さて、いよいよ12月1日を迎え、採用広報の実質的な解禁日となりました。経団連の倫理憲章により、採用広報開始時期が昨年の10月から2カ月後ろ倒しとなった一方、選考開始時期は昨年同様に翌年の4月のままとなったため、「短期決戦」になると言われています。ただ、これは一部の大手企業と学生に当てはまることであり、すべての企業、学生に当てはまるわけではありません。おそらく5月初旬時点で学生全体での内定取得率は2~3割程度で、準大手、中堅・中小企業は、大手の選考のヤマを越えてくる5月から本格的な選考となるでしょう。

 マスコミは短期集中化にばかり注目しますが、実は長期化の懸念も指摘されています。前半戦の集中する採用広報の中で学生の多くが深い企業理解に至らず、また自分自身の就職の軸を作りきれず、決めきれない学生が増えるのではないかと予測されているからです。企業の側も学生を見極めきれず、長期化を今から覚悟しているという採用担当者もいます。
 とはいえ、企業が取り合うような優秀な学生の多くは早期に内定を取得するため、その層を狙う企業はこの短期集中化の中で、いかに学生とコミュニケーションをとり、自社を認知させ、志望動機を高められるかが課題となります。今回は、コミュニケーションの初期段階となる採用ホームページにフォーカスしたいと思います。

短期集中化の中で役割が高まる採用ホームページ

採用広報から選考までが短期化する中で、直接接触をする機会が減ることから、採用ホームページが果たす役割は大きくならざるを得ません。これは、大手企業か、中堅中小企業かを問わずに言えることです。以下に紹介する学生からの評価を参考に、今一度自社の採用ホームページを見直してみてください。
 また、就職活動でスマートフォンを持つ学生は急速に増えており、全体ではすでに5割を超えているようです。特に、首都圏の主要大学の学生で、スマートフォンを使っている割合は7~8割に上るという情報もあります。スマートフォンへの対応は今や必須と言えるでしょう。文系はiPhone支持、理系はAndriod支持の多いことが特徴です。スマートフォンから閲覧されたときに専用の画面を見せるか、少なくとも、コンテンツの表示が崩れたり、説明会申し込みの画面が見られないようなことは避けなければなりません。

文系に人気のある採用ホームページの特徴

今年の6月、2012年度の新卒学生を対象に、企業の採用ホームページについてアンケートをを行いました(TOP30のランキングは後掲の[図表]参照)。その結果、文系学生で人気ダントツの1位は全日本空輸でした。主な理由をピックアップすると、次のとおりです。
【全日本空輸】
・ 誰もが等しく企業研究できるように情報が明らかでコンテンツも豊富。働く社員のムービーやエピソードを多数見られる。ダントツにいい採用HP!!
・ 文字の情報だけではなく、動画や写真と視覚から得られる具体的な会社の情報がたくさんあったため。さらに、抽選に漏れて参加できなかった説明会の動画を掲載してフォローしていた点がとても良かった
・ 働いている人たちの様子が一番伝わってきたと思ったからです
・ さまざまな情報が載っていて、デザインもすっきりしていて見やすかったから
・ 企業理念、活動内容が学生目線で作られ、分かりやすかったから
・ 職種別にページが分かれており、職種を紹介する動画などが見られるようになっていたから
・ 受験生のことをすごく考えてくれているのが分かるから
・ 合格・不合格の連絡をきちんとしてくれるから
 非常に多くの書き込みがあり、いかに学生が全日空の採用ホームページを評価しているかが分かります。情報量の多さ、分かりやすさ、デザインの良は人気理由として当然ですが、職種別の動画や写真などのビジュアル性が高い評価を得ています。文字ばかりだと飽きるし、つまらなく見えるのでしょう。
 また、コメントで強く感じられるのは、ホスピタリティの姿勢です。「抽選に漏れて参加できなかった説明会の動画を掲載」「学生目線で作られている」「受験生のことをすごく考えてくれている」など、企業姿勢が表れているかのように見えます。採用ホームページというわけではないのですが、特に高く評価したいのは「合格・不合格の連絡をきちんとしてくれる」ことです。これができていない大手企業は多いのですが、全日空はきちんとしているようです。
文系の2位、3位は三井住友海上火災保険、Plan・Do・Seeグループです。それぞれの選択理由を見てみましょう。


