中根千枝の名著「タテ社会の力学」(講談社現代新書)の中に「日本社会では法的規制はきわめて弱い。人々の行動を律するのは法ではなく、個人あるいは集団間にはたらく力学的規制である」という一文があります。日本の社会は、小集団を単位として成立し、人の行動は、その小集団の論理に沿うのであって、その小集団が属する大集団に沿うわけではないといいます。
「自分たちの世界(集団)に属さない人の命令は、たとえ自分たちよりはるかに上位者であることがわかっていても行われがたいのである。心情的には、自分たちの気持が通じていないような人の命令には従わないのである」

政党のなかの派閥などで考えてみると、その理論は納得がいきます。
もしかすると、企業不祥事もそういった「自分の属する小集団の論理」に従った結果、起こってしまうのかもしれません。私たちの精神背景の中にそのような「タテ社会の力学」が根付いているとすれば、やはり、「出る杭は打たれる」と考えてしまうのではないでしょうか。発言や行動は、属する小集団の論理に沿うのであって、個人が自由にものを言うのは難しいと考えるのではないでしょうか。

しかし、意識調査では、この「“出る杭は打たれる”というから、会社では積極的にアイデアを提案したり、反対意見はいわないようにすべきである」という設問に対して、「そう思わない(=積極的にアイデアを提案し、反対意見も言うべきだ)」という人の割合が90.1%あります。
「本当にそう思っているのか?」
「マジでそう考えて、行動を選択しているのか?」
と私の頭には、疑問の渦が巻き起こっています。

この設問に関しては、「頭では、そう思っている」というレベルで捉えて良いのではないかと思っています。実際の行動はそうはならない、「知識」レベルでの理解です(知識として頭に取り入れただけで、意識・行動と統合された言動になっていない)。そんな状態なので、新入社員研修やその後の社内の行動で見られるのは、

・会議では「新入社員だから」発言しない。(いやー、素人がこんなこといっていいのかなぁ、と思いまして)
・討議をさせると「中庸で」「無難な」「期待されていそうな」答えにまとめてしまう。
・「空気を読む」があまり、「違うなぁ」とわかっていても意見を言わない、反論しない。

実は、新入社員も気づかないうちに「タテ社会の力学」=属する小集団の論理に従うことに違和感はなく、そのタテ社会の力学にからめ取られているのではないかと思うのです。

出る杭は打たれるから、できるだけ目立たないほうがいいと答える新入社員が意識調査の他の項目でどのような特性を示すかというと(平均値よりもこの「出る杭は打たれる」というグループの正答率が15%以上違うもの)、

・できないことを「できません」とハッキリというようでは、職業人としての資格にかける。
・世の中には、本気で取り組む気になれない程くだらないことが多い。
・仕事で個性を発揮することは難しい。
・多くの先輩と幅広く付き合うほうが、特定の先輩と親密により得である。
・社内では人間関係が大切だから、正しいことでも他人から悪く思われるようなことに、手を出さない方がよい。

仕事では「個性を発揮できない」し、「探してまで仕事をするのは無意味」だと感じているようです。仕事に対しては、受身の姿勢があるようです。

一方、人間関係の意識は極めて高く、しかし、残念ながら、ほかの意識(職業人、貢献と報酬、組織活動、自己実現)は、全体よりも低くなっています。全体として考えた場合、早い時期に「積極性」を身につけさせたほうが成長しやすいと思われます。

しかし、前回の繰り返しになりますが、この設問で「積極的に出るべき」と答えている新入社員も、その実際の行動はそうなっていないことが多いのも事実です。
新入社員をどう本当に「積極的」にするにはどうすばよいのでしょうか。それができれば、もっと組織は活性化するのではないでしょうか?

弊社の新入社員研修では、

・グループ間競争において、「積極点」を頻繁に出す(間違っていても、発言すれば1点)。
・「誰でもできること」にあえて参画させ、それを評価する(設問を読む等)。
・上記のような「誰でもできること」に参画しなかった場合、その理由を考えさせる(毎朝のミーティング等で。「反省的実践家」の育成を目指してます)。

職場で期待したい指導方向は、

・失敗を奨励する風土づくり(有名な言葉では「やってみなはれ」でしょうか)。
・やらないことの罪を理解させる(不作為は罪)。
・知識ではなく、行動を評価する(百の知識よりもひとつの成果の精神)。
・日々、積極的な行動を褒め、動機付けを図る。

結局は、積極的にやらないと自分が損をするということに気づき、積極的にやることは自分でもできる、という経験を持たせることは研修でできます。原理原則に立ち返れば、積極的に行動しないことが問題であることは、理解できます。

その原理原則(反省の根拠、拠点)を研修の中で与え、原理原則に立ち返り反省する、という習慣づけを集合研修の役割と私は考えています。研修後も職場で同じように、彼らのちょっとした積極性を評価し、動機付けをしていただければ、必ず、この意識が「言行一致」になると信じています。
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