「働き方改革」取り組み状況に関する調査結果の第4回は、「働き方改革の進め方」と「多様な働き方」についてレポートする。
 「働き方改革の進め方」では、「働き方改革」に関する方針や目標がどのような状況かを聞いた。「目標や方針が明確化され社内に浸透している」と回答した企業は30%、「方針や目標は定められているが、社内に浸透していない」が37%、「目標や方針は定められていない」が33%だった。「働き方改革」に取り組んでいても、目標や方針が社内に浸透していなければ達成するモチベーションが働きにくい。また目標自体を定めていないと、施策がお題目で終わってしまいがちだ。
 「多様な働き方」として、時間や場所にとらわれない働き方の施策を聞いたところ、最も多かったのは「フレックスタイム制度」で、39%の企業が実施していることがわかった。第2位は「短時間勤務・短時間正社員(育児・介護を除く)」で25%だった。短時間勤務正社員は、「これまで企業が正社員に求めてきた働き方では活躍できなかった意欲・能力の高い人材を新たに正社員として確保・活躍できる制度(厚生労働省/短時間正社員制度導入支援マニュアルより)」として導入されてきたものだ。企業の人手不足という課題を解決し、時間の制約がある人もワーク・ライフ・バランスを実現して能力を発揮できる仕組みとして、導入されてきていると考えられる。
 そのほかの「時間や場所にとらわれない」多様な働き方はどのくらい実施されているのか、詳しくはこちらをご覧ください

「働き方改革」に取り組んでいる企業で「目標や方針が明確化されて浸透」しているのはわずか3割

「働き方改革」に取り組んでいる企業は62%である。実際に取り組んでいる企業に対して目標や方針はどのような状況であるかと聞いた。
 「目標が明確化され、社内に浸透している」のはわずか30%だった。「方針や目標は定められているが、社内に浸透していない」が37%、「方針や目標は定められてない」が33%である。
 「働き方改革」に対する自由意見として「働き方改革の目的を福利厚生とすると、日本企業の場合は建前的な取り組みだけで終わってしまう。あくまで企業の業績アップを目標とし、生産性向上、チーミング促進、イノベーション促進などのKPIを策定し、それを阻害する要因の改革としなければ、今後の企業の発展はない」(1001名以上、情報・通信)というコメントもあった。
「働き方改革」を単に福利厚生として推進するのではなく、業績向上につなげる考え方が必要だ。そのためには、目標や方針が明確でなければ正確な現状と成果が掴めないだろう。「働き方改革」を単なるお題目で終わらせることの無いように、目標や方針の明確化と社内浸透を進めていくべきだろう。

【図表1】「働き方改革」に関する方針や目標の状況

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【4】「働き方改革の進め方」と「多様な働き方」

「働き方改革」を推進する組織や担当者は人事・総務が兼務が最多32%

次に、「働き方改革」を推進している企業に、「働き方改革」を推進する組織や担当者が決められているかを聞いた。「働き方改革」専任の部門・担当者が設置されているのは、わずか5%である。1社を除いたすべてが1001名以上の大規模企業である。
 最多は「人事・総務部門内に『働き方改革』の役割が設置されている」(32%)であり、人事や総務のメンバーが兼務しているのが実態だ。「人事・総務部門に加え、部署横断的な組織(委員会など)が設置されている」企業は16%あり、より全社的な取り組み体制を築いている。「部署は組織はないが担当者がいる」は18%で、全体では71%が何らかの組織や担当者が設置されている。一方、「特にない」が28%であった。取り組みが現場の管理職に任せられている可能性もあるだろうが、組織全体としての責任者がいない状況では、なかなか施策が進まないのではないだろうか。

【図表2】 「働き方改革」を推進する組織や担当者は定められているか

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【4】「働き方改革の進め方」と「多様な働き方」

「時間や場所にとらわれずに働くための取り組み」の第1位は「フレックスタイム制度」

多様な働き方のうち、「時間や場所にとらわれずに働くための取り組み」について、どのようなものを行っているかを聞いた。「フレックスタイム制度」(39%)は約4割の企業で導入されている。第2位は「短時間勤務・短時間正社員(育児・介護を除く)」で25%の企業で取り組んでいることがわかった。
 トップ2はいずれも「時間にとらわれない働き方」が占めた。

 つづいて、第3位は「モバイルワーク(顧客先や移動中など)」と「在宅勤務」(21%)、地域限定(転勤の無い)正社員制度(14%)、施設利用型テレワーク(サテライトオフィスなど)(7%)であり、第3位~6位が「場所にとらわれずに働くための取り組み」となった。

【図表3】時間や場所にとらわれずに働くための取り組み

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【4】「働き方改革の進め方」と「多様な働き方」

規模別にみると取り組み内容・実施割合が大きく異なる

以上は全体の数字だが、企業規模別にみると1001名以上の大規模では「フレックス制度」(64%)、「短時間勤務・短時間正社員(育児・介護を除く)」(51%)となり、半数以上の企業にこうした施策が普及している。「朝方勤務」以外はどれも大規模企業ではいずれも1000名以下規模よりも実施割合が大きい。
一方で、大規模ではわずか4%と少ない「朝方勤務」は、1000名以下企業では31%が実施している。

全般的にみると、多様な働き方の推進は大規模企業ではある程度進んでいるが、中堅・中小規模の企業ではまだ普及していない様子だ。

【図表4】時間や場所にとらわれずに働くための取り組み(企業規模別)

