「人事のミッション」から始まり「人財確保」「採用ポイント」「未来投資」「教育目的」と,人事部門が携わる大切な仕事を例に「持続可能な組織の条件」をお伝えしてきました。最終回となる今回のテーマは「評価」です。

その評価制度に 当事者は関与しているか

  「人事のミッション」から始まり「人財確保」「採用ポイント」「未来投資」「教育目的」と,人事部門が携わる大切な仕事を例に「持続可能な組織の条件」をお伝えしてきました。最終回と「評価」に対する多くの方の関心事は「どう評価するのか?」ではないでしょうか? 私も評価について質問をいただく際は「どんな評価制度や評価方法が社員のモチベーションを高めますか? 生産性や業績が上がりますか?」といった内容が多いです。

 ですが「制度」や「方法」に関する話は,掘り下げれば掘り下げるほど浅くなり,不毛な議論になります。理由は,その議論に当事者がいないからです。

 「どう評価するか?」は評価者側の都合であり採点者視点です。企業組織は一緒に働くメンバーによって成り立っている集合体であることを忘れてはいけません。であれば,メンバーを交えた議論やメンバーの立場になって考える必要があります。

 例えば「評価とは何か?」または「そもそも評価は必要なのか?」といったところから話し合ってもいいでしょう。もちろん「評価」は不要だといいたいのではありません。企業として貢献度の高いメンバーを称えることは非常に大切です。ところが「評価制度」となると当事者不在のありがた迷惑な施策となりがちで,個々人のやる気を下げてしまう有害な制度になってしまうケースが少なくないのです。

4社の事例にみる 社員が納得する評価の本質

  一緒に働く仲間(当事者)のことを考えて創られた評価の仕組みを4例紹介したいと思います。

(1)年長者を尊重
 数十名が工場に勤務する製造会社Aで取り入れられている評価の方法は,いわゆる年功序列型です。いちばん多くのお給料を貰う年長者の男性は,若者に比べて仕事時間は短く作業量も多くはありません。ですが工場で働く仲間全員が年長者の収入を含め仕事内容を理解し尊重しています。それは若者が持っていない熟練工としてのキャリアを評価した結果であり,若者へ「若い頃に頑張って働いてきた年長者を仲間として大切にする会社」というメッセージを送っているのです。

(2)仕事以外の要素も評価
 社員50名のIT企業Bでは,社長を含めた全員の給与を全社員で決める方法を採っています。それぞれが担当する業務やプロジェクトを振り返る年2 回のミーティングで貢献度に見合った給与の見直しを行うのですが,利益貢献がすべてではなく,業務態度や人間性といった点を含め,仕事だけに留まらない判断軸を持った全社員の合意によって決定し評価する方法です。この制度からは,「隠しごとのないガラス張り経営を大切にしている方針」がうかがえます。

(3)商品への愛着を評価
 飲料メーカーのC社は,売上の目標やノルマはなく,どれだけ自社商品に愛着を持っているかを評価の基準にしています。

(4)目標達成を絶対評価
 また同じ飲料系でもD社の場合は売上の目標達成率を絶対評価にしています。業界内でも各社各様です。
 ご紹介した4 社に共通しているのは,社員の定着率が良く社員満足度が高いということです。

評価を「5W1H」で 見直してみよう

  では「評価」をどのように確立し浸透させていけばよいのでしょうか? 図表に掲げた「評価」の5W1Hを使って説明したいと思います。

□「Who(誰が)」
まず,誰が評価を称えるかが重要です。当事者本人が褒められて嬉しい人選をしましょう。社長,お客様,家族などいろいろ考えられます。

□「What(何を)」
 会社に対する貢献を何で称えるかです。利益,リピート率など会社からの期待値の裏返しメッセージになります。ある会社は「お客様から届いたサンキューレターの数」を評価軸にしています。

□「When(いつ)」
 集中的に取り組んでいることであれば短い頻度を設けたほうがいいでしょう。最低でも年1 回は必要です。

□「Where(どこで)」
 短い頻度での評価なら毎朝の朝礼などになるでしょうし,多くの方へ大きく伝えたい場合は全社員が集まる機会になるでしょう。

□「Why(なぜ)」
 称えるべき点は何だったのか?その共有は模範例を示す大切なポイントです。

□「How much(いくら)」
 評価の報酬として誰しもが必ず現金を求めているとは限りません。ある会社では業績結果や成果に給与が連動していませんでした。ただその会社のメンバーは年に一度,社長から授与される感謝状がほしいために頑張っているとのことでした。どれほど価値のある感謝状なのかと思い見せてもらうと,それはそれは素晴らしい感謝状でした。称えられたメンバーが1 年間,どんな苦労と工夫をして会社に何を貢献したのか,そして社会に与えたインパクトなど定性的&定量的にこと細かに綴られた世界に1 つしかない感謝状だったのです。
第6回 持続する組織は評価の納得度が高い(最終回)

制度や方法ではなく 納得感がキーポイント

  みなさんご存じのように評価制度や評価方法は,年功序列型や能力主義そして減点評価や加点評価など様々な選択肢があります。しかし,一緒に働く仲間や自社に合っていない評価を導入しても意味がありません。「どんな評価制度や評価方法がいいのか?」という質問に対して,私は決まって「何でもいいと思います」と答えます。要は働く方々が納得感を持ち,企業が本気で運用しているのであれば能力主義でも年功序列型でも何でもいいのです。

 逆に働く方々が納得していなければ,どんなに完成度の高い制度&方法でも評価によって生産性や業績が上がることはないのです。次の評価に向けて,メンバー目線で評価の納得感と運用面を見直してはいかがでしょう。

                            ※                ※

 半年間,担当させていただきました『持続可能な組織の条件』の連載は今回をもって終了となります。ご愛読いただきありがとうございました。みなさまの組織が将来にわたって持続されることを心より願っています。
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