子供の頃、毎日会社に行くサラリーマンには自由などあまりないように思っていました。私の実家は自営業で、朝は8時半頃から店を開いていますが、5時過ぎには閉めますので、朝夕家族揃って食事をするのは当たり前。
休みこそ少なかったのですが、日中も比較的自由で、休憩や食事も自宅のリビングで済ませていました。いつ、家に帰っても、両親がいましたし、近隣のサラリーマン家庭にはない自由があったように思います。
そんな家庭なので、「サラリーマンって、毎日大変だねぇ」と思っていたのでした。しかし、実際にサラリーマンをやってみると、思いのほか自由があることに気が付きます。
組織を使って、自分の考えていることを実現していく実感を持つ先輩諸氏も多いのではないでしょうか?

弊社には、創業当初より「選択重点主義」という言葉があります。これは、「選ばれないものは選べない」ということを知らず、「自分が選べないのは不自由」だと考えることです。この考えにとらわれている人を「選択重点主義の虜(とりこ)」と呼びます。

2008年夏季オリンピック、フェンシングで銀メダルを獲得したフェンシングの太田選手は、記者会見で「ニートです。就職先を紹介してください」と言っていましたが、多くの企業からオファーがあったと報道されました。しかも、「東京で」「指導者と一緒に丸抱えで」「競技引退後も身分保障あり」という極めて強気な条件をつけていたのです。それでも、複数の企業からの申し出があり、最終的に森永乳業に就職しました。まさしく、「選ばれる条件を作った」から、太田選手は選ぶ側になったのではないでしょうか。

「自由がない」と考えるサラリーマンは、十分な「選ばれる理由」を作っていないのですね。それがあれば、相当自由な行動ができるのではないでしょうか?

もちろん、企業人としての規律や規則は存在します。それは、どんな社会であってもあるものです。それが「厳しい」とか「ゆるい」ということはあるかもしれませんが、そんなに大きく変わるものではありませんし、多くのルールは、お互いの利益を守るためにあるものです。必要だからあるのですね。

新入社員は、サラリーマンにどれほど自由があると考えているのでしょうか?
「サラリーマンには自由が非常に少なく、拘束される面が大きすぎる」という設問に対しての回答は、次のようになっています。

そう思う(自由が少ない)  31.6%
わからない          28.6%
そう思わない(自由はある) 39.8%

なぜこんな数字になってしまうのか。これは、先輩である我々が反省しなければいけないことかもしれません。
私たちは、楽しそうに仕事をしているでしょうか。仕事にやりがいを感じているでしょうか。そんな姿を見せなければいけないと感じています。もちろん、構造的な問題もあるのですが。

これをどうやれば、「たてまえと本音は違うという考えで仕事をすると、やがてうまく仕事が回らなくなる」と感じさせられるのでしょうか?

一方で新入社員の側に「自由の勘違い」があるようです。自由の捉え方が「好き勝手」のままなのですね。これだけは、直しておかないといけない。その上で、現実の「仕事の上での自由の幅」を教えるのです。

エンパワーメントという考え方があります。現場にどれだけ権限を与えるかということですね。現場の自由裁量の余地を高めることで、仕事の効率、質を高めようという考えです。 鉄道会社の駅係員の研修での話です。

「顧客接点に立つ我々がサービスの具現者だ。できることを考えて、行動化しよう」
と訴え続けました。そんな時、事件が起こりました。
改札口の駅員さんは、改札口から離れることができません。改札にはお金もありますし、黙って改札を通過する人がいても困りますので、離れられないのは当たり前なんですね。

なので、少し離れたところで困っているお年寄りを見つけても、そこには手伝いに行けないのです。大きな荷物を持って、階段を上るお客様を手伝うこともできません。冷たいのではなく、動いてはいけないのです。
る駅に、サービスをしたくてもできない、そのジレンマを感じている、駅員さんがいました。ある時、我慢しきれず、改札を離れてそんなお年寄りをサポートしたのです。

どう考えればよいのか? 私は相談を受けました。
答えたのは、
・ルール違反なので、叱ってください。ちゃんと、理由も伝えて。
・社内報でほめてください。叱ったことも含めて書いてください。
・同時に、社員が部署を離れる必要を感じた際のルールを決めて社内報に書いてください。(改札を閉じ、「しばらくいません」と札を掛け、2分以内に戻る等)

以降、ルールの見直しも進み、サービスが向上していきました。改善する喜びも感じていただけたと思います。

自由裁量の枠を示してあげること。

まずは、これが必要なのではないでしょうか。その範囲内でやらせて、失敗もさせる、そういう度量も我々には必要でしょう。我々だって失敗してきたではないですか。それを先輩や上司にカバーしてもらったこともあるでしょう。

ところで、エーリッヒ・フロムはその著書『自由からの逃走』で、ナチスが台頭するドイツを分析、自由をコントロールしたくない人々の社会的性格(共通した経験等に基づく集団の価値観)を解き明かしました。同様に、現代の日本にも「自由を欲しない」若手がいるように私は感じています。
指示命令を受け、それを取りあえずこなす・・・それで満足・・・

「安定」や「帰属感」などと引き換えに、個の発揮を抑える・・・かつての伝統的権威に束縛されていた時代とは違いますが、別な形で何かに束縛され、そのことに安心感を持つ。こんな若者には、また別の対応が必要でしょう。

皆さんの仕事、職場に自由はありますか?

楽しそうに仕事をしていますか?
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