01 アルバイトの9割以上が中国人。雇用条件は日本人と同じ

 有限会社ミックが、横浜中華街に「中国料理世界チャンピオンの店」というコンセプトで、「皇朝」1号店をオープンしたのは2004年のこと。主力商品の「90円肉まん」は、それまで中華街になかった一口サイズの肉まんということで注目を浴び、行列ができるほどの人気となった。その後、売上も順調に推移し、現在「皇朝」グループは横浜中華街を中心に10店舗以上を運営。点心、担担麺、レストランなど、各店舗に特徴づけをした展開をしている。従業員数は約200名で、そのうちアルバイトが約7~8割を占め、アルバイトの約9割以上が中国人だ。

02 中国人アルバイトの生活事情と特性を理解する

岩崎さんは、中国人従業員をマネジメントするためにはまず、管理職が彼らの生活事情や彼らがアルバイトをする目的・背景を理解することが大切だと語る。

 「日本人の学生アルバイトだと、小遣い稼ぎが目的であるケースが多く、そこまで長時間の勤務を求めません。実際、うちに応募してくる日本人学生は、1日4時間程度の勤務を希望する場合が多いです。でも中国人の応募者の場合、学生でも生活費のためにアルバイトする人がほとんどです。だから、できる限り長い時間働きたいと言います。そうした彼らの生活事情やアルバイトの目的を汲みとり、できる限り彼らの要望に合わせてシフトを組んであげるなど、配慮が必要です」

 また日本人の場合、プライベートな話題は敬遠されがちで、特に入ってきて間もないアルバイトとは通常そこまで深い話をしないのではないだろうか。しかし、中国人従業員の場合は、むしろ出身地や家族、今の住まい、学校のことなどを聞いて話題にするほうが、より親密度が増し、信頼関係も早く築きやすいと言う。

 「『従業員は会社の宝だ』とよく社長が言っているのですが、私たちはアルバイトも家族同然に思っています。そういうスタンスで接していると、彼らも会社のために頑張ろうと一生懸命働いてくれます」

 従業員の労働日数や時給の管理にも細心の注意を払っている。

 「中国人のスタッフ同士は横のつながりが強く、良い話も悪い話もすぐに広まります。うちは売上によって時間調整や急な解雇は絶対にしないようにしています。そのため、彼らの間で評判が保たれているようで、いったん入ると長く働いてくれる人が多い。お陰で安定した人材確保ができています」

 次に、中国人の国民性を理解することも大事だと岩崎さんは言う。「彼らはストレートな表現をする人が多いし、まっすぐな性格で、場面によっては感情を前面に表して会話します。日本人同士のコミュニケーションとは明らかに違う面があります」

 岩崎さんは、感情的になっている従業員に対しては、いつも以上に落ち着くように心掛けて彼らの話に耳を傾け、一緒に話の論点を整理するようにしている。

 「相手の話を論理的に整理しながら、矛盾があればその部分を言葉やわらかく指摘します。すると彼らはすぐに気づき、納得してくれます。相手が怒っても一緒になって腹を立てたりせず、冷静に対処することがポイントです」

03 あいさつや接客の態度は、日々の業務の中で伝えていく

明るく楽しく元気なお店というのが、同社店舗のお客様へのモットーだ。「これは従業員に対しても同じです。彼らが明るく楽しく元気に働ける店でありたい。だから、私はアルバイトに冗談ばかり言っています(笑)。現場を盛り上げるため、どれだけバカをやれるか。それもまた私のような中間管理職には必要なことだと思っています」

 とはいえ、彼らにアルバイトとして守ってほしいことは徹底して注意する。

 例えば、敬語の使い方だ。「普段、私やバイト仲間と話している時は敬語を使わなくてもいいけれど、お客様には敬語で丁寧に対応するよう、しつこいくらい言っています」

 ただし、敬語の使い方をはじめ、会話については個人の語学レベルも影響する。そのため、岩崎さんは、まだ日本語の拙い中国人アルバイトに対しては特に聞き取りやすいスピードで、簡単な日本語を選んで話すよう心掛けている。

