門を持って、人事が人の配置もすべてわかって采配していくということではありません。ファイザーでは人事などはビジネスを実現するためのサポート機能という位置付けです。システムにしても、同じ形で全世界で実施できるよう効率化を進め、浮いた時間や予算をビジネスに投資しようという考え方です。
多くの役員が卒業「ファイザービジネススクール」
将来、経営を担うハイポテンシャル人材の育成という部分では、どのような取り組みをされていますか。
グローバルで提供しているトレーニングプログラムがいくつかありますが、そのほかにも、国内の取り組みとして、ファイザービジネススクールというものをかなり前から続けています。半年間にわたって月1回、2~3日程度、各部門の若手タレントが集まり、ビジネスに必要な高度な知識・スキルや問題解決力を学んだ後、チームごとに経営の課題を見つけて解決策をプレゼンするといった内容で、ミニMBAのようなイメージです。そこには役員が毎回2人ずつ参加して、質疑応答をしながら自分たちの考えを説明するということも行っています。今の役員は、多くはこのビジネススクールを卒業しています。
役員が出てくるパイプラインができているんですね。そういうプログラムを日本法人として独自に実施してこられたと。
このプログラムは国内で長い歴史を持つものです。また一方で、日本法人をどういう会社にしていきたいかということから始まり、私たちのビジネス戦略を実行するためにはどういう人材が必要で、そのためにはどういう人事制度やチェンジマネジメントが必要かといったことは、私たち人事がディスカッションして、変革を進めてきました。もちろんグローバルで展開しているものに準拠するようにはしていますが、本社が作った制度をそのまま受け渡すのではなく、日本に合ったものにして展開しています。
恒常的残業ゼロを目指し、働き方改革を役員主導で推進
今日のお話で、ファイザーさんが個々の社員の「こういう仕事をしたい、こういうキャリアを作りたい」という考えを認めて、実現できる機会を提供されているというのは、ダイバーシティのマネジメントとも少し重なってくるように感じます。例えば、日本法人の女性活躍推進についてはどういう状況ですか。
役員レベルでは、今、4分の1が女性です。
えっ、もうそんなに多いんですか。すごいですね。
ただし、管理職の女性比率でいえばまだまだ低いのが現状です。社員の構成では営業職(MR)がマジョリティなのですが、定期的に転勤ということがどうしてもありますし、医療関係者の方々を対象とした研究会や講演会を平日の夜や土日に行うこともありますので、結果的に女性比率が伸び悩んでいます。
そうなると、やはり、女性全体の管理職比率はなかなか上がりませんね。
ただ、女性管理職比率を上げることが目的なのではなく、大事なことは、考え方も能力も多様な人たちが活躍できる環境をつくることですから、そのために、働き方改革を推進しています。その一環として、今後、MRの転勤を減らすようなことも検討していく考えですし、私たちは「“ゼロ”カルチャー」と呼んでいますが、社内で「3つの“ゼロ”」を実現しようという活動を展開しています。
どのような取り組みですか?
1つ目は、ヘルスケア企業として、2020年までに“喫煙者ゼロ”。2つ目は、当然のことではありますが、“コンプライアンス違反ゼロ”。3つ目は“恒常的残業ゼロ”です。残業をしたらほかの日は早く帰るというようにして、恒常的な残業はなくしましょうということです。
喫煙者ゼロもすごいですが、全社で恒常的残業ゼロというのは簡単ではないでしょう。まさにカルチャーを変えようと。
これまでも残業を減らす取り組みはしてきて、本社は以前から平日の定時は18時までですが、金曜は16時までです。また、ウイークエンドフレックスも2008年から導入しています。これは月間で所定労働時間に達しているか、もしくは達することが見込まれれば、金曜の午後は就業することなく帰っていいという制度です。
そんなに早くから、かなり先進的な取り組みをされていたんですね。
恒常的残業ゼロを目標にしようということが社長の発案で決まり、役員主導でやるのだということで今年から展開しています。ラインマネジャーを対象とした月1回のピープルマネジャーミーティングに役員が行って、パネルディスカッションで話をしたり、職場でも18時になると率先して帰ったりしていますが、雰囲気が変わってきたなと思います。
やはり役員の方々が主導されると、本気度が伝わるでしょう。
仕事の見直しも行っています。やめる仕事を見つけるという取り組みの中で、報告のための報告は不要だということで、これまで長時間かけて作成していたグローバル向けのマンスリーレポートを抜本的に見直した部署もあります。
仕事の整理にもなると。生産性が向上しますね。
まだまだこれからですが、働き方の改革に真剣に取り組んでいこうと思っています。
今日はありがとうございました。
中田 るみ子
ファイザー株式会社 取締役 執行役員 人事・総務部門長
慶應義塾大学文学部社会学科卒業、行動科学・組織心理学専攻。エッソ石油株式会社人事部、シンクタンク勤務を経て、2000年 ファイザー製薬入社。2007年 医薬開発人事・広報部長、2010年 ビジネス・パートナー人事グループ 統括部長を歴任し、2011年12月 人事・総務部門長に就任、現在に至る。
楠田 祐
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 客員教授
戦略的人材マネジメント研究所 代表
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。主な著書:「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。最新の著書は「内定力2015〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)
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