「Out of the box thinking」を牽引するミドルがイノベーティブな組織をつくる

かつても今も、「ミドルが変革の担い手であることに変わりはない」と説く山本真司氏。現在は経営トップに対する戦略コーチングのほか、幅広い分野で講演や執筆など精力的に活動中だ。コンサルタントとして20年以上にわたって企業変革を主導し、改革の旗手たるミドルを数多く見てきた経験を踏まえ、今求められる日本企業のあり方、そしてミドル戦力化の必要性についてお話をうかがった。

■10年遅れの日本企業
グローバル競争にさらされる日本企業は、各所で厳しい戦いを強いられています。今、日本企業にはどのような変革が必要でしょうか。

今最も求められているのは、「Out of the box thinking」、つまり常識にとらわれない、殻を破る思考だと思います。かつては競争力のある日本の製造業に欧米企業が追いつこうと、徹底的にベンチマークしていた時代がありました。しかし、ITバブルが崩壊した2001年くらいから世界の状況は変わり、主役は、イノベーティブかつクリエイティブにビジネスを創る、あるいはグローバルを席巻する規模の優位性を持つ企業に入れ替わっています。

 今で言えばアマゾンやグーグルが世界を仕掛け、圧倒的なシェアで大勃興する中、日本企業はバブルの後始末やリーマン・ショックからの回復に追われ、イノベーションがキーワードになったのは、欧米より約10年遅れの2010年です。現在、B to BでもB to Cでも欧米に劣後するという、非常に恐い状況です。

殻を破るには、具体的にどうしたらいいのでしょうか。

そのヒントとして、これらのビジネスの特徴を見てみましょう。まず、「世界最大のスケールを狙う」。ただ、ここで主導権を握るのは、国土や人口の規模が大きい国であることを歴史が示しており、その意味では日本は厳しいでしょう。
 2つめは「バリューチェーンを変革する」。たとえばアップル社はデザインに特化しながら、結果としてキャッシュ・コンバージョン・サイクルが非常に短くなるメカニズムをとっています。
 3つめは「まったく新しいものを創る」。化学品大手のデュポンが農業に主軸を移したのがその例で、とうもろこしの皮などをエネルギーにして新素材をつくるなど、新しいバリューチェーンとビジネス体系を創りだしています。
 では、日本企業はそのどれを狙うのか。本当にクリエイティブで尖ったものを創り続けられるのかが問われています。

■ブレークスルーはミドル発
厳しいシチュエーションに置かれた日本企業において、人の側面ではどんな課題がありますか。

かつて日本企業には、ゼネラリストとして垂直に専門分野を掘りつつ、水平に思考を広げる習慣のある人が自然に育っていました。それには以心伝心で暗黙知がきちんと伝承されるピラミッド型の人材構成が前提でしたが、1995年以降、成果主義やスペシャリスト志向が強まり、それが崩れてしまった。本来は現場を知り、将来の経営を考えながら思考を広げ、いろんなことを創意工夫すべき40代半ばの人たちが、専門の殻に閉じこもったまま、なおかつ部下がいない状況で仕事を抱えてしまったのです。視野狭窄症候群に陥り、殻を破れない。そんな人材を自然につくり出してしまったことに、ものすごく大きな問題があると感じます。

ミドル自身が殻を破れない状況下で、変革も起きにくいのですね。それだけミドルは変革の担い手として重要だと。

かつて、世界を席巻したヒット商品を生み出したのは、例外なくミドルでした。野中郁次郎さんが「ミドル・アップダウン」と言われていますが、私自身もコンサルティング経験からそう思います。ミドルは、トップのビジョンに賛同した上で、さらに一歩先まで進めるには何をすればいいかを現場を知った上で考えることができ、トップに助言し、ボトム層も動かす「つなぎ」の役割を担っていました。そしてその根底には「これをやりたい」という強い志があり、自分の立場を忘れて部門横断的に集まり、次の時代の絵を描いていました。難局の中で新しいブレークスルーを生み出してきた、本当の改革の主体は常に彼らだったのです。

間をつなぐ役割とやりたいという強い志があったので、ミドルは結果を残せたというわけですね。

本来はそうなのですが、ずれてしまった条件があります。かつては人事ローテーションが活発で、自分の仕事だけに埋没せずにすむ仕組みがありました。広角の人材を自然体でつくり出せていたのです。ところが今のミドルは、狭い視野のまま10年以上過ごしてきた方々です。外が見えないように走ってきた競走馬が、いきなり外を見ろと言われても殻を破る材料がない状態です。よほど意識的な努力をしない限り、ミドルという、本来は改革を主導する立場にいるはずの人に、そこを意識させるのは難しいでしょう。

