私が担当するメンバークラスの研修では、「成果を出すためには、組織力を活用することが必要」としつこく説いています。
今の世の中、お客様のニーズが複雑になり、一人の知恵で対応するには限界があります。同僚、他部署、社外のパートナーを活用して、知恵を結集しないと、競合他社に負けてしまうのです。
 しかし、「確かに、一人では難しいけど、誰に働きかければいいのか・・・」と悩んだり、「開発部に協力を求めたいけど、知っている人がいない」と一歩を踏み出せないでいるメンバーが多いのも事実です。
そんな時、どうすればいいのか?私達は、メンバークラスの皆さんに、「そんなときは、上司を活用してください」と言っています。

 メンバーが組織力を活用するためには、まず私達上司を活用することが第一歩です。
なぜなら、私達は常にチームや部門全体を見て仕事をしています。
そのため、誰がどのような仕事をしていて、どのような成果を上げているかを認識しているはずです。
メンバーから「今度、機械メーカーに提案をするのですが、誰に相談すればよいでしょうか?」と質問されれば、「確か2ヶ月前に営業1部の吉田さんが機械メーカーで受注を上げていたな。質問してみたら」とアドバイスできます。

また、私達上司はマネジャー会議や様々な会合で他部署のマネジャーとも交流があるはずです。
メンバーが「開発に相談したいのですが、知り合いがいなくて・・・」と相談してくれば、「じゃあ、まず私から開発のマネジャーに話してみるよ」とヘルプしてあげることも出来ます。

 このように、メンバーからすれば、上司が組織力活用の第一歩となることが多いのです。
私達上司は、メンバーの成果を最大化するためにも、「活用される上司」にならなくてはいけません。

 しかし、以下のような上司は「活用される上司」にはなれません。
①話しかけにくい上司
 いつも忙しそうで、「話しかけるなオーラ」を出している上司は、メンバーからするとなかなか活用できません。
 「話しかける」ということ自体に勇気がいるため、なかなか一歩を踏み出せないのです。
 忙しい中にも余裕を持った態度を意識したり、自分から話しかけるなどの余裕が欲しいものです。

②社内人脈が狭い上司
 他部署の人脈が薄いと、「活用される上司」にはなれません。
 私達上司自らが積極的に他部署に働きかけ、時には他部署のヘルプをして強い人脈を築いておかないと、いざメンバーから「誰か紹介してくれ」と言われても紹介する人がいないのです。気を抜かず、日々人脈作りを意識したいものです。

③他人の仕事に興味がない上司
 この上司が一番厄介です。他人の仕事に興味がなければ、「誰が、どのような仕事をし、どのような成果を上げているか」をキャッチしていません。
 ですから、「○○さんに聞いてみたらいいよ」というアドバイスが出来ないのです。
 そのため、自分の古い経験を持ち出して、時代錯誤のアドバイスをし「あの上司のアドバイスは使えない」と言われてしまいます。

 自分の部下であるメンバーの成果を高めたいのであれば、今日から「活用される上司」を意識してください。
営業として成果を出し続けている人をみると、上司をうまく活用している人が多いようです。
代表的な活用の仕方が、「同行」です。お客様企業と関係性を深めたいときに、上司に同行を頼みます。お客様は「わざわざ上司を連れてくるということは、うちのことを大切に思っているのだ」という感覚を持ち、良い効果が得られることが多いようです。

 また、担当者だけと会っていてもなかなか話が進展しないときに、「上司をつれてきますので、部長と挨拶させて欲しい」等といって上層部と会うきっかけにしている営業もいます。
時には、契約間近のクロージングで上司に同行を頼み、ライバルとの差別化に活用しているケースもあります。

 このように、営業メンバーから同行をお願いされる上司は、「活用される」頼りがいのある上司と言えます。しかし、営業メンバーとの同行に当たっては、注意すべき点があります。

①本当に同行するケースかどうか見極める
 メンバーから「お客様に同行して欲しい」と頼まれると、「任せろ!」と二つ返事でOKしてしまう上司がいますが、ちょっと待ってください。その同行は、本当に必要でしょうか?
あまり深い意味がなく、「とりあえず上司を連れて行けば何とかなるかもしれない」程度の理由で同行をお願いしているメンバーは、上司に依存しすぎています。
十分に考える前に上司に頼っていては、そのメンバーの成長が危ぶまれます。
「なぜ、同行が必要なのか?」「同行の席で、自分に何を期待しているのか?」などをしっかりと質問してください。
その上で、「上司をうまく活用して、活路を見出そうとしている」と判断した場合は、是非同行してください。

②商談の場を独占しない
 メンバーと同行すると、「自分の存在感を発揮してやる」とばかりに張り切りすぎて、商談で発言を独占してしまう上司がいます。特にひどい上司は、「いやー、こいつはまだまだ半人前でして。ご迷惑お掛けしていませんか?」などと、メンバーを卑下するような発言をする上司です。洒落のつもりでも、お客様からすると「そんな人をうちの担当にしていたのか」と感じられるリスクがあります。
また、メンバーからすると「余計なことを言いやがって・・・」と嫌な思いをします。
 あくまで主役はそのお客様を担当しているメンバーです。
私たちは、メンバーの営業を円滑にするための手段として同行しているのです。
メンバーのペースを理解し、自分の出方を決めてください。
特に、「山田は、御社のことを本当に大切に思っています」「いつも、社内で御社のことを話題にしています」など、メンバーを立てることをお忘れなく。

③何のために来ているのかを常に意識する
 よく、「上司を連れて行ったら、商談を潰された」などと言った発言をするメンバーがいます。これは、上司が同行の目的を理解しないままに場違いな発言を繰り返した結果、商談がうまくいかなかった例です。
 先方との関係性を強化するのであれば、これまでの取引に感謝の念を示したり、穏やかに世間話するなどの振る舞いをします。
もちろん、これまでの取引状況や、トピックスを確実に認識して訪問することが必要です。
 関係性を強化するのが目的なのに、自社商品を必要以上にアピールしたり、自分のウンチクを得意げに話すなど、お客様の気持ちを害するような対応をすると台無しになります。

メンバーから活用される上司は、ほいほいと同行する上司ではありません。
同行の意味を捉え、適切な対応ができる上司です。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!