最近、地方自治体の若年者就業支援事業を受託されている人材会社の方から、面白い話を伺いました。どういう事業かというと、未就職の卒業学生を集め1カ月の研修を行ってから中小企業で約5カ月インターンのような形で働いてもらい、良ければその中小企業に正社員として未就業者を雇用してもらうという仕組みです(HRプロは、その研修期間中に中小企業で働くモチベーションを高めるプログラムを2日間提供しています)。この事業を通じて正社員として雇用される未就業者はなんと90%近くに上るということです。その人材会社の社員は、未就業者の就職のために大変な努力をされていますが、未就職の若者にそれだけ働くことができる能力があるのだと思うと感動的です。若者は磨けば可能性があるのです。
面白い話というのはここからなのですが、元ヤンキーの人たちは、正社員就職がすんなり決まるケースが多いとのこと。見た目の態度は最初悪いのですが、根性がある、タテ社会を理解している、男女交際を通じてコミュニケーション力が養われている――というのが理由だそうで、中小企業の経営者に気に入られるようです。聞いた時は驚きましたが、理由を聞くと、「なるほど!」と納得です。逆にどうしても決まらない人は、一度も男女交際をしたことがないような人付き合いの経験が少ない人で、集団の中でもまれることに慣れておらず、独りよがりになりがちとのことです。こちらも納得ですね。
 
 私はこれまで多くの学生の面接をやってきましたが、正直に白状すると面接官としての自信はありません。以前勤めていた会社で採用した学生で、面接時はA評価だった人があまり振るわなかったり、C評価だった人がすごく活躍したりと、本当に面接では分からないなと思います。これは私だけの評価ではなく、他の面接官も同様でした。見た目の優秀かどうかだけでは、その人が会社に入って頑張れるかどうかは分かりません。企業風土との相性もあるし、上司との相性もあるでしょう。
 また、適性検査を扱っている某大手企業の元社長が、
「面接や適性テストで人間が分かるなんてことはあり得ない。せいぜい5~10%程度の差でしかないと認識すべきだ。それでも野球の打者で2割5分と3割~3割5分の打率の差は大きいように、確率を高めることの意味はある」
――と昔言われていたことを思い出します。
 人は見た目だけでは分かりません。働かせてみないと本当に分からないと思います。面接で人間が見抜けるなどと過信しないように気を付けたいものです。そういう意味では、実際に働く経験をする長期のインターンシップで採用を決める、というアメリカの主要企業の新卒採用方式は見習うべきだと思います。

企業がアピールしたい魅力、学生が重視する魅力のギャップ

さて、話は変わりますが、企業がアピールしたいことが学生から評価されず、学生は違う情報を求めている…ということは多々あります。今回はそのギャップを見て、企業がどうすべきかを考えてみたいと思います。これは、採用ホームページ、入社案内、会社説明会ツールだけのテーマではなく、社員と学生の面談や面接のシーンでも重要なポイントです。学生が求めているものを把握しつつ、学生とのダイレクトなコミュニケーションの中でどのように自社の魅力をアピールするべきか、考えていただく材料を提供したいと思います。

 昨年末に、企業には「自社でアピールしたい魅力」を、学生には「志望企業を決める際に重視する魅力」を、それぞれ同じ項目でアンケート調査しました。「仕事の魅力」「会社の魅力」「社会的責任の魅力」「雇用の魅力」「採用活動の魅力」の五つの軸で項目を聞いてみました。今回は、その中でも特に重要である「仕事の魅力」と「会社の魅力」に注目してみたいと思います。

「仕事の魅力」について

企業が「仕事の魅力」で最もアピールしたいのは、「若いうちから活躍できる」ことで44%もあります。しかし、学生のほうはというと、文系で9%、理系で8%と非常に大きな差が見られます。企業側がこのギャップを分かった上で、あえて「若いうちから活躍したい」学生を引きつけたいと意図しているとも言えますが、これほどギャップが大きいと、訴求対象が限られてしまう可能性もあります。
第12回 「仕事の魅力」について(2012年4月)
一方で、学生が圧倒的に魅力に感じるのは「仕事が面白そう」で、文系56%、理系59%という結果になっています。対して企業は30%とそれほど高くはありません。このギャップの意味は非常に重要だと私は思います。それは、単に仕事を面白そうに見せてどんどんアピールしようということではありません。もし大人から見ても「面白くない地道な仕事」を無理に面白そうに見せたりすると、勘違いして入社する学生が増え、かえってミスマッチが大きくなって早期退職やモチベーションダウンに陥るだけでしょう。そうではなくて、学生は「仕事を楽しんでやりたい」と思っているという事実があり、それに対して自社の仕事の実態をどのように表現してぶつけるかによって、学生のその企業に対する見方は大きく影響を受けるということです。もしくは、本当に社員が心底面白い仕事がやれていて、学生にそのように語れる会社は、非常に高い人気を得ることができます。