【三井住友海上火災保険】
・ 採用者ブログや社員の職業・性別・勤務年数別で働く環境が見ることができ、WEBから社員訪問など、採用HPの内容が非常に充実していたから
・ 満員でセミナーに参加できなかったことがあるが、そのセミナーで話された内容が掲載されていたから
・ 社員からのメッセージや動画等、最もコンテンツが充実していたから
・ 社員の想いが伝わったため
・ 就職活動におけるヒントがたくさん掲載されていたから
・ 人事ブログやセミナー報告などのコンテンツが豊富だった
・ 「WEBから社員訪問」やさまざまなセミナーなど充実した企画が多かったことです
 社員のコンテンツが充実していることが評価されています。さまざまな社員についてタイプ別に情報が見られたり、WEBから社員訪問ができるなど企画性が豊かです。また、人事ブログなどで学生に対する思いが伝わっていることも分かります。

【Plan・Do・Seeグループ】
数々がどれもきれいだったから。良い印象を与える空間の創造に注力していることが伝わってきた
・ 企業のイメージをよく反映していたと思うから。(レストランやウエディング運営を行っている企業らしくスタイリッシュなページで、お客様に提供する華やかな空間を演出していた)
・ お洒落な写真が多かった
・ 高級感
・ デザインがとてもお洒落で、採用専用ページという雰囲気がないから
・ 人気が高く、説明会の予約も即日満席状態が続いていることを考慮してくださり、何度も何度も追加日程を設けてくださっていたから
 自社のサービスイメージを採用ホームページに乗せているのが成功しているようです。お洒落、高級感、きれいという感想が非常に多く見られます。ウエディング事業を行う同社にとっては、学生はじきにお客様になる可能性が高いわけですから、採用活動にとどまらない意味があるのでしょう。説明会も何度も追加開催して、大量の学生にイメージを認知させているようです。
■理系に人気のある採用ホームページ
 理系の人気ナンバーワンはソニーで、こちらもダントツに評価です。選択理由を見てみましょう。
【ソニー】
・ HPをスタイリッシュにするなど、力を入れており、企業の魅力が伝わってきたから
・ デザインにインパクトがあったから
・ 企業の色が出ている
・ 面接に対する心構えや考え方などまで記載されていたため
・ デザイン性と情報量を兼ね備えていたから
・ デザインがすごい
・ 企業の色が出ている
・ 学部生の採用を積極的に行っていることをアピールしており、学部生の社員の話なども載せていたから(電機メーカーでは珍しい)
・ 学部生用のES(エントリーシート)のアドバイスもあり、参考になった
・ 選考情報がしっかりと開示されていたから
・ 自社の情報を積極的に開示しているため
・ 他の会社のホームページにはないようなデザイン、内容の豊富さでした。入社できるなら入社したい会社でした
 ソニーらしい、デザインが良いというコメントが多く見られ、学生にとって企業イメージ通りの採用ホームページになっているようです。
 また、選考情報、面接、エントリーシートの情報開示、アドバイスが充実していることにも多数の評価を得ています。連載の前回で述べましたが、不透明な選考情報に不満を持つ学生が大変多く、情報開示をしっかり行う姿勢が学生に好感を持たれたのでしょう。ぜひ他社も見習ってほしいところです。
 理系の2位、3位はトヨタ自動車、東日本旅客鉄道です。それぞれの選択理由を見てみましょう。


