ドラッカーは、組織の目的を「凡人をして非凡なことを行わせることにある」と書いています。つまり、普通の人の長所を引き出し、それを活かすことで成果を出し続けようということです。天才的な経営者、発明家等に頼る組織は、長続きしません。いかに、普通の人の力を結集するかがポイントだということは、組織に属する人には自明のことです。
第70回 他人の欠点を冷静に見ようとする人より、できるだけ長所を見ようとする人の方が、リーダーに適している。
仕事における「長所」は、実際のところ、その会社に入り、業務に就き、その業務を極めていく中ででき上がるものではないでしょうか。多くの企業では、どこでも通用するような技能・技術(一般的人的資本)よりも、その企業特有の技能、知識(企業特殊的人的資本)の方が有用であることが多いのが現実でしょう。

だからこそ、企業としても、長く勤めてほしいですし、長く勤めてもらわないと技能が磨かれず、生かせず、生産性が上がらないのです。

「他人の欠点を冷静に見ようとする人より、できるだけ長所を見ようとする人の方が、リーダーに適している」という設問の回答傾向は、次のようになっています。

そう思う   70.0%
わからない  14.1%
そう思わない 15.9%

「そう思う」と答える率は、ほぼ70%程度で変化がありません。つまり、「“ゆとり教育”で、長所を見てもらえた」というようなことは影響していないと思われます。

この設問では、「リーダーに適している」と、リーダーの思考として聞いていますので、「長所を生かすのが組織」ということを直接聞いているわけではありません。学校を含め何らかの組織にこれまで属してきたであろう新入社員の経験から考えて、正しいということはわかりそうなものです。しかし、「そう思わない」という人が16%程度います。

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この16%の「そう思わない」という人の能力観はやや偏っていると思われます。
他の設問との関連を見ると、「できないことを「できません」とハッキリ言うようでは、職業人としての資格に欠ける」という設問では「そう思わない」と答えた割合が、8.8%増えます。つまり、「できない」という欠点をさらけ出すことに抵抗はないのです。
また、「適職だとまず自分で思わないかぎり、いくら探し回っても見つかるものではない」では、「そう思わない」と答えた割合が5.4%増えています。適職は探せば見つかる、今のところで能力を伸ばして適職としていこうという意識が薄くなっていると思われます。

彼らは、どのような経験から、この設問に、「そう思わない」と回答する思考を得たのでしょうか?
おそらく、部活動などでも「もっと、ここをこうしないと!」等と言われ、勉強においても「ここができるようにならないとだめだ」と言われ、弱点を克服してきた経験と自らの成長に限界を感じたこととの複合的な経験から、このような能力観になったのだと思われます。自分の可能性に、若干、懐疑的な傾向があるのではないでしょうか。

確かに、どんな技能も習得し始めのころは、素人ですから、言われたとおり、やり続け、できないことをできるようにするということが求められます。その意味で欠点ではありませんが「これができないと困る」という今できないことを指摘してもらうことは必要です。その意味で「できていないことを指摘するリーダー」は必要です。
ドラッカーは「誰もが強みがよくわかっていると思う。しかし、たいていは間違っている。わかっているのは、せいぜい弱みである」と言っています。弱みは、自分でわかるもの。ところが、強みは、他人から見た方が良くわかるものではないでしょうか。
その人が、組織に何によって貢献しているのか、それは、おそらくその人の上司、リーダーが一番よく知っていることです。組織の中では強みを生かすことがどれほど重要かは、リーダーがよく知っています。
「不得手なことの改善にあまり時間を使ってはならない。自らの強みに集中すべきである。無能を並みの水準にするには、一流を超一流にするよりも、はるかに多くのエネルギーと努力を必要とする」

自らの強みを気づかせ、それを伸ばすという視点を早い段階で持たせたいものです。
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