武井 繁・米田光宏著
ダイヤモンド社 1620円

「採用」という言葉を見ると新卒採用をイメージし、スケジュールや手法を解説した本だと勘違いする人がいるかもしれない。そうではない。正社員について触れている箇所もあるが、多くはアルバイト・パート、外国人、女性の採用と活用、退職者で繁忙期を乗り切るなどのノウハウに関する内容だ。業種的にはサービス業が多い。
時代を勝ち抜く人材採用
  10の事例が紹介されており、その背景を著者が解説している。それぞれの事例が成功する経緯や理由はさまざまだが、いずれも10年前なら考えられない。大きな技術進歩と社会変化があったことをあらためて痛感した。

 本書の「はじめに」に「産業別就業者数構成比の推移」が示され、1950年前に就業比率39.8%だった第1次産業(農林水産)は3.8%に落ち込み、1970年代初頭に36.6%だった第2次産業(鉱工業)が24.5%まで下がったのに対し、1950年に35.8%だった第3次産業が70.7%になっていることがわかる。

 本書は第3次産業を「その多くが小売りや、飲食、運輸、医療、福祉といったサービス産業で構成されており、企業がアルバイト・パートスタッフの雇用主となるケースが多い産業形態」と定義している。そしてこの第3次産業に危機が訪れていると主張している。「求人難」だ。

 少子高齢化、生産労働人口の減少などは以前から指摘されてきた。しかし一般人が実感したのは、昨年春あたりからのことだ。よく見かける「すき家」や「和民」などの外食産業で人手不足が顕著になったことが新聞報道され、求人難を知った。介護施設でも職員が集まらず、施設閉鎖に追い込まれるというニュースもあった。
 今までのようなやり方で人を集めようとしても、集まらない。本書の序章は「日本における採用活動は、これから先、半永久的に厳しくなる」と述べている。卓見である。

 採用はいつも昔ながらの方法で行われてきた。そして「週4で入れる、体力のある学生」というこれまでと同じ求人広告を出して、「最近はなかなか人が集まらない」と嘆いている。発想が「学生」という特定ターゲットに縛られているのだ。
 昔の成功体験から抜け出せないだけではない。昔の失敗体験にも囚われている。日本人学生がいないなら、外国人を採用しようと考えて当たり前だ。事実飲食業をはじめ、外国人労働者の姿は増えている。
 しかし、「10年前に一度、外国人アルバイトを採用したが、うまく行かなかった」と昔の体験に囚われて、外国人採用を割ける企業も多い。10年前と言えば、スマホもSNSもなかった時代だ。今と異なる時代のことだ。

 本書を読んで知ったが、在留外国人212万のうち働いているのは3割。残りの134万人は働いていない。この在留外国人の多くは若手である。しかし、日本企業の多くは「語学の壁」と「価値観の違い」を理由に外国人採用を敬遠している。
 本書は、外国人採用の成功事例を紹介している。テンコーポレーションだ。一般人には「天丼てんや」の方がわかりやすい。全国の「てんや」で働くアルバイトスタッフは3300人、そのうち270人以上が外国人だ。
 どのように「壁」を乗り越えたのかは、本書を読んで欲しい。外国人採用がいったん始まると、外国人スタッフはSNSに居心地の良さを投稿し、友だちが応募するようになって採用のプラススパイラルが始まる。

 本書を読んで感じたのは、新しい採用が始まっていると言うことだ。著者の武井繁氏はHRソリューションズの代表取締役で、人材採用管理システム「リクオプ」「ハイソル」を提供している。もう一人の著者である米田光宏氏はツナグ・ソリューションズの代表取締役で、応募受付専門のコールセンターを提供している。
 本書で紹介されている事例は2社のクライアント企業だが、目の付け所が新鮮だ。外国人についてはすでに述べた。その他に学生アルバイトのための「塚田牧場キャリアラボ」も面白い。就活の不安を抱えるアルバイト学生を塚田牧場(エー・ピーカンパニー)が支援し、その結果学生の定着率が上がったという。他の事例にも意表を突かれる発想がある。
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