この連載では、多摩大学大学院のキーコンセプトであり、私が一橋大学の野中郁次郎名誉教授とともに開発したコンセプトである「イノベーターシップ」について述べている。
第一回は、イノベーターシップとはどのような概念なのか、そして何を狙いとしているのかについて述べた。今回は、その5つの力のうちの筆頭である「未来構想力」についてお話します。(図表1)
第2回 イノベーターシップの真骨頂:未来構想力
5つの力の中でも最初に問うべきは「未来構想力」だ。現実を変革するリーダーは、何を実現したいのか、その夢を持たねばならない。
サイモン・シネックが著書『WHYから始めよ!』(日本経済新聞出版社)で述べているように「自分がいましていることを、している理由。これを明言できる人や企業は少ない」ものだ。彼の提示したゴールデンサークルの中核にあるWHYを意識化する必要がある(図表2)。
第2回 イノベーターシップの真骨頂:未来構想力
現実には、毎日忙しく、自分のやっていることの意義や理念は見失われている時が多い。なぜ自分は存在しているのか、なぜ毎日働いているのか、どんな目的を持っていまの会社にいるのだろうか。すなわち、「目的(Purpose)」である。自分がやっていることの目的を意識しないならば、ただひたすら与えられたことを(他社や過去よりも少しましに)やっているに過ぎなくなる。
現実を変えていくことがイノベーションの定義であり、現実のさまざまな不条理から抜け出したいと思うあなたは、現状に甘んじただ不満を言うだけではなく、どのような価値を創りだしたいのか、何をどう変えてどこに行きたいのかと、考えているはずだ。「四方よし」という考え方がある。三方よし(自分よし、顧客よし、世間よし)とする近江商人の発想法であり日本のビジネスの原点だが、それに「未来よし」を加え、サステイナブルな発展を視野に入れる考え方だ。現時点だけの三方よしで終わるのではなく、未来に向かって、あなたは布石を打って大きな挑戦をしているのだろうか。まだ夢のレベルかもしれないし、問題意識かもしれない。それをさらに突き詰めて、純化させた目的意識があってこそ、イノベーションは起動する。
 未来構想力を身に着けるために重要なことはなんだろうか。それは以下の3つを自らに問いかけ続け、その答えを見つけることだろう。こうした努力の上に未来構想力は花開いていくと考えている。

1)未来の社会を見据えた自分の目的・夢・信念は何か?

・自分は自身の仕事を通じて、あるいは組織を通じて、社会にどういうインパクトを与えたいのか?
・顧客満足は当たり前として、その先にどういう社会であることを夢見ているのか?
・5年後、10年後、20年後に起きる世界の変化をどう予測しているか?

2)共通善に根差した四方よしのビジネスモデルイノベーションを構想できるか?

・自分の利益だけではなく、世の中のだれをハッピーにしたいのか? 家族でもコミュニティでも、貧困層でも・・・。
・ビジネスモデルは、より大きな目的のために進化しているか?コトづくり、エコシステム、グローバルなどの観点で深まっているか?
・自分のビジネスモデルのエコシステムの中で、世間への悪影響は出ていないのか?出ているとすればどう対処するのか?

3)自分らしい生き方をしているか?

・その未来の構想や自分の夢を実現できるとなぜハッピーなのか?
・自分の構想を周囲に語っているか?
・自分の生き方の信念(Belief)が生まれてきた自分の歴史(生き様)をライフストーリーとしてビビッドに語れるか?

このような問いかけの背後にあるのは、やはり人として、未来の子供たちへどのような社会を築いて残していきたいのかという思いやりのように思う。
・あなたはどういう社会を残していきたいのか?
・どういう風にその実現に貢献したいのか?
・社会人、企業人として、残された人生の時間の中でやらねばならない役割は何か?
・未来の世代に引き継いでいくべき大きな志とはなにか?

形だけとりつくろったり、利益だけのためだけに動いたり・・・。私たちを取り巻く社会の圧力は、知的貧困な人生に私たちを導く傾向にあることは間違いないだろう。そういう世の中こそ変えていくイノベーターシップを発揮してほしい。人生を変えるための「知の再武装」の場である多摩大学大学院MBAコースでは、田坂広志先生が「志フィールド」として志を高める授業群を展開している。自分の志を見出し、高めるための議論が深められる。ぜひ挑戦し、未来構想力を磨き上げてほしい。そして、一歩前へ踏み出してほしい。
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