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【4】「働き方改革の進め方」と「多様な働き方」

「多様な働き方」を推進するうえでの課題は「管理職の能力・スキルの不足」

「多様な働き方」への取り組みを進めるうえでの課題はどんなことを聞いた。第1位は「多様な働き方をする従業員をマネジメントする管理職の能力やスキルの不足」(54%)である。第2位は、「PC、デバイス、セキュリティなどインフラ整備等に係る費用や教育の負担」(46%)、第3位は「業種・業務の特性により、時間や場所の柔軟な働き方への制約がある」(44%)となった。
 人によって出勤・退勤時間が異なったり、別の場所で働く部下がいたりということになると、部下をマネジメントする管理職にはそうした対応をしながら業務を進める能力・スキルが必要となる。それらの能力を身に着けずに仕組みだけを導入すると、業務の現場は混乱してしまう。人事担当者が考える課題として第1位に上がったのは当然のことだろう。
 またインフラ整備、セキュリティには費用や教育の必要がある。業務によって多様な働き方が導入しやすいものと、そうでないものがある場合は、平等性・公平性を重んじる人事にとっては頭が痛い。「賃金・評価などの処遇の公平性の確保」(40%)も必要である。「従業員の意識・理解の不足」(43%)や、「職場内コミュニケーションが阻害される」(31%)といった意識やコミュニケーションの問題は、同じ職場で同じような仕事をする人が異なる労働条件下で仕事をすることなるので、心情的にネガティブなものを生み出しかねないという心配があるのだろう。
 「多様な働き方」は、労働生産性と個人のワークライフバランスを両立させ、より働きやすい職場を実現するものだが、それを実現するためには、労働者一人ひとりが自律して仕事をすることが前提となる。多様な働き方の推進するためには、管理職だけでなく、社員一人ひとりの仕事に対する意識を改善していく必要がある。

HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【4】「働き方改革の進め方」と「多様な働き方」

「多様な働き方」を推進する方向性だが課題も多い

「多様な働き方」の推進についてお考えを聞いたところ、数多くの皆様が真剣にお答えくださった。全てご紹介できないのが残念だが、代表的なご意見をここにご紹介しよう。

■現状の壁あり
・製造業であるがために生産の現場は在宅勤務ができない。そのため不公平感が出ることを懸念して導入に踏み切れない。(メーカー)
・部署や業務内容によっては、フレックス制が可能だと思うが、それができない部署との不公平感ある。(サービス)
・弊社は小売業なので店舗スタッフの労働環境はデベロッパーの規程に順ずる状態なので、働き方を柔軟にしたくとも一筋縄ではいかない。デベロッパーをも巻き込んだ施策が必要だと感じている。(メーカー・販売)
・推進すべきだが、現行のルール、お客様の都合などを合わせると、すべて叶えない「壁」があるのが今後の課題。幹部自身がダイバーシティについていけていない面もある。(サービス)
・ワークシェアリングや時短勤務など正社員がその様々な人生のフェーズの中で選べることは非常に魅力的だが、会社としては、空いた穴をどう埋めるか、周りの従業員の理解など実際に起こった時には非常に悩ましい。(サービス)

■リスクあり
・在宅勤務やテレワークは結果として長時間労働につながるリスクを含んでいると感じている。多くのフリーランスや個人経営者が長時間労働になりがちなのと同じ理由。しっかりとした環境や組織がなければやるべきではないと思う。労働環境が見えないために、過剰な負荷がかかる危険性がある。

■個人・管理職の力量
・社員個人で自律できるかどうかの見極めが重要(マスコミ・コンサル)
・個人個人の業務内容についての共有意識を高めることが必要。それによって協力関係が高まり業務の代替がある程度可能な体制を確立することが重要。(サービス)

■トップダウン
・文化はなかなか変わらないため、トップダウンで制度など実施すべきだと思う。
・多様な働き方は、実際に幹部・管理者自身が取り組んでみないと進まない。強制的な在宅勤務デーの設定など、まずは経験することが必要。(情報・通信)

■社会環境・社内環境の変化
・これからの労働人口減少に対応するためには避けられない道であると考えます。会社としての発信とともに管理職・一般層の意識改革、インフラ整備が喫緊の課題と認識しています。(情報・通信)
・ここ2~3年で時短社員が増えている。子育てをしながら時短勤務や病気のため時短勤務にしているなど、少しでも働いてもらえるならば、退職よりも時短で続けてもらうほうがメリットがある。今後も時短社員の割合が増えたときの、補完できる体制作りが課題となる。やりがいや楽しみを求める時代に寄りそった考えをしていきたい。(メーカー)
・労働人口が減っていくため、定年の延長や多様な働き方は必要不可欠になると思う。その中でも子育てを機に、専業主婦になった女性には、大変優秀な人材が隠れていると思うので、子育て中の女性に寛容な企業となるべきだと思う。(メーカー)

■チャレンジ/PDCA/外部からの刺激
・できない という固定観念があるので、その観念を払拭することが大事である。私自身の勉強も必要。(メーカー)
・まずやってみる→改善する→またやってみる。こういった取組み姿勢に対して会社が柔軟になると良い。(情報・通信)
・時間と場所の制約は、テクノロジーの力を借りながら、柔軟な経営姿勢によって取っ払っていくべき。(サービス)
・M&Aした海外企業からの指摘で働き方を見直すことも多い。外国籍社員の促進、中途採用社員の促進など、外部の視点を持った社員が増えることで、自社がいかに不自由かを認識させることが必要。(情報・通信)
・毎日満員電車で都心に出かけることが当たり前になっていることが問題。いちど全オフィスワーカーが、自分の心に素直になって考えるべき。オフィスにいなくとも優れた社員は、優れたアウトプットを出すし、必要なコミュニケーションはとる。オフィスにいないと不安だから、集まってしまっているだけ。領収証、請求書、契約書の紙文化がなくなれば、もっとオフィスに行く必要性は薄れる。脱オフィスのためには、ペーパレスが必須。(情報・通信)

  • 1