外来語には意味がよく解らないものがある。リーダーシップという言葉もそのひとつだ。あまりにも日常的に使う言葉なのでよく考えたこともなかったが、この「シップ」というのは何のことだろうか。フレンドシップ、パートナーシップ、リレーションシップなど、お尻にシップの付く言葉は多いけれど、どれも同じことなのだろうか。調べてみると、「心意気」とか「スキル」とかいう意味だそうだ。心意気とスキルではずいぶん違うなあと思うが、要するに日本語に直接訳せる言葉ではないということらしい。
数多く出版されているリーダーシップ本を紐解いてみると、確かにリーダーとして持っているべきスキルや心構えが解説してある。組織のメンバーとのコミュニケーションの仕方、多くの人を惹きつけるスピーチの仕方、メンバーに解りやすいビジョンの打ち立て方、リーダーとして持つべき不退転の態度等々。リーダーを志す多くのビジネスマンがこうした書籍を漁り、リーダーに求められる心意気とスキルを勉強しているわけだ。だが、先人が示した心意気やスキルさえ知れば、リーダーになれるのだろうか。どうも疑わしい。

 昔の話だが、新卒社員の離職率に悩むある会社で、これを抑えようとした総務部の若手平社員が、上長や他部門の担当者を巻き込んで新人研修を行い、離職率を著しく低減させた例があった。彼は部長に進言して2日の導入研修を2週に拡大し、営業部やシステム部など他部門の社員に呼び掛けて「実務の疑似体験コース」を企画し、協力してこれを実施したのだ。彼は準備を含む3か月の奮闘の中で、上長の意思決定を促し、他部門の管理職を説得し、部門を問わず数多くの仲間の惜しみない協力を取り付けた。彼は管理職ではないから、皆に命令を発する権限は何ら持ち合わせていなかった。あまり勉強家ではないから、おそらくリーダーシップの本など読んだこともなかったはずだ。しかし、このとき、彼は明らかにリーダーだった。

 リーダーシップ本を熱心に読むがリーダーにほど遠い人と、本を読んだことはないがリーダーになる人。何が違うのだろうか。件の平社員のストーリーで、彼に違っていたところは、「新卒社員の離職率を何とかして抑えたい」という強い志を持ったことだ。理由は皆目わからないが、彼は確かにそのような志を持った。だからリーダーであり得たのだと思う。要するに、「私は他の人々の力を借りてでもこのことを成し遂げたい」という「このこと」が大切で、例の「・・・シップ」はそれを実現するためのサプリメントのようなものだということだ。「このこと」を伴わないのに「シップ」の方ばかりを研究しているリーダーは、中身の無い空虚なリーダーだということになる。

 最近、頼りになる中間管理職層を作りたいと切望している経営者は多い。そうした経営者は、管理職たちにリーダーシップ研修を受けさせる。しかしながら、権限を発動して組織を管理する管理職と、リーダーシップを発揮して組織を導くリーダーとを混同してはならない。もちろん、優秀な管理職は優秀なリーダーであって欲しいのだが、課長たちを捕まえてリーダーシップの研修を受けさせ、一般的なノウハウを覚えこませるだけでは、そのような人材は生まれない。大切なことは、社員に何らかの志を持たせるような、リスクを背負ってでも成し遂げたいと感じる何かを発見できるような環境を準備すること、そして、それに挑戦する機会を与えてやることではないだろうか。
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