先日、弊社HRプロ主催にて「HRプロ公認・採用担当者育成講座」を実施しました。その講師である長谷真吾氏(株式会社ディリゴ代表取締役)は、リクルートの人事採用担当者として、1988年のリクルート事件後に同社の採用活動で約5年間活躍されました。当時はバブル経済の時期でもありましたが、約1000人の新卒採用数に対して年間100億円近い費用を投じていたとのこと!1人当たりの採用経費が1000万円近いことになります。優秀な理系採用のためにスーパーコンピューターを購入したことなど、当時のリクルートが人材採用にかけた意気込みは並々ならぬものがあり、それが人材輩出会社として同社を形作ってきた要因の一つなのでしょう。

 さて、今回はそのリクルートが創ったビジネスモデルである「就職ナビ」について、企業が今後どのように活用しようとしているのか、人事担当者へのアンケート調査を基に見ていきたいと思います。

今月の注目データ―― 就職ナビの今後をどうみるか

2011年12月に実施した企業向けアンケート調査(HRプロ調査、414社回答)にて、採用担当者に対して「これまで採用プロモーションの中心的役割を担ってきたと言われる就職ナビについて、今後貴社においてはどうなるとお考えですか」という質問を投げ掛けたところ、結果は[図表1]のようになりました。
第4回 就職ナビの役割が変わる時がきた(2011年7月)
今後、就職ナビを中心的な役割として活用するとしているのが60.6%、見直す派が14.3%、使用していないもしくは中心的役割でないとしているのが約20%となっています。皆さんはこの数字をどのようにご覧になるでしょうか? 今日、学生の就職ナビ利用率はほぼ100%近くに上っていますが、企業の側で「就職ナビを採用の中心的役割としている」ところは6割程度。そして、「これまでは中心的役割だったが、今後は見直す」という企業が増えつつあるように見受けられます。
 これを企業規模別にみると、もっと顕著な傾向があります[図表2]。
第4回 就職ナビの役割が変わる時がきた(2011年7月)
「5001名以上」の従業員規模だと「これまでと変わらず中心的役割を担う」が大半の80.0%を占めていますが、従業員規模が小さくなればなるほどこの数字は下がっていきます。「101~300名」だと55.1%、「11~50名」だと40.0%です。一方、見直す傾向については、「5001名以上」の従業員規模だと、たった5.0%しかありませんが、「1001~5000名」の従業員規模では、実に24.2%の企業が見直すと答えています。他の従業員規模でも10~15%程度の企業が見直すとしており、大手企業との採用競争の中で、就職ナビに頼っていては優秀な人材が採用できないと感じているようです。

