ProFuture代表の寺澤です。

 関東では7月下旬に遅めの梅雨明けとなり、いよいよ夏本番といった暑い日が続いています。今年は、経団連の採用選考解禁が2カ月前倒しとなったことで、就職ナビ各社の内定率調査では軒並み前年同期を上回る数字が発表されていますが、企業側はというと8月に入ってもまだ多くの企業で、2017年卒の採用活動が継続されているようです。今回は、HR総研が6月末に楽天「みんなの就職活動日記」の協力の下に実施した、就活生向けの「2017年卒就職活動動向調査」の結果を基に、今年の特徴を見ていきたいと思います。

昨年の8月よりはペースの遅い学生の内定取得状況

前回7月の本稿では、企業の内定出しの時期や内定充足率を取り上げましたが、今回は学生の側から見た内定取得状況から始めましょう。選考解禁後約1カ月の6月下旬時点で見た内定保有社数データと昨年のデータ(昨年は選考が解禁された8月下旬に調査)を比較してみます。

まずは文系から[図表1]。「内定ゼロ(0社)」という学生の割合は昨年の14%から20%へ、「1社」という学生の割合は昨年の28%から32%へと増加しています。逆にいえば、昨年は面接選考解禁1カ月の時点で6割近い学生が2社以上の内定を持っていたのに対して、今年の学生は5割以下にとどまっていることになります。昨年、大企業に先んじて選考して内定を出したものの、その後に大企業に内定をひっくり返された苦い経験から、選考時期をあえて遅らせた中堅・中小企業の影響が出ているといえます。

第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差
就職ナビ各社の内定率調査は前年同期比で発表されることが多いですが、弊社ではあくまでも選考解禁日を基準にして、その約1カ月後時点でのデータで比較することにしています。選考解禁日を境に、大企業を中心に一気に選考、内定出しが行われていきますので、そちらのほうが比較としては分かりやすいと考えているためです。

 今年の内定保有社数を大学クラス別に比較したデータが[図表2]です。「内定ゼロ(0社)」の学生の割合では、「早慶クラス」 「上位国公立大」が13%で最も少なくなっていますが、「中堅私立大」でも15%とほとんど差がありません。唯一、「その他私立大学」の30%だけが、他の大学クラスと比べるとやや多くなっています。内定を2社以上保有している学生の割合でも、「旧帝大クラス」は55%、「上位国公立大」が57%であるのに対して、「中堅私立大」も57%ですから、その差はほとんど変わりありません。「その他私立大学」の学生こそ36%と、他の大学クラスと比べるとその割合が少なくなっています。これは地方学生の占める割合が高くなるためです。大企業を除けば、6月選考解禁を守ろうとする企業は、都市部には少なく、地方には多いという特徴があります。そのため、地方学生の割合が高い「その他私立大学」では、「内定ゼロ(0社)」が多く、「内定2社以上」が少なくなっています。
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差

大学格差が大きかった2015年卒採用まで

選考解禁日から約1カ月の時点で見た文系学生の内定保有社数データを過去3年分並べてみました[図表3]。「2015卒」は倫理憲章最後の年のデータで、採用スケジュールは「12月 採用広報解禁、4月 採用選考解禁」でした。この当時は、4月の大企業の選考が落ち着くのを待って活動する中堅・中小企業が多く、解禁1カ月の時点では大企業の内定者の割合が高い傾向がありました。従って、大企業からの内定を多く取得していた「旧帝大クラス」「早慶クラス」と、それほどでもなかった「中堅私大クラス」「その他私立大学」を比べた場合、内定取得率 において30~40ポイント近い差がついていたもの です。それが「8月 採用選考解禁」の昨年や、「6月 採用選考解禁」の今年になると、中堅・中小企業でも早くから選考活動を展開する企業の割合が倫理憲章時代より多くなっており、「中堅私大クラス」も上位校とさほど変わらない内定取得率となっています。
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差
理系についても文系と同様のグラフを3点紹介します[図表4~6]。文系よりも選考ペースの速い理系では、数値こそ文系とやや異なるものの、全体傾向はこれまで見てきた文系と同じであることが分かります。
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差