【トヨタ自動車】
・ 世界観を強く感じ、また独自のスタイルを貫いていると感じられるものだったから
・ 理念がしっかり伝わってきた
・ 会員のコンテンツが豊富で、先輩の経験も多数掲載していること、職種・部署ごとの業務内容が細かく載っていて職場をイメージしやすかった
・ 技術者のフィールドワークが分かりやすく表示されており、自分の研究内容がどのような業種で活用できるのか分かりやすかった
・ 社員一人ひとりが、ものすごく活気に満ちていた。環境問題に関心が強く、クールビズの対応もしっかりしていた
・ 全体的に分かりやすく、他の就活生用に特化した企業のホームページの内容と違って抽象化しすぎていないところが良かった
・ 会社のキャリアビジョンが良かった
・ 女性技術者に対する福利厚生がしっかりと書かれていたため
・ 選考日程などの表記が分かりやすく、企業研究の参考になる情報も多かったため。選考結果の反映も早く、ストレスを感じなかった
 トヨタらしく、理念、世界観が学生に強い印象を与えているようです。また、抽象的なイメージに依らない具体的な情報が多く、地に足のついた採用情報だと学生に好感を持たれているようです。特に理系学生にとっては、「自分の研究内容がどのような業種で活用できるのか分かりやすい」ことが、具体的に仕事をイメージできることにつながっているようです。
【東日本旅客鉄道】
・ ゲーム感覚で企業のことが知ることができ、興味深かった
・ 毎回の面接の雰囲気などが内定者日記に載っていたので、とても参考になった
・ 項目数がたくさんあって充実しており企業研究がしやすかったですし、見たい情報がたくさん載っていたから
・ バーチャルシステムで飽きない仕掛けを施していたため
・ ログインするたびに日本各地を鉄道で回ることができる仕組みは、企業の理解を深めつつ、ユニークだったから
・ 採用の流れが分かりやすい
・ 先輩社員のことなどが詳細に紹介されていたこと
新入社員に対してアンケート調査をするなど、就活生にとって有意義な情報が多かった
・ 企業のイメージカラーを基調としたHPづくりがされている。情報量がしっかりしているが、内容が固くなくポップな印象を受けた
・ エントリー手順と、自分がどのステップまで行ったかが分かりやすく表示されていたから
 ログイン後の企画性のあるコンテンツを評価するコメントが多数見られます。特に、ログインするたび、バーチャルに鉄道で各地を回る仕掛けは評判が良いようです。情報量は多いが、ゲーム感覚、ポップなイメージで、飽きさせず、分かりやすく見せる工夫は、しっかりと学生に届いているようです。
 そして、選考情報を分かりやすく見せていることも特徴のようです。自分が今どの段階にいるか分かることは、学生にとって何より重要な情報です。
 さて、こうして人気の高い採用ホームページを見てみると、共通するのは、企業イメージに合っていること、デザインの良、豊富だが分かりやすいコンテンツ、学生目線に立った親切な見せ方、そして選考情報の情報開示です。これらに加えて、どのような企画性を持たせるのかがサイトの個性化につながります。
 逆に評判の悪いサイトのコメントもいくつかピックアップしましょう。
・ 内容が少なすぎる。見てもつまらない
・ 情報を過度に良いように宣伝してる
・ 情報が多い。分かりづらい
・ ごちゃごちゃしていて読みづらかったです
・ 文字ばかり
・ 派手なデザインにこだわりすぎて非常に見にくかった
・ 大きい会社の割にオリジナリティを感じなかった
・ 見た目を重視してFlashを多用しているため、iPhoneなどの端末からは利用できなかった。スマートフォンを持っていてもリアルタイムで選考の予約をできないようではメリットがない
・ 見づらかった(特にiPhoneで見るときに)
・ 企業の目指す方向性が分からなかった
・ 抽象的すぎる
・ 企業の宣伝のようなものが多く就活生に向けた情報が少ないように感じた
・ ESで不合格者には連絡が一切ないこと
 当然と言えば当然ですが、人気の高い採用ホームページと逆のポイントで評価を落としています。
 最初に書いたように、集中化する中で採用ホームページの役割は増してきます。採用フローに合わせて、ターゲットとなる人材といかにコミュニケーションを深めていけるか、採用ホームページと実際の採用活動がしっかりと戦術の歩調をそろえる必要があります。もちろん制作にかけられる予算に限度はあるでしょうが、上記の良い点、悪い点を参考にして、採用ホームページを今一度チェックしてください。
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