就職ナビの役割が変わる時がきた

たしかに就職ナビは、目立つ超大手企業には有利で、埋もれてしまうその他の企業には不利だと言われてきました。ただ、この傾向は今に始まったわけではありません。なぜ、今見直す企業が増えているのでしょうか。
 「今後は見直す」「これまでも中心的役割ではなく、今後も同様」と答えた採用担当者に、その理由や、どのような施策を中心にするかを聞きました。以下はそこから得られた各社のコメント内容です。
・ 学校とのコンタクト(就職課・研究室訪問、合同説明会参加等)(機械、301名~500名)
・ もっと学生とのリアルなコミュニケーションの場が必要。ナビが企業・学生双方の垣根を下げたことで、たしかに利便性は上がったが、失ったものも大きい。(食品、501~1000名)
・ ターゲット学生に直接的に接触可能な方法を模索しなければ、エントリーばかり多くなり、ますます採用活動に手間暇がかかるようになり、結果として直接的に選考に結び付く率が低くなるため(建設・設備・プラント、501~1000名)
・ 誰もがナビに頼った就職活動をして、自分の目で見ることが少なくなっているように思う。会社やものづくりを直に感じてもらうことが、何より大切であり、お互いにいい出会いになると感じているから(鉄鋼・金属製品・非鉄金属、101~300名)
・ 大学主催説明会中心(情報処理・ソフトウェア、301~500名)
・ 数年前に就職ナビを中心にしていたときは、説明会参加率が6~7割だった。近年、学内セミナーや合同セミナーを中心にして、初回の学生との接点を対面にしたところ、説明会参加率が9割程度まで向上したので、今後も同様にする予定(専門商社、101~300名)
・ 大学就職担当との情報交換強化(専門商社、101~300名)
・ 弊社規模の採用人数(20~30人)であれば、学内説明会やキャリアセンターとの連携で、ある程度の人数は確保できると考えているため、ナビは補完的役割としていく予定(百貨店・ストア・専門店、1001~5000名)
・ HPからのみのエントリーに変更。ナビだと、説明会日程の検索ばかりをして、企業情報をほとんど読み込まずにエントリーする学生が多く、説明会でミスマッチが多く発生している(双方にとって不幸)(301~500名)
これらは一部の抜粋ですが、コメント全体を集約すると、
○ 就職ナビからのエントリー者は志望度が希薄で、ミスマッチ(ロス)が大きい
○ ネットではなく、リアルな接触を重視
○ 大学(就職課・研究室訪問)との連携強化、学内セミナー重視
○ 特に採用数が大きくない企業では、就職ナビは非効率と考えられている
――となります。
 これらは、本連載の最初に述べた「多くの企業(約40%)が大学をターゲティングしている」状況と合致すると言えるでしょう。
 就職ナビの存在があまりにも肥大化した結果、多くの学生は就職ナビで企業を探し、説明会に予約する行為自体を就職活動と勘違いしています。その影響もあってか、自分たちからOB・OG訪問する学生は年々減ってきており、リアルな接触がないまま(企業理解、仕事理解が浅薄なまま)、選考に進む学生が大量に増えました。危機感を持った多くの企業は当初、リアルな接触を求めて大規模な合同就職イベント等に出まくったわけですが、大会場の喧噪のなかでまともなリアルな接触・コミュニケーションはなかなか生まれず、企業はターゲットが明確で、ほどほどの人数参加でしっかりコミュニケーションができる学内セミナー重視の傾向を強め、現在に至っています。
 学生はそのような現状を知らず、就職ナビ中心の就職活動をし、相変わらず大手企業ばかりにプレエントリーし、説明会に申し込み、忙しくスケジュールを埋めていきます。しかし、大手企業にとってエントリーしてくる学生の多くがターゲットではなく、落とし続けることになり、何十社連続で落とされ続ける学生の心が折れる…。ここに大きなミスマッチ、社会的ロスが生まれているわけです。
 あえて言いますが、就職ナビの作り手がこのようなことを意識しているわけではありません。運営会社はもっとリアルな接触機会を作ろうとし、大手だけでなく中堅・中小企業へ関心を持たせるように努力・工夫をしています。しかし、肥大化しすぎた就職ナビの存在は、学生にとって大きすぎるのです。ここは、リアル接触ありきの採用、就職活動に軸の中心を移し、補完的役割としての就職ナビの在り方を再考する時期にきていると私は考えます。
 前回の連載で解説したとおり、日本経団連の倫理憲章の改訂、就職ナビの業界団体による決定で、2013年度新卒採用では2011年12月1日以降にプレエントリー、会社セミナーなどの接触が本格的に開始されます。大手企業の場合、多くが2012年4月1日以降の選考となるため、リアルな接触期間が短くなります。非効率なことに時間を割いている余裕がなくなり、よりターゲット大学への集中が顕著になるでしょう。
 一方、大手以外の企業の場合、4月までの短期集中で学生の目がほとんど大手に向かい、埋もれがちな就職ナビでの情報発信では学生に発見されることすら難しいかもしれません。採用数が多くなければターゲットを絞ったリアル接触がここでも有効でしょう。
 就職ナビをどのように位置づけて活用するか、もしくは活用しないのか、企業ごとの戦略の判断が求められます。
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