精神疾患のなかでも、「うつ病」ほど身近な病気もないだろう。企業等に属していれば、少なからぬ従業員が罹患し、通院したり、休職したりしていることもある。しかし、「うつ病」の実像をどれだけの人が御存じだろうか。本稿では、現代病ともいえる「うつ病」について、企業・従業員とも理解しておくべき実像を「前編」「後編」に分けてお伝えしよう。
企業も従業員も知っておくべき「うつ病」の実像(前編)

「うつ病」の患者数

厚生労働省の不定期な「患者調査」によれば、気分(感情)障害(躁うつ病含む)の患者総数は、1996年の433千人から2013年には1,116千人へと大幅に増加している。下図がその推移である。



ご覧のとおり、1999年から急激に増加し始めたのが理解できよう。これは、日本で初めて抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込阻害剤)が認可された年であり、製薬業界による【うつ病は「心の風邪」キャンペーン】が打たれたのと軌を一にしている。お見込のとおり、大量の「うつ病」患者が作られたのである。
そもそも、うつ病とはどのようにカテゴライズされているのか?そして、どのように診断されているのだろうか?

「うつ病」とは?

独協医科大学越谷病院 こころの診療科の井原教授によれば、本来の「うつ病」は一瞥してわかるそうだ。曰く「重いうつ病や妄想をともなう精神病性うつ病は、悩みはあるものの病気とまでいえない普通の悩める人=『悩める健康人』とは、そもそも抱えている悩みの性質や深刻さが違います」。
下図は、井原教授の「うつの重症度別分類」に筆者が主旨を変えずに改変したものだが、前述のうつ病患者数が急激に増加した1999年以降は、「軽症うつ病」や「適応障害・気分変調症」が増加しているようである。井原教授は、このカテゴリーに分類された人たちのことを『悩める健康人』と表現している。



そして、うつ病概念の混乱の要因を米国精神医学会の「DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)」による「操作的診断基準」に求めている。それによると、下記9項目の症状のうち5項目以上に該当し、それが2週間以上継続すれば「うつ病」と診断されてしまうそうだ。仮に、この条件を満たさなくても、「適応障害(うつ状態)」「気分変調症(うつ状態)」と診断されてしまう。しかも、この診断方法には科学的エビデンスがなく、さらに問題なのは原因が全く考慮されていない点にある。こうして、薬物療法しかできない精神科医からは、安易に「抗うつ薬」が処方されているようである。井原教授の言葉を借りれば、グレーゾーンに位置する『悩める健康人』までもが、「うつ病」の烙印を押されているわけだ。

1. その人自身の言葉か、他者の観察によって示される、ほとんど毎日の抑うつ気分
2. ほとんど毎日の、ほとんどすべての活動における興味又は喜びの著しい減退
3. 食事療法なしの状況での体重減少・体重増加、又はほとんど毎日の食欲の減退・増加
4. ほとんど毎日の不眠または仮眠
5. ほとんど毎日の精神運動焦燥又は制止
6. ほとんど毎日の疲労感、又は気力の減退
7. ほとんど毎日の無価値観、又は過剰、不適切な罪責感
8. 思考力や集中力の減退、又は決断困難がほとんど毎日認められる
9. 死について繰り返し考える、特別な計画はないが繰り返される自殺念慮、又は自殺企画、
又は自殺するためのはっきりとした計画

「うつ病」に必要な処方箋

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