内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差

内定保有社数の観点では、大学格差はあまり見られませんでしたが、内定先企業には歴然とした差があります。内定先企業の従業員規模で比較してみると、依然として大学格差が残っていることがはっきり見て取れます。より分かりやすいように、大学クラスごとに内定先企業の割合を並べてみましたので、そのバランスを比べてみてください。

[図表7]から文系学生の内定先企業の従業員規模の内訳を見ると、「旧帝大クラス」や「早慶クラス」では、「5000名以上」の超大手企業から最も多くの内定を取得しており、中堅・中小企業からの内定割合は少なくなっています。それに対して、「その他私立大学」では「5000名以上」や「1000~5000名」規模の企業からの内定が大きく減少し、「101~300名」「301~500名」など中堅・中小企業からの内定割合とほとんど変わらない状況になっています。内定率だけではわからない大学格差が、依然として強く残っているということです。
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差
こちらは理系学生のデータです[図表8]。文系と違って、「その他私立大学」でも「1000~5000名」規模の企業からの内定は多くなっています。メーカーは現業職の割合が多く、従業員規模は大きくなりがちであることや、理系は文系よりも採用難であるため、大企業でも採用大学の裾野は広くなっています。ただし、「5000名以上」の超大手企業の内定保有状況で比べてみれば、理系といえども大学格差は歴然としています。
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差

内定取得後、就職活動を終える学生が増える

すでに内定を保有している学生に対して、今後もまだ就職活動を継続する予定なのかを聞いてみた結果を、文系・理系別に昨年の調査データと比較してみました。いずれも採用選考解禁後、約1カ月経過の時点で調査しているため、2016卒データについては昨年8月下旬時点での調査結果となっています。

まずは文系ですが、「(就職活動を)終了する」学生の割合は昨年の66%から69%へと微増となっています[図表9]。ただし、調査時期が2カ月早まっていることを考えれば、「微増」は決して「微増」にはとどまらないと思われます。8月末に再度調査をしたとすれば、「終了」学生は格段に増えているでしょう。昨年の学生は、7~8月の猛暑の中、リクルートスーツを着込んで就職活動を続けていたことを考えれば、仮に志望度がそれほど高くない企業からの内定であったとしても、もういい加減ここらで就職活動をやめようと考える学生がそこそこいたものと思われます。
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差
しかし、今年の調査はまだ6月末です。一部の人気企業の採用活動は落ち着いてしまったかもしれませんが、まだまだ採用活動を継続している企業は多く、現在の内定先を不本意だと思えば就職活動を続けることはできる環境にあります。その証拠に「第1志望の企業に内定したがまだ他も見たいので継続する」という学生は昨年の8%から13%へと増えている状況です。昨年の学生は、学生最後の夏休みを棒に振る形になりましたが、今年の学生は最後の夏休みを満喫しようとの意気込みだともとれます。

 続いて理系学生の継続意向ですが、こちらも昨年と比較すると「終了する」学生の割合は微増となっています[図表10]。文系よりも「第1志望の企業に内定したので終了する」学生の割合が多いのは、推薦制度を利用して内定を取得した学生が一定数いるためです。推薦応募での内定は、原則として辞退が許されません。「第1志望の企業に内定したがまだ他も見たいので継続する」という学生が昨年よりも多いのも、文系学生と傾向は同じです。こちらは自由応募で内定を取得した学生ということになります。
第65回 内定先企業の従業員規模では、依然として残る大学格差
採用広報期間が短期化したことで、企業研究不足から最終就職先企業を決断できない学生が多くなるのではとの見方がありました。「第1志望の企業に内定したがまだ他も見たいので継続する」という学生の増加はその表れなのかもしれませんね。
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