12月1日から、本格的な採用戦線がスタートしました。マスコミなどで報道されたとおり、大手就職ナビがサーバダウンしたり、サイトがつながりにくくなるほど、学生のアクセスが集中しました。それらの就職情報会社の方に聞いたのですが、ある程度のアクセス集中は想定していたものの、その上限をはるかに超えていたそうです。
 また、就職イベントにも軒並み人があふれかえり、入場制限をするところが続出。これも運営する就職情報会社に聞いたところ、昨年同時期の数倍の学生が来て、それ以上会場に入れると危険と判断したそうです。これまで就職情報会社はプロモーションに力を入れて就職イベントへの学生集客数を競っていたのですが、全く逆の状態になりました。
 まるで、水がたまりにたまったダムが決壊したかのごとく、企業と接触が制限されていた学生が、解禁と同時にどっとあふれだしたようです。就職ナビがつながりにくい状況がまた学生の焦りを増幅させ、中には1日で100社以上のプレエントリーをした学生もおり、ちょっとしたパニック状態と言えます。
 なぜこのような状況が生まれたのか、今後採用側としてはどのような対応が求められるのかについて考えてみたいと思います。

短期集中化したもともとの理由

短期集中化については、私は5~6月頃からアンケート調査に基づき、これまでにない強さで起こるだろうと予測していました。この連載の第3回で解説をしていますが、改めて簡単に書くと、
「経団連が10月から12月に採用広報開始時期を遅らせたが、そのこと以上に大きな影響だったのが、大手の就職情報会社が一斉にこれに同調したことだ。これによって、経団連の倫理憲章共同宣言企業、約730社だけの話ではなく、新卒採用を行う日本中のかなりの数の企業~おそらく1万社を超える~が、12月1日に集中してしまうことになる」
――ということです。企業側のアンケート回答を見ると、その集中度が高いことが分かります。
 一方で、4月の選考開始もより集中度が高くなると予測しました。これもアンケート回答を見れば一目瞭然ですが、そうなる理由は、震災で選考時期を遅らせて6月にした大手企業の多くが採用に苦戦した経験から、来年(2012年4月選考開始)は絶対に遅れられないという認識を強く持っているからだと推測しています。ただし、開始は集中しますが、選考が長引くとみている大手企業は少なくありません。さらに中堅・中小企業は、その大手の大勢が決まらないと多くの学生の意識が自分たちに向かないと考え、5~6月から選考が本格化すると考えています。

予測を超える集中化はなぜ起こったか

以上のように私自身予測していましたが、それを超える集中化が起きていると感じています。それも大手企業に、です。
 いくつかの大手企業に直接ヒアリングしたところ、昨年の5倍を超える勢いでプレエントリーが増えているようです。当初これらの企業は、12月初めにプレエントリーが集まるか不安を持っていました。多くの企業がこの時期に広報を集中させるからです。しかも、短期化しているため、会社説明会に学生を呼び集めるためには早く学生の母集団を形成しなければならないと考え、スタートダッシュのプロモーション計画を立てていました。
 結果として、その対策が功を奏したかどうかは別として、予測以上のプレエントリーが集まったわけです。ただ、こうした特別の対策をとっていなくても、大手企業の多くでは昨年比で2~3倍に上るプレエントリーの勢いは当たり前になっているようです。ある採用アウトソーシング会社は、大手企業の応募者データ管理を受託しているのですが、その勢いはすさまじいようです。また、大手就職ナビの担当者によると、12月以前は昨年対比で登録会員が半分程度にとどまり、どうなることかと不安視していたが、12月1日以降すさまじい勢いで会員数が伸びており、すぐ昨年並みに追いつくだろうとの話でした。
 このような予想を超える集中化が起こっているのはなぜでしょうか。
 経団連が12月1日以前の企業と学生の接触をかなり厳しく制限したことが一つの原因と言えると思います。グレーゾーンを極力減らすために、大学内のキャリア講座への協力を自粛するように傘下企業に要請したり、OneDayインターンシップなどを禁じたりしました。また、大手就職情報会社がこれらの動きにも同調し、インターンシップを紹介する合同イベントなどを相次いで自粛しました。つまり、これらの動きにより、12月1日以前は極度に企業と学生の接触が制限され、学生の就職意識の低下を招いていた――ということが起こってしまっていたのです。大学キャリアセンターの方々からよく聞く話ですが、12月に採用広報開始が遅れたことで、学生の就職意識が高まらず、就職ガイダンスに学生が集まりにくかったとのことです。
 そうした「乾いた状態」の学生に、12月1日に一気に企業の採用情報が流れ込んだことが、一種のパニック状態を生んだと言えます。
 そして、無視できないのが「短期集中化」を伝えるマスコミ報道の多さです。私も多くのマスコミの方々にコメントを求められ、上記のようなデータに基づいて大手企業の選考短期集中化について説明しました。ただし、これは、採用広報開始から大手企業の選考の「開始」までの間が短期化するということです。つまり、①大手企業といえども選考が長引くと予測している、②準大手、中堅・中小企業の選考のピークはその後になるので長期化が予測される、③だから大手ばかりを志望して、それでダメだったら終わりではなく、早くから中堅・中小企業を視野に入れて、慌てずに就職活動を進めること――を学生へのアドバイスとして伝えるのですが、やはり記事としては「短期集中化」の言葉だけが独り歩きしてしまっているようです。
 これらの情報にあおられた学生が、強い不安心理から、乗り遅れないように12月1日に一斉に動いたのでしょう。すると就職ナビはつながらない状態で、さらに不安になり、何度もアクセスを繰り返す。まさに集団パニックと言えるかもしれません。

