過度に厳しいノルマを課せられたり、クレーム対応や新人育成などの責任が重い仕事を任せられたり、テスト前の休暇が認められなかったり……。今、学生たちを悩ませる「ブラックバイト」の存在が注目を集めています。この「ブラックバイト」という言葉の生みの親は、中京大学教授の大内裕和氏。ブラックバイトが現れた背景とは? 実際に学生たちから挙がってきた事例とは? これらの真相をひもときつつ、「ブラックバイト」と呼ばれないための注意点を教えていただきました。

若い労働力を酷使する「ブラックバイト」

近年、過酷な労働を強いる「ブラック企業」が注目を集めていますね。2013年末には、厚生労働省が企業・事業所への立ち入り調査を実施。メディアでは、全体の約8割にあたる4000社以上で労働基準関係法令への違反があったと報じられました。

これらの「ブラック企業」にならい、私が「ブラックバイト」という言葉を使い始めたのは、2013年夏に中京大学で学生500人に行ったアルバイトに関する調査がきっかけです。

この調査によって、大学の授業や試験期間などを考慮せず、本人の希望を無視したシフトを組んだり、学生の身で背負うには重すぎる責任やノルマを課したり、学生生活に支障をきたすような長時間労働を強いたりするアルバイトの存在が明らかになりました。

これらを「ブラックバイト」と名付け、Facebookで紹介したところ、全国から共感の声が寄せられると同時に、メディアにも大きく取り上げられました。「ブラックバイト」は、今はまだ認知され始めたばかりで、法規制の範囲以外には公的なペナルティが設定されているわけではありません。

しかし、企業における“ブラック”同様、アルバイト業界における“ブラック”も大きな問題だとする流れが全国的に生まれていることは確かです。

約5年前から学生のアルバイトに異変が……

アルバイトをする学生たちの働き方に大きな変化が起きはじめたのは、ここ5年のことです。

私は大学教員になって16年になりますが、5年ほど前から、学生との交流会を設けるのが年々難しくなってきています。1カ月前に日時を設定しても、学生が時間を空けられないのです。「水曜日はどうしてもバイトを抜けられない」「シフトを×で出したが、○で返ってきた」などの理由を聞く機会も増えました。

アルバイトの拘束力が高まっていることは年々感じていましたが、ついには、学生たちが試験前や試験期間中にアルバイトに入りだしました。「試験前だから休みたいと言うと『でも他の人は働いている』と断られた」という話も今ではよく聞く“あるある”になりつつあります。

では、なぜこのような「ブラックバイト」が増加してきたのでしょうか?

なぜ現場が「ブラックバイト」と化すのか

90年代から、非正規雇用労働は年々増加してきました。長らく続いた不況の影響で、今では非正規労働者が正規労働者に代わるメインの労働力として使われています。特に、重要な労働力として認識されてきたのがフリーターです。

フリーターは、今やメインの労働力として正規雇用労働者並みの義務やノルマ、重労働を担っていることも少なくありません。

一方、勉強するための授業や試験がある学生は、フリーターのようには働けないのですが、「ブラックバイト」化する現場の多くは、「学生」と「フリーター」を同一に捉えています。

だから、学業がおろそかになるほど学生を働かせてしまうのです。

学生がブラックバイトを辞めない理由

「そんなに劣悪な環境なら、辞めればいいのでは?」と思う方もいるはずです。ご自身の学生時代を振り返り、「学生アルバイト=遊ぶお金が欲しくて働いている」と考える方も少なくないかもしれません。しかし、学生が置かれている状況もここ20年で大きく変わりました。

長引く不況で実家の経済力が下がり、学生の多くはアルバイトをしなければ学生生活を送れないほど経済的に逼迫しています。バイト代から学費を補てんしている学生もいるのが現状なのです。

さらに、学生にとってはフリーターの増加も逆風となりました。勤務時間に融通の利くフリーターが出てきたことで、アルバイト市場における学生の価値が下がったのです。「アルバイトの求人に応募して、いくつかの曜日は授業で入れないと話したら5社に連続して落ちた」という学生もいました。

よほどの人気アルバイトでないかぎり「落ちる」ということ自体、私の世代にはちょっと想像がつかないのですが、簡単に辞めてしまったら、次のアルバイトを見つけるのが困難だと考える学生も多いのです。

ありがちなブラックバイトの実例

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