あくまでもミドル本人の要因ではなく、そういう環境に日本がなってしまった、ということでしょうか。

そのようなシステムに乗ってしまい、それでよしとしているという意味では、本人に責任があるといえます。一方で、志のある人は殻を破り、自ら会社を興している世代でもあります。そう考えると、ミドルに可能性がないわけではないのですが、二極化しているのが、現在の問題を象徴しているように感じます。

■変革のための三要件
その二極化の一方、企業に所属している40代半ばのミドルを変革の担い手にしていくためには、何が必要でしょうか。

その要件は3つあります。まず、自ら創り上げようという「強い意思を持つ」こと。ミドルの多くは経営書を読み、教科書的に考える習慣がついていますが、そこに答えを求めるのはナンセンスです。『40歳からの仕事術』にも書いていますが、自分の頭でひたすら未来を考えることで、与えられた土俵の中でも自ら創り上げることができることを知ってほしい。トップはミドルが自ら動くことを期待しています。とはいえ、実際やろうとすると「時間がない」など壁はたくさんあるので、「突破する意思」を強く持つことです。
 その時、絶対的に不足しているのが「視界の広さ」。それを克服するのが2つめです。クリエイティビティの源泉の1つはアナロジーですから、違う業界や違う国、また心理学、哲学、宗教などリベラルアーツを学ぶのも、突破のためのヒントになります。また、ノウハウ(Know How)ではなく、ノウフー(Know Who)、誰がどの分野にもっとも関心や知識を持っているか、広く社内外にネットワークを持つことが大事です。
 壁を突破するには、既存の仕事のやり方を変えなくてはなりません。そこに必要なのが、「人を巻き込むリーダーシップ」で、これが3つめの要件です。リーダーとして、部下や他部門を徹底的に巻き込みながら1つに統合していくことができないと、自分の仕事を抜本的に効率化することも、新しい構想を実行に移すこともできません。
 私が改革に携わったかつてのミドル世代は、この3つを揃えていました。つまり、この3要件を揃えたミドルがいれば、会社は変わるのです。

■人に対して投資を
難易度の高い要件をクリアしていくミドルを育成するために、企業がやるべきことは何でしょうか。

変革に必要なこの3要件を備えようとするミドルの競争が健全に行われる、そしてその中で勝ち残った人が経営トップになっていく、という流れをつくることが必要です。外資系企業に25年いて感じたのは、人材に対する投資が抜群に多く、投資をすれば「人は育つ」との考えがあったことです。逆に言うと、日本企業は自然体で人が育つ幸福な時代がありましたが、米国企業は意識的なことをしないと育たず、それで成果が出たといえます。
 投資とは、お金なのか時間なのか、あるいはアテンションかもしれませんが、ともかく人に投資して育てることが大切です。そしてこれを日本企業がトッププライオリティとして認識することです。これは人事だけが意識することではありません。私がかつて教えをいただいた尊敬する経営者の方々は皆、口癖のように「人を育てるのが自分の仕事」と言われていました。そしていずれの会社も持続的に成長しています。

人材への投資をトップに働きかけていく役割が求められる人事の方へのメッセージをお願いします。

日本の人事部の機能は、採用や異動のほか、人事に伴う様々な事務で構成されていますが、本来の機能はヒューマンリソースをつくることだと思います。ですから、これまでの複合的なミッション、オペレーショナルな仕事から、ディベロップメントという長期的視点の仕事へと、目の付け所を大きく変えるべきでしょう。同時に、人を育てることがどれだけ大事かということを、社内で主張し続けてほしいと思います。

山本 真司(SHINJI YAMAMOTO)
慶応義塾大学経済学部卒業。シカゴ大学経営大学院でMBA取得。全米成績優秀者協会会員。
東京銀行(旧)を経て、1990年 ボストン・コンサルティング・グループの東京事務所に入社。1997年よりA.T.カーニーに参画。マネージング・ディレクターとして極東アジア共同代表などを歴任。2005年ベイン・アンド・カンパニー参画。東京事務所代表パートナー。20年以上の経営戦略コンサルティング経験を持つ。現在、山本真司事務所代表取締役。
立命館大学経営大学院客員教授として戦略コンサルティング論を教える。
『会社を変える戦略』(講談社現代新書、2003年)、『40歳からの仕事術』(新潮新書、2004年)、『勝者が一瞬で敗者になる時代のサバイバル術』(PHP研究所、2013年)など著書多数。

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