人財戦略を具体的に行うための人財情報を持っているか

ビジネスのグローバル化やダイバーシティ化を背景に、
「人財の見える化」が注目されている。
そして「見える化」を実現するツールとして、
タレントマネジメント・システム(ITシステム)が注目されている。
タレントマネジメント・システムで実績のある
コーナーストーンオンデマンドジャパン社の坂東治忠氏は
これについて、「ITシステムを導入するか否かを目的化して
検討をしてはいけない」と語る。
変化を続ける企業を支え、持続的な成長を実現するための
タレントマネジメントについて、お話を伺った。

■自社の戦略上のニーズを明確に把握する

 企業の経営は「人」が実行するものです。このことは時代が変わっても変わらないでしょう。ですから、経営は人事そのものといえます。まず戦略があり、その実現のために「こんな課題を解決できる人財が、いつまでに何人必要だ」という人財戦略があり、その人財戦略を実行するために人財を選抜、あるいは採用し、育成する必要があります。
 これが充分にできているのであれば、ITシステムの導入を検討する必要はありません。人財戦略が人的リソース、あるいは物理的な要因でうまく回らない場合に、それを解決する方法としてITシステムの導入が検討課題の1つに挙がります。
 そのため、検討のスタートの際に、自社は ①人財戦略を実行するための人財情報を把握できているか ②そのための人財情報は社内にどのように存在しているか ③人財情報は「使える」状態になっているか つまり自社の人財情報が「見える化」できているかを確認することが必要です。そして戦略上の必要の強さを明確にして、今後の人財戦略の実行方法を考えていく必要があります。

■「見える化」とは、必要な情報がつながっている状態

 人財戦略を実行するための情報とは、氏名や住所に加えて、その人の職歴や教育履歴、資格や保有スキル、人柄を知るための趣味等の情報、志向などです。これが、「見える化」が必要な人財情報です。
 こうやって並べてみると、履歴書の情報と同じだということに気付くでしょう。人財を採用する時に把握する情報は、その企業の中で業務のアサインや育成をする際にも必要なのです。
 職歴の中でも、どんな仕事をしてきたか、どんな成果をあげたか、というソフトな情報は特に大切です。例えば、TOEIC800点という事実情報があっても、英語でビジネスができるかどうかは別問題です。裏付けとなるのは「実際にどんな仕事をしてきたか」というソフトな情報なのです。
 まずはそれらの情報が「あるかどうか」が課題ですが、それがバラバラに存在していてもあまり意味がありません。情報を揃えるために、時間と手間がかかるからです。それが、「頑張ればできる」という程度の許容範囲内ならいいのですが、あまりにも時間と手間がかかりすぎているとしたら、人財情報が「使える」状態とは言い難いと思います。
 情報は1つにつなげて管理できることが大事です。1つにつなげることで、簡単に、手早く使えるからです。人財情報をつなげて管理することができてはじめて、人財情報の「見える化」ができた、と捉えるべきでしょう。

■「見える化」によって可能になること

人財情報を1つにつなげて、簡単に、手早く「使える」ものにするツールがタレントマネジメント・システム(ITシステム)です。タレントマネジメントの対象者が何万人いても、彼らが勤務する地域がグローバルに離れている場合でも問題なく、いつでも閲覧や検索、分析ができる状態を実現できます。ITシステムを利用せずに「人財戦略のための情報を揃える」と意思決定しても、実現は難しいと思います。お客様から「人事考課の季節になると人事部員が徹夜に近い働き方になってしまう」という話をお聞きしたことがありますが、こんな状況は長くは続けられません。
 簡単に人財情報を集めることができれば、人財レビュー(人財課題について検討する会議)の回数を増やすことが可能になります。回数を増やすことができれば、きめ細かく対応していくことができます。
 あるポストの後継者が必要になった場合に、必要な経験や能力をもった候補者リストをすぐに揃えることができますし、社内に候補者がいなければ外部から登用すべきかどうかの判断を素早く行うことができます。
 リストアップした候補者に足りないスキルや経験があれば、それを人財開発につなげることができますし、経験やスキルが充足できる時期を予測して人財計画をたてることができます。
 また社員本人が、自分が希望するポストと現時点での自分の保有スキルのギャップを確認することができるようにITシステムを設定すれば、本人がそれを見て、自己啓発につなげていくこともできます。このように機会と情報を公開することによって公平性や納得性が高まり、社員のエンゲージメントが高まった例もあります。
 さらに、成果をあげている人財の行動分析をして業務マニュアル改善に結びつけていくこともできます。
 つまり、ただ目標を設定してかけ声をかけるだけはなく、事実に基づいて、現実的な打ち手を見つけていくことができるという利点があります。
 ITシステムが働き始めると、経営を推進する強い武器になるのです。

「見える化」によって可能になること
■情報の更新性を保つ仕組みづくりが最大の課題

 ITシステムに保存される人財情報は「更新されていること」が必須条件です。古い、あるいは正しくない情報がはいっていたら、すぐに使われなくなります。ですから情報更新を1つの部署が担当するという業務フローはおすすめしません。
 例えばある時、どうしても忙しくて情報をアップデートできないという事態が発生し、その事態が過ぎても情報アップデートを回復する作業が後回しになってしまい、その期間が数週間になり、数カ月になり…そしてやらなくなってしまう…そんな例がたくさんあります。情報を新しく保つためには、ITシステム上での情報の更新を、日々の業務のプロセスの中に組み込んで行うよう設計するのが理想です。
 例えばMBOの評価を直接ITシステム上で行うようにシステムを設計することも可能です。また、ある企業様では、採用の際に入力してもらうエントリーシートと人財の基本情報のデータベースを連動させ、社員が入社した際には既に人財データベースが揃っている、というシステム設計をして、人事業務のスピード化と軽減を実現した例もあります。

■敷居を下げて、まずはスタートする

 ITシステムは様々なニーズを想定して準備することが可能なのですが、最初からすべての条件を揃えるのは大変です。ですから、敷居を下げて、より簡単な方法で、まずはスタートすることが現実的でしょう。
 最初は資格やTOEICの点数といった事実情報だけでもいいかもしれません。そして、そこによりソフトな情報を足していくのです。また全社員に必須な「コンプライアンス教育」の普及ツールとして、タレントマネジメント・システム(ITシステム)の導入をスタートするのも、社内の抵抗が少なく、よい方法です。
 ビジネスの変化は早く、しかもグローバル化に先行する企業との競争をしなければいけません。社内の合意形成のために対応に後れをとるようなことになってはいけません。時にはトップダウンで判断することも必要だと思っています。

坂東 治忠(HARUTADA BANDO)
コーナーストーンオンデマンドジャパン社長。 1991年 京都大学農学部卒業後、日商岩井(現:双日)にて、情報通信関連のソリューションを担当後、電話会社向け料金計算システムの世界最大手Amdocs社日本法人へ立ち上げメンバーとして参画。イグザクトテクノロジーズ社、コンバージスジャパン社、クリックソフトウェア社などの代表としての日本立ち上げを経て、 数々の外資系IT/ソフトウェアベンダーにおける要職を歴任、現在に至る。

<トップページへ戻る

  • 労政時報
  • 企業と人材
  • 人事実務
  • 月刊総務
  • 人事マネジメント
  • 経済界
  • マネジー