極めて「薄い意識の母集団」であると心得るべき

さて、今後このような状況に対して、4月から選考開始を考えている(もしくはもっと早期の選考を考えている)企業はどのような対応をすべきでしょうか。
 詳細な状況分析とそれに基づいた対策提示は年明け以降に行うとして、ここで言っておきたいことは、今形成している応募者母集団は「極めて志望度の低い、どの企業にプレエントリーしたかすら忘れている」傾向が強いことを肝に銘じておくべきでしょう。年内はしばらくこの状態が続くとみてよいと思います。
 おそらく、会社説明会の「ドタキャン」は非常に増えるでしょう(一部の超人気企業以外は)。学生は取りあえず申し込めるところは申し込んでおくという行動をとるからです。
 このような「疑似母集団」を、これまで同様に扱っていてはいけません。「真の母集団」を作るために、さまざまな手を使って、この疑似母集団をふるいにかけ、求める人材が濃い層の母集団に絞り込んでいき、そこに集中してコミュニケーションを仕掛けていくことが必要です。
 このさまざまな手というのは、その企業が置かれている採用ポジションによって違ってきますし、まさに戦略の肝になるので、今回はこれ以上触れませんが、とにかく数に惑わされず、「真の母集団」作りに早期から取り組んでほしいと思います。
 逆に言うと、“量を追うプロモーション”は控え、ターゲットとなる対象と直接深いコミュニケーションをとる手法を強化すべきだと思います。もちろんそうした方向性で戦略を立てている企業が多いと思いますが、これまでとはレベルがかなり違う「疑似母集団」が大量に集まってきている事実を認識し、より一層の密度の濃いコミュニケーション戦略を検討すべきだと思います。

次年度に向け、この状況をどう変えるか

現実に起こっている現在の状況に対して、企業は求める人材を確保するために、きれいごとではなく現実的な対応が求められると思います。しかし、次年度も同じことが繰り返されてはいけないと思います。
 以前にも書きましたが、就職ナビ依存が強すぎる現状(学生も、企業も、そして大学も)では、この状況は変わらないでしょう。もちろん就職ナビ自体が悪いのではありませんし、上手に活用すれば大変便利なツールです。私の知っている就職情報会社の方々は、いかにこの混乱状況を改善できるか知恵を絞っています。しかし、使う側の就職ナビ依存が強すぎる状況を変えないと、これまで以上の学業圧迫、落ち続ける経験をする大学生を大量に生み心を折る、ミスマッチによる活動長期化など、問題は一向に収まらないと思います。
 学生が、自分が求められる企業中心に活動する、地に足の着いた就職活動を実現するために、関係者皆が知恵を絞らなければならないと私は考えています。
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