さて、3月11日の東日本大震災発生より約2カ月。大手企業を中心に4月から本格化した新卒採用選考ですが、震災の影響で5月開始、6月開始と遅らせている企業も少なくなく、就職戦線は長期化の様相です。
 今回は、東日本大震災が新卒採用にどのような影響を及ぼしているのか、そして大手企業の採用選考が終息すると見られる7月以降にまずはどのような対応が必要かを見ていきたいと思います。このコーナーでは、最新のデータをベースとしながら、採用の実務に役立つ情報を紹介しています。皆さんからのご感想、ご意見をいただければ執筆の励みになりますので、よろしくお願いいたします。

東日本大震災の影響――企業アンケートから

新卒採用市場はまさに生きたマーケットです。採用担当実務者はマーケットの変化を正しくとらえ、迅速に対応していかなければなりません。今回、就職戦線に大きな影響を及ぼした東日本大震災の影響範囲がどのようなものか、採用担当者に3月後半から4月の前半にかけて実施したアンケートから見てみましょう。
 まず、2012年度新卒採用の予定数を「減る」と予想したのは全体の約20%。3割以上減らすと答えたのは約5%でした。一方、約75%が「震災の影響を受けない」と答えています。この数字をどうとらえるかですが、震災直後の回答が多いことや、先行き不透明な原発事故の長期的な影響を考えると、この数値はさらに悪化していると見るのが妥当でしょう。
 次に選考開始時期を見てみます。「4月からの選考を延期せずに行う」「すでに選考を開始しており予定通りに行う」「被災地の学生のみ別途対応」が合わせて約35%で、約3分の1の企業が「選考時期を変えない」と答えました。一方、「選考を遅らせる」とした企業の回答は約45%でした。その他、「今後の状況を見て判断」が約13%あります。
 一時期、選考を6月以降にずらす大手企業がマスコミに頻繁に出て、一部の学生は選考時期全体が先に延びたと気を緩めたおそれがありますが、企業数で見ると6月以降にずらしているのは約8%にすぎません。ただ、企業規模別にみると、大手企業ほど選考時期を後ろ倒しする傾向が増え、採用時期全体の遅延、長期化をもたらしていると言えるでしょう。
 一方、4月下旬に調査したデータで、選考終了予定時期を採用担当者に聞いたところ、「6月末までに終える」と答えているのが約45%と半分弱です。7月以降に選考終了を予定する企業は約40%。そのうち、9月以降の終了予定が約17%と最も多くなっています。また、100人以下の企業に限ってみると、約45%が9月以降の終了を予定しています。これらのデータを見ると、大手企業の選考が後ろ倒しになった分、中小企業が押し出される形で長期化を予測していると見ることができます。
 ここで、震災の影響による全体状況をまとめ、併せて今後の予測をしてみましょう。
 震災の影響により、採用数総数は相当数減りそうです。地域差が大きく、また採用確定数を見極められない企業が増え、遅くまで採用を伸ばす企業も増えるでしょう。
 また、大手企業の選考後ろ倒しで、決められない学生が大幅に増えており、特に中堅・中小企業は長期化する傾向があります。また、大手企業の選考時期がバラつくことで、内定辞退者が増えることが予測され、その対策として内定者拘束行為を強める企業が増えるでしょう。ある大学のキャリアセンターの方に聞いたところ、すでに厳しい内容の内定誓約書への署名を迫られ、相談に来る学生が格段に増えているそうです。
 大手企業の採用がほぼ終息する6月末から、学生の多くはギアチェンジし、中堅・中小企業に目を向けるはずです。ただ、採用数を見極められずに意図的に採用を継続する大手企業、準大手企業が出れば出るほど、学生の意識転換が遅れ、中堅・中小企業への応募数が伸びない可能性もあります。そうすると、さらに内定率が上がらないまま採用/就職活動が長期化するという、学生にとっては苦しい状況になるでしょう。おそらく、昨年対比で見た年内の内定率はかなり低めに出る可能性が高いと思われます。

7月以降に採用活動を本格化させる企業の対応策

業界、企業規模、知名度などによって対応策はがらっと変わってきますが、これから採用活動を本格化する中堅・中小企業にとっては、まずは学生へのアプローチにおいて、いかに中堅・中小企業に意識転換をした学生の気持ちをとらえられるか、もしくはいかに学生に意識転換をさせられるかがポイントとなります。
 そのためのテクニックはいろいろあるでしょうが、大前提として言えることは、学生としっかりコミュニケーションをとり、入社志望度を高めて選考に入ることが重要だということです。
 単に学生を多く集客しようとすれば、この環境下では集められるでしょう。ただ、密度の濃いコミュニケーションを経ないままに選考していくと、学生の志望度が上がらず、内定を出しても気持ちが固まらない可能性が高くなります。そうなると、ミスマッチで内定を辞退したり、入社してもすぐ辞めるということになりかねません。
 そういう意味では、母集団を集め過ぎると一人ひとりの扱いが希薄になり、かえって採用成果が下がります。適切なコミュニケーションの中で、意識をしっかりこちらに向かわせてから選考に入るべきで、そのキャパシティで学生数を集めることです。
 また、大学の就職部、キャリアセンター、教授などへのアプローチを強化し、学内説明会へ参加したり、学生を直接紹介してもらうことも有効です。7月以降に学内説明会を実施する大学は今後増えてくるでしょうし、この時期に学校に相談する学生は意識が中堅・中小企業に向いている可能性が高いとも言えます。
 震災の影響で、学生は多かれ少なかれ不安な精神状態の中にあります。丁寧なコミュニケーション施策は、学生の気持ちをとらえる第一歩です。

今月の注目データ

2012年度新卒採用の今後の採用施策について、4月下旬に企業の採用担当者にお聞きしたデータです。「新たに会社説明会を開催する」が最も高いのは当然として、新たな母集団形成に「就職部・キャリアセンターとの連絡を密にする」「新たに学内企業説明会に参加する」が比較的高いのが見て取れます。
 前回、企業が大学をターゲティングしているデータを紹介しましたが、そうした傾向は今後の採用施策についても表れています。
第2回 東日本大震災の影響――企業アンケートから(2011年5月)[2]
資料出所: HRプロ調査
調査対象: 日本の主要上場企業、未上場企業の採用担当者
調査方法: WEBアンケート
調査期間: 2011年4月22日~5月10日
回答社数: 528社
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