就職氷河期の今、採用関係の記事を読むと、「仕事が合う、合わないなどは、一年や二年で判断できるものではない」「やってみて、失敗してみて初めてわかったこの仕事の面白さ」「最初は、がむしゃらにやっていただけ。その中で能力が磨かれた」などという業界第一人者の経験談が書いてあったりします。

こういう記事があちこちで目につくほど、このような厳しい市場環境の中でも、一定の職場にとどまれない、我慢できない新入社員が多いのは実態かもしれません。まれに、「昭和的価値観(年功序列的人事制度や新人は下積みからの仕事中心にさせる)」の企業を否定的に見る人が、「会社は三年で見切りをつけろ」というようなことを言っていたりもしますが、それは相当上を目指し、意思と力のある人向けの話で、逆に力がそこそこならば、転職は今の時代、むしろマイナスにしかならないと思ってます。

NHKの番組で「プロフェッショナル 私の流儀」という番組があります。色々な職業の方が出演されますが、
●多くの人が自分の意思で今の職を選んだわけではない。どちらかといえば、成り行きで職に就いた。
●もがきながらも自分のやり方、考え方を身につけていった。
●現在は、その仕事に誇りを持ち、周りに認められている。というのが全体の傾向です。

自分を振り返っても、そんな感じです。(え、まだ、周りに認められてない?・・・そんな)多くの社会人が、「自分に合うかどうか」ということは考えずになんとなく職業人になり、そこで研鑽してプロになっていったのではないでしょうか。
「適職だとまず自分で思わないかぎり、いくらさがし回っても見つかるものではない」という設問に対する解答は、
そう思う    55.6%
わからない  19.1%
そう思わない 25.3%です。
しかも、実は、この設問、経年でみると下記のように、徐々に正答率は上がっているのです。

いくら企業研究、職業研究、インターン、アルバイトをしようとも実際に(責任を持って)仕事に就いてみない限り、仕事なんてわからないことがほとんどです。

家業を継ぐという場合ですら、あれほどそばで見ているはずなのに、親がどれだけ苦労をして技能を習熟してきたか、やってみて初めてわかるものです。ましてや、サラリーマンの家庭に生まれ、休みの日の(企業では優秀なはずの)父親を見ていても、どう仕事に取り組んでいるのか、その技能も考え方も伝承されているわけがありません。どうあがいても、仕事を責任を持ってやり始めるまでは、仕事の本質、適職かどうかなどわかるわけがありません。

ということをよく理解しているのが、今の新人。だから、その仕事を適職と思って一生懸命取り組むことが大事だと思っている新人が多い・・・と、楽観的に考えると、たぶん、大変なことになります。

表向き、まじめに、「適職だ」と考えて仕事をしている、その彼らを突き動かしている最大の力は、「失敗したくない」という意識だと思います。

ある不動産会社で、朝6時から出社する新入社員がいます。別の部門の管理者がその新入社員に何をしているのか聞いたところ、
「今度、ノンバンクから融資を受ける案件がありまして、それで、ノンバンクのことを勉強しているのです」
と答えたそうです。ただし、その勉強のために、一ヶ月間、朝6時から9時まで勉強しているのです。読破した本は、20冊、大学ノートにびっしり二冊分のメモ・・・実際には、そこまでの知識は必要ありません。ノンバンクの業務を1から勉強したって、実際にその仕事に就くわけではないので、無駄なだけなのです。
でも、「知らないと思われたらだめ」=「失敗したくない」との意識が彼を動かすのです・・直属上司は「そんな知識は必要はない」と指導していたのです。でも、行動は変わりませんでした。これを続けていると、いずれメンタル面がだめになります。どこかで切れるのは、時間の問題でしょう。

別の新入社員は、上司から、「この物件を紹介できそうなところを見つけて、こういう風に案内しろ」といわれ、延々、一日電話をかけていました。これも別の管理者が見つけて、観察していると、機械のように、同じトーク(上司の言う「こういう風に」というトーク)を何十件もの不動産業者に対して繰り返していたそうです。「それで苦しくないのか?」と聞くと、
「ええ、言われたとおりにやり続けるのが仕事ですから」と答えたそうです。

この新入社員は、「言われたとおりにやらないと叱られる。叱られたくない」=「失敗したくない」のです。上司は、「工夫しろ、こういう風に」と実例で指導していました。そうすると、また、その「こういう風に」をそのまま使うのです。このままでは、依存性の高い、親離れできない社員になってしまいます。

彼らは、適職だと思いたい、適職にしたい、だからそれぞれの方法でがんばっているのです。ただ、そのがんばりの原動力は突き詰めると、「失敗したくない」なのです。「自分にプラスにならない仕事をやる?」の回で書きましたが、「「やる気」のある新入社員は、「自分に役に立つ」仕事を探してやる」、「たとえそれが、資料の片付けであろうと、弁当の買出しであろうとも自分の役に立つ」と考えます。考えて工夫します。先輩を見て、どのようにすればよいのか、真似ます。どんな仕事も楽しいし、その楽しさの中で、適職感を見出していくのだと思います。そのベースには、「失敗も経験のうち」という意識があります。

「失敗したくない、失敗はだめ」という、この部分を変えておく必要を痛切に感じています。(余談ですが、飛び込み営業をしていた頃、「別に、殺されるわけじゃないから、どこでも飛び込んで大丈夫」と言われていました。その一言で、警備員さんにつまみ出されたこともありますが、へっちゃらでしたね)

(2012.02.20掲載)

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