経団連は、企業の就職・採用活動ルールである「倫理憲章」の名称を、2016年卒から「指針」に変更することにしました。これは、これまで企業の自主ルールとして定めていたものが、政府の要請によるルール変更であることを明確にするためとのこと。スケジュールは政府要請のとおり、採用広報解禁は大学3年生の3月、選考開始時期は4年生の8月になります。これまでの倫理憲章は、経団連会員企業の中で賛同する企業の約830社を対象とした自主ルールでしたが、「指針」は経団連の会員企業すべてに向けての共通ルールとなり、より拘束力の高いものとなります。
ただし、8月といえば、次の年次を中心としたサマーインターンシップの開催期間とぶつかることや、通常多くの企業では第2週目あたりから夏季休暇になることなどを考えると、8月選考開始をどこまで企業が守ることができるのか、早くも疑問の声が挙がっています。
また、正式内定開始は従来の10月1日から変更されませんので、選考期間がこれまでの6カ月間から2カ月間に大きく短縮されることになります。中堅・中小企業の多くは、大手企業の採用活動が落ち着き始めてから採用選考を本格化させるので、10月1日は内定開始日ではなく、選考開始日になる企業も少なくないでしょう。
HRプロでは、政府提言の採用スケジュールの後ろ倒しについて、3月に採用担当者を対象とした緊急アンケートを実施し、その結果については4月の本連載でご報告したとおりです。その後、スケジュール変更の対象は2016年卒からとなり、スケジュールの後ろ倒しがいよいよ現実味を帯びてきた4月末に、再度、採用担当者向けにアンケート調査を実施しました。その中で、新たに聞いたことが二つあります。一つは、「3月の解禁日前に何をするか」、そしてもう一つは、「8月選考開始に向けてどう動くか」です。

■早期施策は、「インターンシップ」と「キャリア講座」

採用広報解禁日が現在よりも4カ月遅い3年生の3月となった場合、企業はそれまで何もせずにいられるものでしょうか。「3月までは一切採用広報はしない」と回答した企業は全体の30%にとどまり、「インターンシップなどでの学生との接触機会を増やす」44%、「大学のキャリア講座等への講師派遣」33%、「その他」が14%となりました(複数回答)[図表1] 。「その他」の内容としては、「オンラインセミナーなど採用ホームページの充実」「Facebook採用ページの活用」「キャリアセンターとの関係強化」「研究室訪問」などが挙がっています。
第28回 3月の解禁日前に何をし、8月選考開始に向けてどう動くか
「インターンシップなどで学生との接触機会を増やす」と回答した企業は、2014年卒向けにインターンシップを実施したと回答した企業の割合(27%)よりも大幅に上回ります。これまでインターンシップを実施してこなかった企業も、インターンシップの実施を考えざるを得ないとしていることになります。後述する2015年卒向けのインターンシップ実施予定企業の割合にもその兆候を見て取れます。
もう一つのキーワードである「キャリア講座」とは何でしょうか。それは、1年生から3年生を対象とするキャリア教育の一環として、「業界研究」「職種研究」等をテーマとして開催されるキャリア支援講座のことです。対象学年向けの学内企業セミナーの開催は採用広報解禁日以降という制約を受けるのに対して、キャリア支援講座は、採用・就職活動とは異なるとの理由から開催時期に特段の制約がありません。解禁日前であろうが開催が可能なわけです。
この手のキャリア支援講座は多くの大学で開講されていますが、その講師はさまざまです。学内の教授・職員が務めることが基本ですが、就職情報会社等の採用関連サービスを提供している会社の担当者が務めることや、各業界の企業人(人事担当者、OB/OG等)が務めることなどもあります。受講後の学生に聞くと、評価が高いのは、やはりリアルな事例や裏話などの話も聞くことができる企業人による講座です。ただ、これまで企業側からすると、聴講した学生の個人情報を入手できるわけでもなく、また自社のPRができるわけでもなく、講座への講師派遣協力はどちらかというとボランティア的な受け止められ方が強いものでした。しかし、採用スケジュールの後ろ倒しを考えた場合、早期に“合法的に”学生に対して業界認知、社名認知を図る絶好の機会であると見直されてきたわけです。
「業界研究」の場合、主要業界から1~2社の企業に大学から協力要請をする場合が多いようですが、中には同一業界で3社ほどの企業から打診があれば、その業界研究講座を開講するという大学もあります。キャリア支援講座への講師協力をしたいという場合には、大学にぜひご相談してみてください。

■8月選考開始を守る企業は2割程度?

選考期間が現在の6カ月から2カ月へ短縮化される中、企業は8月をどう迎えることになるのでしょうか。「8月選考開始に向けてどう動くか」を聞いたところ、「8月以前に選考は一切しない」と回答した企業は22%にとどまり、「8月以前に選考を実施する」34%、「8月以前に予備選考を実施する」33%、「リクルーターを強化する」18%、「その他」9%という結果になりました(複数回答可)[図表2] 。
第28回 3月の解禁日前に何をし、8月選考開始に向けてどう動くか
「リクルーターを強化する」とする企業は従業員規模により差異があり、従業員数1001名以上の大企業では31%に及び、「8月以前に選考を実施する」と同数となっています。「リクルーターを強化する」とする企業の4割は、2014年卒採用ではリクルーター制を採用しておらず、今後リクルーター制へ移行するということになります。今年32%だったリクルーター制を導入する大企業は、今後大幅に伸びてくるでしょう。リクルーターによる水面下の活動(予備面接)を活発化させ、8月になると同時に短期間で選考・内定出しを行うことをイメージしているようです。
 ちなみに、「8月以前に選考は一切しない」とする企業の割合は、大企業から中小企業に至るまで、どの企業群でも22~23%で差はほとんど見られませんでした。

■実施企業が大幅に増える2015年卒向けインターンシ...

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