今回は、第1回でお話しした企業活動をおびやかす深刻な介護問題と、その解決策であるテレワークと言う選択肢について掘り下げてみる。
※Vol.1 働き方改革とは組織風土との戦いである
~企業課題である長時間労働と深刻になりつつある介護問題、その解決策となるテレワークとは?~


就業人口を約6,600万人とすると、隠れ介護人口は5人に1人の割合になるそうだ。加えて、就業人口の86%が今後5年間で介護する可能性がある、と言う調査結果(※1)を見る限り、企業にとって介護が深刻な問題になるのは秒読みであると言える。
(※1) Vol.1 働き方改革とは組織風土との戦いである/「企業活動をおびやかす深刻な介護問題、テレワークという選択肢」の図を参照



「隠れ介護」とは、介護をしている状況について会社に相談・届け出をしていない人のことを指す。しかし、なぜ届け出をしないのだろうか。

厚労省の調査によると、介護を始めるにあたって勤務先に相談する人はわずか7.6%である。一方、相談に至らない理由として上位に挙がっているのが、「介護休業制度等の両立支援制度を利用すると収入が減る」や、「そもそも介護休業制度等の両立支援がない」、といったものである。その他にも、「人事評価に悪影響がでる可能性がある」、「利用しにくい組織風土である」、といったものもある。
また、「上司や同僚が、介護をするなら仕事を辞めることを望んでいる」という会社もあるようだ。そういった会社では、「もう少し時間に融通の利く仕事に移ってはどうだ」と、退職勧奨を行うケースもあるだろう。
このような一連の要因が「隠れ介護」を増やしており、結果として、介護離職の引き金の一つになっている。

だが、「介護を会社に相談せずにギリギリまで踏ん張って、限界が来た時に突然退職」となるのと、「会社に届けを出し介護休暇を使いながら仕事をしたが、それでも仕事ができない状態になって退職」、となるのとでは、会社にとっても介護をしている従業員自身にとっても、全く別の結果になるだろう。

会社にとって社員が突然離職するのはかなりの痛手であるが、あらかじめ相談や届け出をもらっていれば猶予ができる。他の人へ引継ぎをして業務負担を調整したり、時短・在宅勤務に切り替えたり、といった選択肢の提示もできるだろう。優秀な人材を手放さなくてよくなるため、「相談してもらう」という事は企業にとってはとてもメリットがある。

当人にとっては、とにかく終りの無いトンネルを進んでいるような状況の中、目に留まるのが、在宅勤務制度のある会社だ。
介護をしていることが言いやすい環境であれば、従業員側も休暇や時短などを使い、何とか持ちこたえることができるケースが増えるだろう。退職や転職について考える必要がなくなるから、精神的にも楽になる。また、組織風土の問題もなく、在宅勤務制度が使える状況にあれば、前述したような理由で離職した優秀な人材も獲得できるだろう。
とりわけ「人事評価で悪影響が出る」といわれている部分についてはテレワークと通じる所があるので、在宅勤務制度がしっかりまわっていれば、介護だからという色眼鏡はなくなる。これもテレワークと同様、上司の意識改革と風土・文化の改革が必要である。

子育ての話と同様に介護の話も普通に話せるようになると、情報を得ることが出来るのだが、現状では情報不足を挙げる方はとても多い。
人事の方や、介護離職を防止するための対策を考えている方、部下をもつ管理職の方は「5人に一人の割合で介護をしている」ことを頭に入れ、周りの社員に声をかけてみることから始めてみてほしい。また、企業も社員の両親の年齢がわかるのならば、親の年齢が70歳を越えた社員がいたら、介護休暇や在宅勤務制度、相談窓口などの案内をするなどの対応を行い、きたるべき介護離職を抑止することが肝心だ。
* * *

在宅勤務を行う上で理解しなくてはならないのは、「介護は千差万別」だと言うことだ。
症状も違えば対応する年数も違う。出産・育児のように、子供が一定の年齢になるまで、と同じに捉えては失敗する。

まず、介護には段階があり、「要支援」と「要介護」に分けられる。
要支援は、介護は必要ではないものの、日常生活に不便をきたしている人が分類されるもので2段階、要介護は、軽度から重度まで介護を要するもので5段階ある。
要支援と要介護の目安は以下となる。
要支援1日常生活上の基本動作については、ほぼ自分で行うことが可能だが、要介護状態への進行を予防するために、IADL(手段的日常生活動作)において何らかの支援が必要な状態
要支援2IADL(手段的日常生活動作)を行う能力がわずかに低下し、機能の維持や改善のために何らかの支援が必要な状態。
要介護1要支援の状態からさらにIADL(手段的日常生活動作)の能力が低下。排せつや入浴などに部分的な介護が必要な状態。
要介護2要介護1の状態に加えて、歩行や起き上がりなどに部分的な介護が必要な状態。
要介護3要介護2の状態からさらにIADL(手段的日常生活動作)およびADL(日常生活動作)が著しく低下し、立ち上がりや歩行が自力ではできず、排泄や入浴、衣服の着脱などにもほぼ全面的な介護が必要な状態。
要介護4要介護3よりも動作能力が著しく低下し、日常生活ほぼ全般を介護なしで行うことが困難な状態。
要介護5要介護4の状態よりさらに動作能力が低下し、意思の伝達も困難になり、介護無しには日常生活を送ることが不可能な状態。
認知症の場合はあくまで目安であるが、日常生活に大きな支障がない場合は「要支援」となり、症状が進んで意思疎通が困難になると「要介護1」、日常生活に支障をきたす行動が頻繁にみられると「要介護4」となる。
なお、「要介護5」は寝たきり状態で日常生活全般に全面的な介助が必要な場合だ。

ここで、「要介護5」の例をご紹介する。
脳梗塞と、くも膜下出血を併発し、全身が動かない状態であった。
足に力が入らない状態の場合、まずおむつ交換が一人では出来ないので介護ヘルパーに1日4回(朝6時、12時、18時、0時)、1回30分~1時間来てもらうとする。お昼を1時間にして、外に買い物に行くほか、病院などにもこの時間を使う。
褥瘡(床ずれ)を防止するために3時間に1回体制を変える、1日3食経管栄養(胃ろう)(※腹部にろう孔(穴)を開けそこにチューブを通したりすることで、直接胃に栄養を送り込む栄養補給法)の後に薬の投与。食事後にタンが絡むので吸引をする。
自宅に来てくれる訪問看護や訪問医療(内科・歯科)、床屋さん、お風呂など、3ヶ月に1回おなかのチューブの交換などがある。
仕事は、細切れになるが、経営者の理解を得て、特例で在宅勤務にて対応していた。
このように介護は時間を奪われ、労力も奪われることになる。また介護は、症状が進行する可能性もあり、届け出た時と同じ状態でいるとは限らない。
そんな中で会社に届け出を出さず介護と仕事を両立しなければならない、という人は多い。
上司や人事が定期的にヒアリングするなど、会社として「介護」というテーマをしっかりと受け止め、社員の親の年齢の把握、在宅ができる環境を整えるなど、対策を講じていかなければならない。
また、在宅の勤務だけでなく、自宅の近くにあるサテライトオフィス勤務なども視野に入れ、新しい働き方で介護離職を防止するときがきたと言えよう。サテライトオフィスを提供している地方自治体も増えてきているので、確認をしてみるのもよいだろう。
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