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大学の就職支援室からみた新卒採用

第58回 「富山の人は採用しない」論に思う事

金沢大学 就職支援室長 山本 均
2017/07/31

2018年卒の新卒採用もおおむね終わり、金沢大学でも6月に入ってから学生の就職相談がめっきり少なくなりました。今年もこの数年と同様、6月に始まった大手企業の選考結果を見て、それまでに内定をもらった会社の中から最終的に進路を決めていたようです。
そんな中、富山県に本社を構えている(来年早々に東京に本社を移転予定)不二越という機械メーカーの経営トップの発言が物議を醸しています。

◆本間会長の会見発言要旨(抜粋)◆
不二越は2020年に(売上高)4千億円を目指しており、うち約4割をロボットで担おうとしている。大きな飛躍を狙う中で必要なのは、ソフトウエアの人間だ。特に不二越は機械メーカーのイメージが強く、富山にはまず来ない。富山で生まれて幼稚園、小学校、中学校、高校、不二越。これは駄目です、駄目です。変わらない。

今年も75名ぐらい採ったが、富山で生まれて地方の大学に行ったとしても、私は極力採らないです。学卒ですよ。地方で生まれて、地方の大学もしくは富山大学に来た人は採ります。しかし、富山で生まれて地方の大学へ行った人でも極力採りません。なぜか。閉鎖された考え方が非常に強いです。偏見かも分からないけど強いです。

閉鎖的な考え方が強いです。いや優秀な人は多いですよ、富山の人には。だけど私の何十年、40年くらいの会社に入ってからの印象は、そういう印象が強いです。ですから全国から集めます。ただしワーカーは富山から採ります。
(北日本新聞より)

この発言を受けて、富山県の他メーカーの社長や弁護士、大学の教授など様々な方から「トップの発言として不適切」「容認できない」などの批判が相次いで、いわば炎上状態になり、最近になって大手のマスコミなどでも取り上げられました。

北陸ではこの発言について「富山の人間は使えないのか?」とか「富山を否定するのは許せない」といった、いわば「富山」という地域を切り取って感情的に反論するきらいが強いように感じます。たしかに上記の文章を読むとそのようにも見えますが、本当に富山県を否定する意味での発言なのでしょうか?

私自身、石川県の企業の採用担当をしていた際に、実はこれと近い考え方を持っていたことがあります。
当時、私が採用担当をしていたのが、IT系機器を開発製造している企業でした。PCの急速な普及拡大の波に乗って急成長を遂げた企業なのですが、石川県内で5本の指に入るくらいの規模となっていたため、「地元の大きな会社だから」という理由だけで応募してくる学生が非常に多かったのです。業界の変化のスピードがきわめて速いことから、採用広報でも業界の動向や、スピード感を持って仕事をしてほしいことなど、意識して伝えていたつもりでしたが、それでも地元志向、安定志向の学生ばかりが応募してきて閉口しました。

そうした流れもあって、金沢大学の学生で石川県出身者をほとんど採用しなかった時期があります。あえて採用しなかったというより、マインド面を重視して選考を進めていくと結果的に石川県出身者がほとんど残らなかったというのが正確なところで、そのころは金沢大学の学生50名の応募に対して内定が1〜2名、それも他県出身者ばかりというような状況でした。
金沢大学の学生の質が落ちたように感じて、自分の母校でもあるので残念に思っていたのですが、その後、東京の大手電機メーカーに転職して採用担当をしていた時、応募してくる金沢大学の学生の質の高さに驚いたこともあります。
 
そもそも優秀な人材とは何かという議論とも共通する部分もあるのですが、面接で高評価を受ける学生には次の3つの共通点があります。

1. 言われなくても自分から行動する、かつ成果を出すために自律的に考えることができる。
2. 失敗を恐れない、未知のものに積極的に挑戦できる。
3. 課題に直面した時に正解探しをせずに創意工夫で乗り越えようと思考する。

これって行動特性、コンピテンシーですよね。
この点で地元の大学に進学して地元就職志向の学生と、他県の大学に進学して勤務地不問で就職活動している学生では、明らかな差異があるように感じます。そして上記の区分で分かれるというのは、生まれ持った資質というより育った環境で変化した部分があるのではという仮説が成り立つと思うのです。要は若いうちにどれだけ環境を変えられるか、あるいは異なる背景を持つ人たちと関わることができるか、という事が上記の資質を育成する上で重要だという事です。もっと端的に言うと自分のこれまでのやり方を変えざるを得ない状況をどれだけ多く経験し、その環境に適応するかという事です。そういう意味では留学経験の有無と、上記の3つの行動要素にも相関関係があるのではないかという仮説も持っていまして、金沢大学ではこうした部分について学生の意識調査を行えないか議論しています。

これらを踏まえてもう一度、不二越の本間会長の発言を読み直してみると、生まれ育った地元しか知らず、かつ地元で働きたいという学生を採用したくないという主張は、(その言い方に問題はあるにしろ)問題提起として間違っていないのではないかと思います。
地元が好きで地元で生活している人にとって、本間会長の発言は受け入れがたい部分があるでしょう。しかし「こうした見方もある」と、多様性を認めることも重要なことだと思うのです。慣れ親しんだ土地に住み続けることは、自分たちのやり方を変える必要性に迫られる経験が少ないという意味で「閉鎖的」と言えなくもなく、それが相対的な地方の地盤沈下に関係があるのではないか、とも思っています。
富山県を代表するような企業のトップが、こうした発言を地元で行った意味を、もう少し深く丁寧に議論してみても良いのではないでしょうか。
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プロフィール

金沢大学 就職支援室長 山本 均

1962年生、金沢大学法学部卒業後、株式会社ナナオに入社、採用教育に従事、その後株式会社アイオーデータ機器、沖電気工業株式会社にて人事採用業務に従事。2007年10月に帰省し、故郷金沢で人材紹介事業を中心とした人事コンサルティング会社、株式会社北陸人材ネットを設立、代表取締役に就任。2009年4月より金沢大学就職支援室長に就任(兼務)。学生の就職支援業務に従事する傍ら、大学の就業力向上プロジェクトに従事中。

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