前回のコラムで経団連の1dayインターンシップ容認についてかなり批判的なことを書かせていただきました。では1dayインターンシップは全てNGで1~2週間のインターンシップであればOKかというと、そうではないのです。
第57回 マルチな採用チャンネルを……
経団連の指針について一番問題なのは、「インターンシップ」というイベントが採用と直結して見えてしまう点だと思っています。
採用を意識すると学生は失敗を恐れますし、チャレンジしなくなります。そうすると早熟で自律心のある学生ばかりが目立ち、インターンシップがそうした学生の獲得競争の道具になってしまいます。学生側から見ても「インターンシップに参加して評価されることが良い就活だ!」という認識が根付いてしまうのではないでしょうか。

石川県ではすでに影響が出始めています。今年の5月13日に開催したインターンシップフェス(参加企業200社以上、参加学生1,600名以上というインターンシップ参加のための合同説明会)において、1dayインターンシップへの参加希望学生が増えてしまい、明らかに学生側が採用を意識した動きになっていました。

「いちいち面倒くさい長期のインターンシップに参加しなくてもいいなら1dayインターンシップでいいじゃん」という学生の本音は理解できないでもありません。売り手市場の続く採用市場において一人でも多く優秀な学生を集めたい、という企業側の心理も理解できないではありません。しかし懸念すべきは、この状態がバブル期の状況に酷似している点です。

バブル期の採用はとにかく「数」を重視して選考のハードルを下げるという、学生に迎合したものでした。その結果、バブル世代には仕事に対する意識や姿勢が甘い人も多く、不況期にはリストラの対象になってしまった人も少なくありませんでした(もちろん、すべての人がそうだったわけではありません。また採用手法だけでなく「何をやっても売れる」という時勢も大きな要因と考えられます)。
当時と状況が同じではありませんが、今の学生たちを見ていると、社会に出てから同じような状態になるのでは、と不安になります。

大学の現場で学生を見ていると「失敗の数だけ成長がある」と言っても過言ではありません。ですから、今の学生たちにも時にはあえて「失敗を経験させる」ことが大切です。自律的にチャレンジするような場を作ることが理想だとは思いますが、背中を押す、あるいは強制的にやらせるということも通過儀礼として必要だと感じます。

大事なのは、我々大人たちの立ち居振る舞いです。挑戦したことは褒めつつも、より良くするためには何をどのように変えるべきかを的確に(的確になればなるほどスパイシーになる可能性が高いとは思いますが)、フィードバックしてあげることが重要なのでは、と思います。

また、インターンシップで難易度の高いテーマに取り組んで良い結果が出なくても、就活時のリベンジするチャンスがきちんと用意できるのであれば、逆に本当に優秀な成果を出した学生に対してインターン終了時に内定通知書を渡してもよいのではないか、と思っています(囲い込みはNGですが……)。
インターンシップで評価されて1年生で内定をもらう学生がいる一方で、行きたい会社に毎年インターンシップに参加し続ける学生がいる、というのも良いでしょう。採用方法をマルチチャンネル化し、インターンシップから採用につながること自体は良いと思っています。
文科省の有識者会議で「採用直結のインターンはNG」とのコメントが先月出ていましたが、これについては上記の点から異論があります。インターンシップを単なる選抜の機会とするのではなく、内定を得られなかった学生にきちんとフィードバックすることが前提とはなりますが、「早々に内定をもらって残りの学生生活を全力で勉強に打ち込む」、「2年生で参加した採用直結インターンで内定をもらえなかった学生が足りない部分を埋めるために必死で勉強する」という選択肢があっても良いと思うのです。

企業の採用活動は大学にとっては学業の妨げで、大学内の勉強は大学が指導するもの、という発想自体が時代に合わなくなっているように思います。私の経験からの見解になってしまいますが、大学内での閉じたキャリア教育には限界があります(それすらきちんと議論している大学は少ないような気もします)。
大学と企業で協調して学生を育てるという接点をインターンシップという手段を介して作っていくべきだし、お互いにメリットになるような連携を探る議論を深めるべきではないか、と考えております。
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