「面白法人カヤック」という会社があります。社名自体がすでに面白いのですが、「たのしくはたらく」をモットーとし、実にさまざまな工夫で仕事を楽しもうとしているのが、会社ホームページを見ていると伝わってきます。また、採用活動自体が実に面白そうなのです。「事前合格可能性判定」「世界最速!3秒エントリー!ワンクリック採用」「自己PR不要!志望動機不要!卒業制作の作品をエントリーシート代わりにして選考を行う」「全国を回るバスの中で会社説明会を行う、旅する会社説明会」など、採用という仕事を楽しんでやっていることがよく分かります。一見するとふざけているようですが、私から見ると本当によく学生のことを考えています。学生の楽しい仕事がしたいというニーズにもマッチしており、優れた採用広報の見本とも言えます。
 ただ、一般の企業にこのまねをしたほうがいいと言うつもりは全くありません。そうそう面白い仕事というのはないでしょう。逆に、仕事の厳しさを徹底して前面に出し、そのような中でこそプロが育つのだと、ガツンとアピールすることも「あり」です。要は、「楽しい仕事がしたい」という学生のニーズを把握した上で、どのようなスタンスで臨むか、を会社と社員が共有して採用活動に臨むことが大切だということです。

「会社の魅力」について

企業側で最もアピールしたい「会社の魅力」は「技術力」で35%となっています。回答企業のベースとなるHRプロ会員企業の約3割が製造業、2割が通信・IT業であり、それらの企業が技術力をよりアピールしていることは間違いありません。一方で学生のほうを見ると、文系で「技術力」が魅力と答えたのが4%なのは仕方ないとして、理系でもその割合は23%、1位ではなく3位(2位とほぼ同数)にとどまっています。文系・理系ともに1位は「経営者・ビジョンに共感」で、それぞれ49%、33%となっています。
第12回 「仕事の魅力」について(2012年4月)
こうしてみると、技術力の高い企業が技術力をアピールするのは当然のことなのですが、それで終わっていては文系はおろか、理系にすら十分にアピールできない可能性が高いことが分かります。特に最終製品が身近にない製造業の場合、いかに経営者・ビジョンを学生に伝えられるかが重要となります。
 しかし、得てしてそのようなB to Bの製造業では“トップの顔”が見えにくく、会社としてビジョンを伝えることがあまりうまくないところが多いように感じます。世界的な技術を持ち、収益性の高いビジネスモデルを持っているメーカーが、こと新卒採用については非常に苦労をしているという話はよく聞きます。採用プロモーションや学生とのダイレクトなコミュニケーションの中で、いかに経営者が採用活動に積極的に参加できるか、また採用に関わる社員が自然にビジョンについて語れるかチェックしてみてください。

「その他の魅力」について

「社会的責任の魅力」については、企業、学生ともに「事業自体が社会貢献」が最も高いことで共通しています。また、企業側では「女性活用の姿勢が強い」が6%であるのに対して、学生は文系で21%、理系で14%と高く出ており、ギャップが見られます。
第12回 「仕事の魅力」について(2012年4月)
「雇用の魅力」についても、企業、学生ともに「社風・居心地が良い」が最も高く共通しています。「教育研修に熱心」は企業30%に対して、文系17%、理系18%と差があります。一方で、「福利厚生」は企業が7%と低いのに対して、学生は文理とも22%と差があります。「教育研修」より「福利厚生」を重視する学生に企業側はあきれているかもしれませんが、優秀とされる学校群の学生でもこの傾向は変わりません。「福利厚生」への取り組みは外せない項目かもしれません。
第12回 「仕事の魅力」について(2012年4月)
「採用活動の魅力」で企業と学生に差が見られるのは、「採用担当者、一般社員の魅力」という“人の魅力”を重視する学生(文系59%、理系63%)に対して、企業はそれほど高くない(42%)ことが分かります。一人の社員との出会いによって学生の志望度が大きく左右されることに、企業はより注意を払う必要があるでしょう。採用担当者だけでなく、学生と接する一般社員も、コミュニケーションスキルを高めることが重要です。
第12回 「仕事の魅力」について(2012年4月)
このように企業がアピールしたい魅力と学生が重視する魅力のギャップを見てきましたが、決して学生のニーズに迎合するということではなく、ギャップを認識した上でどのように自社の魅力を打ち出すか、それをいかに浸透させるかを検討していただきたいと思います。
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