 「挨拶や笑顔、日本語がどれだけ上達したかも日々の会話の中でチェックしています。たまに、こちらがわざとぶっきらぼうな態度で挨拶すると、『岩崎さん、挨拶できてない』と注意されたりしてね(笑)。そういうたわいもないコミュニケーションが、結果的に彼らの接客力やサービス力を高めることにつながっているんですよね」

 また、時々「時給を上げてほしい」と言ってくるアルバイトもいるが、「そういう場合は、今の本人の評価と、どんな努力をすれば時給をアップできるかをしっかり説明します。特に『売上アップへの貢献度が時給アップにつながるから、ここがこう変わってくれるといい』など具体的に話すと、彼らはすぐに実践します。劇的に勤務態度が変わることもあります。それによって、その人の時給がアップしたら、そのことを必ず他の従業員にも知らせます。努力すれば結果として報酬がアップすることがわかれば、みんなが今以上に努力するようになるのです」

04 会社の目的とアルバイトへの期待をしっかり伝える

岩崎さんが統括する中華街エリアでは、毎週日曜の朝9時と10時に2回朝礼を実施している。9時の朝礼はベテランスタッフが中心に参加するもの、10時は新人向けのものとなっている。そこでは正社員・アルバイト関係なく、全員に会社の経営状況もすべてオープンに伝える。

 「この朝礼では、会社が目指していることやそのために今やっていること、やりたいと思っていることのほか、アルバイトの力を頼りにし、期待していることなどを素直に伝えます」

 朝礼でのメッセージを受けて、アルバイトからは店舗運営に関する改善提案がいろいろ上がってくるそうだ。

 「例えば、うちの肉まんは1個90円なのですが、客単価をもう少し上げるためにはセット販売を強化したほうがいいんじゃないかとか、修学旅行生も多いから、学割サービスをして一つでも多く買ってもらえるようにしようとか、様々なアイデアを提案してくれます。私はそうした意見を必ず経営層に伝え、実現するように努めています。意見をもらったところで終わらせたらダメなんです」。全部は無理でも少しずつ自分たちの提案が形になることで、「岩崎さんに言えば、自分の意見が店に生かされることもある」と思い始める。そうすると、アルバイトのやる気はさらに増すそうだ。

05 管理職がコミュニケーションを楽しむことも大事

同社ではシフト調整にも工夫をしている。例えば「私用が入ったのでシフトを変更してほしい」という要望がある場合、「他のアルバイトに頼んで、まず自分で調整してもらっています」と岩崎さんは言う。

 「そこでアルバイト同士の間に、助け合いの関係性が生まれます。この間、代わってもらったから次は自分が交代するよと。こういう小さなことを通じても、『みんなが一丸となって店を盛り上げていこう、売上を上げていこう』という雰囲気をもっともっと作っていきたいんですよね」


岩崎さんは入社後2年間、「皇朝レストラン」で
支配人として勤務。「一人ずつとじっくり
話をすることで信頼関係を築いていきました」
と当時を振り返る岩崎さん。
 岩崎さんは、時々現場に入り、自身がお客様の呼び込みをしたり、レジや接客を担当したりするという。「管理職が懸命に、しかも楽しみながら働いていれば、自然に従業員も主体的に働いてくれるし、店のためになるアイデアをどんどん提案してくれる」。それは岩崎さんの実感だ。

 「管理職は強制したり、命令したりするような一方的なやり取りはしてはいけないですよね。彼らとの双方向のコミュニケーションを楽しむことが大事でしょうね」。岩崎さんは毎日一生懸命、彼らと一緒に働き、とにかく会話する。「その積み重ねの中で、私のことを『何となく自分たちのことをわかってくれるお兄さん、自分たちのためにいろいろ頑張ってくれるお兄さん』という感覚で認められてきた気がします」と岩崎さんは笑う。

 外国人マネジメントにおいて何より重要なのは、外国人だからと身構えることなく、本音でとことん対話することなのだと、岩崎さんに学んだ。
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