人事の方にとっては,猫の手も借りたいほど多忙なこととお察しいたします。採用サイトやアウトソーシングで急場をしのいできた採用活動も,ここからは人頼みにできない重要な時期に入り,人事部門では3月末まで選考で頭を抱える日が続きそうです。
 そこで今回は,前回の人財確保から一歩進めて採用時における持続する組織人事の共通点についてお話をさせていただきます。
なお,今回ご紹介するデータは,私も委員を務めたプロジェクトの報告「中堅・中小企業の人財確保に関する調査研究」(法政大学大学院中小企業研究所2011年12月発行)を基にしています。

社員数の過不足感と採用満足度の関係

本題に入る前に,社員の過不足感について整理しておきます。今回の調査では「過剰」と答えた企業が13.3%に対して「不足」は28.9%と2 倍以上の開きがありました。とりわけ好業績企業での不足感は深刻で,過去5 年間の平均売上高経常利益率が概ね10%以上という好業績企業では,45.8%が社員の不足感を回答しています。
また,好業績企業では採用意欲も高く,今後社員を「増加させたい」とする回答が58.3%に達しました。
 では,赤字企業は人員過剰なのかというと,そうではありませんでした。赤字企業であっても社員不足を嘆いている企業は多くあります。ただし,同調査にて採用における満足度を聞いたところでは,好業績企業の45.8%が満足と回答しているのに対して,赤字企業の満足度は25.0%にとどまり,さらに,社員確保の課題で「社員の離職」を課題とする企業の割合では,好業績企業が8.3%であったのに対して赤字企業では38.9%という結果になっています。
 以上のことから好業績企業(=持続する組織)では,「採用した人に満足して,辞める人が少ない」,逆に赤字企業では「採用した人に満足せず,辞める人が絶えない」ということが分かります。“鶏が先か,卵が先か”という堂々巡りになりがちな話ですが,以下では,“好業績企業がどんな人をどのように採用しているのか”という視点でヒントをお伝えしたいと思います。

好業績企業が共通して重視する採用ポイントとは?

今回の調査のうち「正規社員を採用するにあたり重視している点はありますか」との質問では興味深い回答が得られました。御社では新卒・中途を問わず正規社員を採用する際に何を重視していますか? 全体回答の結果は図表1 の通り「コミュニケーション能力」が71.4%,続いて「協調性」「誠実性」がトップ3 でした。それ以下も「責任感」「チャレンジ精神」「主体性」と,個別の専門能力などより対人関係能力や人間性を重視している傾向が分かります。ここで着目すべきは経常利益率別で見た場合です(図表2 )。とりわけ「チャレンジ精神」については,好業績企業と赤字企業とで大きく差が広がっています。もちろん,前提として,チャレンジしたことを称える風土や評価する制度の存在が不可欠ですが,チャレンジ精神に富んだ人の採用が高収益に寄与していることを感じさせます。
第3回 好業績企業に共通する採用ポイントとは?
第3回 好業績企業に共通する採用ポイントとは?

好業績企業が行っている採用方法とは?

では,チャレンジ精神など対人関係能力や人間性の高い人財をどのように見極め採用しているのでしょうか? 近年の採用方法では効率化やデジタル化が進み検査やテストが主流になっていますが,それらはあくまでも補助ツールでしかないことを,今回の調査で再確認できました(図表3 )。
 さらに研究結果では好業績企業のほうが面接回数を重ねていることや,社長が面接に登場するタイミングが早い( 3 回目以内)ということも分かりました。
 ある工事会社の社長は「言葉を信じるな,顔を信じろ」という信念を持ち面接重視の採用を行っています。またあるメーカーの社長は1 回目の面接に登場し,社長面接通過後は人事担当者に採用の合否を任せていました。さらにある広告会社の社長は会社説明会の受付を自ら担当し,そのときの応対ぶりから人財を判断するという話も聞きました。もちろんこの3 社は業界ナンバー1 ,オンリー1 の好業績企業です。
第3回 好業績企業に共通する採用ポイントとは?

汎用性のある「採用マニュアル」はない

ひと昔前,採用の効率化や規格化が注目された時期があります。業界や職種によっては,コンピテンシーモデルを用いて能力を可視化ができるかもしれません。ただ,「持続可能な組織」という意味では顧客ニーズや時代ニーズの変化によって求められる人物像が様変わりしていきます。実際に持続している組織の人事の方々が共通して指摘するのは「採用にマニュアルはない!」ということです。理由は「いくら他社で高評価を受け優秀な人財であっても,うちの会社で活躍するとは限らないから」というところにあります。つまり,汎用的な方法論はないということを今回の調査研究を通して改めて感じました。
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