私の前の職場は、完全なる成果主義でした。基本給部分は少なく、売上に応じてインセンティブが支払われるという制度です。このような成果主義の給与体系は、バブル崩壊後にブームが起こり、多くの企業で取り入れられました。
しかし、成果主義を取り入れてしばらくすると、社員のモチベーションが下がったり、動きが悪くなるといった企業も目立ち始めました。また、退職する社員が急激に増えたケースもありました。それは何故か?
ある事例で考えてみます。
子供に「テストで良い点を取ったらおもちゃを買ってあげる」と、おもちゃで釣って勉強をやらせるとします。子供はおもちゃを買ってもらうために熱心に勉強をします。しかし、勉強が「おもちゃを買ってもらうための手段」になってしまい、勉強そのものには面白みを感じられなくなります。それどころか、苦痛にさえ感じます。その証拠に、何も買ってもらえないときは勉強をあまりしなくなります。そこで、親は仕方なく「また、おもちゃを買ってあげる」と、餌をぶら下げて勉強をさせようとします。
これが繰り返されると、子供はますます勉強に苦痛を覚えます。

成果主義が失敗するケースはこの子供の事例と似ています。
成果主義自体を否定するつもりはありませんが「お金で釣って、成果を出させる」という発想で導入するのであれば問題です。

我々上司も、「この仕事で成果を出せば、ボーナスが高くなるぞ」「このプロジェクトを成功させれば出世の道が開ける」等、ともすると餌で釣る発言をしてしまうことがあります。
これは危険です。仕事そのものへの興味を奪い、結果として創造性を奪ってしまう恐れがあるからです。

良い成績を取り続けている子供は、何も与えなくても熱心に勉強をします。これは、勉強そのものを楽しんでいるケースが多いようです。これは仕事でも同じ。
常に成果を出しているメンバーは仕事そのものを楽しんでいるケースが多いのです。

上司として、その仕事の目的や面白みを伝える。
そしてその仕事を通じてどのようなスキルが磨かれるのかを語る。もちろん、メンバーが創意工夫をしたことはきちんと認めてほめてあげる。
そのような事を意識して、仕事そのものに対する興味を高め、創造性を発揮することが大切ではないでしょうか。

創造性を発揮する職場は、末端のメンバーの意見を熱心に聴く風土があります。
例えば、改善が必要だと思ったことを直接社長にメールして上申できる制度を設けている企業も多いようです。
また、改善提案の中で特に優れているものは、みんなの前で表彰を行い、実際に会社が主導してその改善提案に基づいたアクションをスタートさせるという企業もあります。

時に、末端のメンバーが「今の会社のやり方はおかしいから、○○すべきだ」という発言をすると、「それは経営批判だ」と過敏に反応する企業があります。
確かに、グチばかり言っているメンバーは問題ですが、グチのように見えて実は非常に核心をついた意見を言っているメンバーも多くいます。しかし、そのような発言を「経営批判だ」と言われると、口をつぐんでしまいます。

自分が「問題だ」と感じていることを、自由に言えない会社って発展するのでしょうか?
一見、和気あいあいとしていて雰囲気が良いように見えますが、「無難にやり過ごそう」という保守的な風土が蔓延してしまうのではないでしょうか?

私は、多くの企業様にお伺いしますが、一見良い雰囲気に見えて、実は創造性を失ってしまっているケースは少なくありません。
特に若手社員の話を聴くと、「上に何を言ってもムダです。どうせ否定されて終わりなんですから」といったことを言う人もいます。
我々上司が聴く耳を持ちましょう。「上司が話を聞いてくれる。自分のアイデアや意見を堂々と言ってもいいんだ」という状態になってこそメンバーが様々なアイデアを出す創造的な職場が生まれます。

特に重要なのが、メンバーが我々上司に対して言う批判です。「課長、そのやり方はおかしいですよ」と面と向かって言われた時にどのような対応をするかが問われます。
その時に、「お前、誰に向かって口利いているんだ」といった態度を示すと、メンバーはもう何も言ってこない・・・。そして、陰口だけが横行する。
「おかしい」と言われたら、「どの点がおかしいと思うのか?」をしっかり聴くことです。
自分の意見を否定されたら気持ちのよいものではありませんが、部下の不満や否定的な反応は、創造性を引き出す入口のことが多いのです。

多くの企業様とお付き合いさせていただき、成果を出しているマネジャーの共通点は、部下の不満や批判に耳を傾ける度量を持っているということ。
メンバーに何か言われて「ムッ」としたら、創造性を発揮させるチャンスがやってきたと捉えてください。
感情をコントロールする訓練にもなりますよ。

メンバーが創造性を発揮して仕事をすれば、チャレンジングな行動が促進され、業務が効率化されたり、新しいビジネスのヒントが見出されるなど、成果創出の種が生まれます。

しかし、「この会社はロクな会社ではない」「会社都合で仕事を押し付けられている」などといった感覚で仕事をしていては、到底創造的な仕事は望めません。
会社に対する不満が強ければ、「新しいやり方を考えよう」等という気分にはなれないのです。
それどころか、方針やルールなどといった「当然やるべきこと」さえもまともにやらなくなってしまうリスクさえあります。

創造性を発揮し、より成果を高める仕事をするためには会社に対する愛着を持ち、「この会社を何とかしたい」「この会社で自分の可能性を高めたい」という意識がベースになくてはなりません。
一言で言えば、自分の会社にホレるということが大切なのです。

しかし、長年仕事をしていると自分の会社の「強み」や「良い点」が見えなくなってくるものです。あまりにも当たり前になりすぎて、それが「強み」や「良い点」であることさえ分からなくなってくるのです。
逆に、顧客や取引先から「おたくの商品のここが悪い」とか「他の会社はもっと~~している」などといった話を聞くと、「何でうちの会社は、もっと努力しないんだ!」等と悪い点に意識が集中してしまうことも多く発生するのです。
我々は上司として、会社の良さを再認識してもらい、会社にホレ直させ、結果として創造性を発揮させる土台をつくることが大切になります。

そこで、まず注目したいのが経営理念です。自社の経営理念はなんでしょうか?
経営理念を今すぐにスラスラと言えますでしょうか?
実は、自社の経営理念を聞かれて、スラスラと言える人は多くはありません。「なんとなく聞いたことがあるけど・・」と言うレベルの人も珍しくありません。

経営理念は、その会社が社会に対して、そしてお客様に対してどのように貢献していくかが力強く書かれています。その経営理念ができた背景には、会社をつくる際の経営者の想いが込められています。
「自社の経営理念は何を言っているのか?これは今の社会に当てはめるとどのようなことを意味するのか?」といったことを考え、議論する事で、自分が所属している会社の存在意義や役割が見えてくるのです。

我々ジェックでも、経営理念をじっくり考えるためのお手伝いをする事が多くあります。
その取り組みを終えると、「会社への見方が変わった」「今までの仕事ではいけないと感じた」と目を輝かせえてお話になる人も多く見られます。
もちろん、我々上司が会社の経営理念を深く理解していることが前提です。(つづく)
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