文京学院大学人間学部人間福祉学科 教授 松為 信雄 氏
綜合キャリアトラスト 代表取締役 宮林 利彦 氏
モデレーター:HRプロ 代表/HR総合調査研究所 所長 寺澤 康介

企業の社会的責任を果たすだけでなく、障害者を戦力化していく視点が必要だ。

雇用拡大とともに進んできた障害者採用の売り手市場化

「法定雇用率UP、精神障害者雇用義務化問題など、障害者雇用のこれから」
まず、障害者雇用を専門分野とする研究者であり、国の障害者雇用に関する各種政策にも長年かかわっている松為氏が、「障害者雇用を進めるには」と題してショート講演を行った。最近の法改正の流れをレビューしたうえで、松為氏は「今後、大企業だけでなく、中小企業に対しても障害者雇用をもっと拡大するようお願いしていこうということが国の政策になっている。特に中小企業への影響が大きくなる」と指摘。このような状況を踏まえ、企業の障害者雇用を取り巻く最近の課題がどのようなものかを解説していく。
 松為氏がまず挙げたのは、雇用拡大に伴う障害者採用の売り手市場化だ。特に障害者のなかでも知的・身体障害者は労働市場に出尽くしている。松為氏は新たな障害者の発掘が大きな課題だとし、こう述べる。「知的・身体障害者の人たちをいまから労働市場で探そうと思っても、ほとんど不可能に近い状況だ。しかし、患者数の統計を見ると、知的障害を持つ人たちは40万人に満たないが、精神障害を持つ人たちは実にその7倍いる。今後は精神障害を持つ人たちをいかに採用していくかが重要だ」。また、障害者雇用においては離職者の多さ、職場定着の難しさが以前から課題となっているが、これが売り手市場によってさらに深刻化している。このため、職場定着に向け、日常的なマネジメントに関するきめ細かい配慮をどのように行うかも問われてきているという。
 そうしたなかで、障害者への支援のあり方をどう考えるか。企業が行う業務の部分での教育のほかに、これから求められるのは生活の部分での支援だ。生活の部分を支えるシステムがないと、実は職場定着は難しい。しかし、そのノウハウを企業は持っていない。だからこそ、企業は、支援機関、家族、医療など、本人を支えるネットワークと連携することが大事だというのが松為氏の見解だ。「これからの障害者雇用問題は企業だけが努力してもだめだし、支援機関だけが頑張っていてもだめだ。いかにネットワークを作って、みんなで支えていくか。その視点がないと、企業側の負担感が大きくなっていく」。

精神障害者主体の事業部で「成果」を出した取り組み事例

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