新任管理職研修の実施は、企業規模によって大きく差異がでた。1001名以上の大規模企業では約9割が実施しているが、300名以下規模の企業ではわずかに35%の企業でしか実施していない。企業規模が小さくても、管理職としての業務を行うことには変わりはないのだから、中小規模企業での管理職研修が今後、より実施されていくことを期待したい。

研修実施に当たっての課題は、「実施効果の測定ができない」が第1位だった。また新任管理職の育成における課題としては、7割以上が「部下育成力・コーチング力」と回答した。新任管理職研修の内容のトップ3は「マネジメント」「リーダーシップ」「目標管理」で、今後実施したい内容としては、「コーチング」「リーダーシップ」が同率トップとなった。

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企業規模で異なる新任管理職研修の実施率。大規模では9割、中小ではわずか35%

初めに、新任管理職研修を実施しているかどうかについて聞いたところ、全体では60%が実施していると回答した。規模別に見ると、1001名以上規模の企業では89%で、約9割が実施している。301~1000名規模では75%が実施しているが、300名以下になると35%しか実施していない。小規模企業ほど、新任管理職研修を実施していないという実態が判明した。
実施している企業では、受講率が100%の企業が約半数、91~99%が3割で、91%以上の受講率が全体で8割だった。実施している場合は、新任管理職のほとんどが受講しているわけである。

〔図表1〕新任管理職研修の実施

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【3】新任管理職研修

研修実施にあたっての課題のトップは「実施効果の測定ができていない」

こうした研修を実施するにあたっての課題を聞いたところ、「実施効果の測定ができていない」が41%でトップとなった。続いて、「受講者の意識」(29%)、「研修メニューの構築・選択が困難」(24%)と「人事・教育担当のリソース不足」(24%)が上がった。

「実施効果の測定ができていない」状況では、研修がどのくらい役立っているのか判定できないし、適切な改善策も立てられない。だから効果測定を実施すべき、とわかっていても、なかなか手が付けられていないということなのだろう。
「受講者の意識」が課題では、「受講者のやらされ感が強い」(301~1000名、サービス)、「受講者間の温度差。プレイヤーからマネージャーへの意識変革」(301~1000名、メーカー)などがあった。管理職であるという意識を研修によって植え付けていくことも必要であるが、管理職になった時点でそうした認識が欲しいということだろう。

「研修メニューの構築・選択が困難」では、「評価制度などの簡易な研修は行なっているが、人材マネジメント・リーダーシップ等の研修が出来ていない。部長以下、社内に一貫したマネジメントプログラムがないことが課題」(300名以下、メーカー)という研修体系全体の課題を上げる声があった。中小規模では研修体系全体の構築において課題があると思われる。

〔図表2〕新任管理職研修実施にあたっての課題

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【3】新任管理職研修

新任管理職の育成の課題は「部下育成力・コーチング力」が72%でトップ

新任管理職の育成の課題は、どういうものがあるのだろうか。複数選択で回答してもらったところ、「部下育成力・コーチング力」がトップで72%だった。第2位は「管理職としての役割認識」69%、第3位は「リーダーシップ」で51%だ。

自由記述で具体的な課題を聞いた。「部下育成力・コーチング力」については、「元々モチベーションが高い社員が管理職に登用されるため、(部下の気持ちがわからないために)モチベーションを上げる関わりができない」(1001名以上、マスコミ・コンサル)、「多くがプレイングマネージャーであり、人の育成に関心が向いていないこと」(1001名以上、情報・通信)といった声があった。個人プレーヤーとして活躍してきて業績が良い人が管理職に抜擢されるのは、よくあることだ。管理職になって初めて、それまで行ってこなかった部下育成が重要な職務になる。しかし管理職に抜擢されたからといって、その時点で部下育成力が備わっているわけではないのが実情だ。新任管理職研修でこうした点を育成するのはもちろん、一歩手前の段階で管理職としての部下育成力を身に着けさせる必要があるだろう。

「管理職としての役割認識」では、「管理職としての十分な意識付けが出来ず、玉突きで管理職になる場合がある」(1001名以上、サービス)や、「評価基準等、何か正解があると思っている。自らの判断力を磨く意識が薄い」(301~1000名、メーカー)などの声があった。人事としては、現場では身に付きにくい役割認識をどうやってつけていけばよいのか、研修内容やその後のフォローの仕組みで構築していく必要があるだろう。

〔図表3〕新任管理職社員の育成に関する課題

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【3】新任管理職研修

新任管理職研修の内容は「マネジメント」「リーダーシップ」「目標管理」

新任管理職研修ではどのような内容を実施しているかを聞いた。第1位は「マネジメント」87%、第2位は「リーダーシップ」66%、第3位は「目標管理」62%である。ここまでが半数以上の企業が取り入れている内容だ。「マネジメント」は、具体的に記述いただいたもので見ると労務管理、財務管理、法務、経理といった内容が含まれる。「リーダーシップ」には、組織のリーダーとしてどのように行動すべきかが含まれ、内容は幅広いものになるだろう。第3位の「目標管理」は、目標管理制度を実施している企業では管理職として「評価の仕方」を研修しているということである。

トップ3に続くのが、「チームビルディング」「コーチング」「モチベーション向上」「意識改革」といった部下育成や組織運営に関わるもので、33%~35%の企業で実施している。「メンタルヘルス」「ハラスメント」といった心理学やコンプライアンスの知識を要するものが3割程度、「財務知識」も同程度である。

具体的に新任管理職研修の内容を聞いたところ、「経営トップによる意識づけ、目標管理、人事考課者研修、多面観察など」(1001名以上、メーカー)といったトップからのメッセージと人事制度上の管理職の評価業務に関わるものをセットにしている企業や、「管理職としてあるべき姿、部下のマネジメント、リーダーシップ、コーチングとティーチングなど」(301~1001名、メーカー)といった管理職の役割認識と部下育成手法を組み合わせた企業が見られた。

〔図表4〕新任管理職研修の内容

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【3】新任管理職研修

今後取り入れたいのは、「コーチング」「リーダーシップ」が35%でトップ

今後、新任管理職研修に取り入れたい内容を聞いた。第1位は、「コーチング」と「リーダーシップ」で35%。第2位は「マネジメント」30%、第3位が「意識改革」29%である。

前出の「新任管理職の育成の課題」では「部下育成力・コーチング力」がトップだった。一方、「実施している内容」ではコーチングは35%だったので、75%の企業ではコーチング研修を行っていないということになる。そうした企業がコーチングを実施したいと考えていると思われる。

コーチングは、2000年ごろから普及してきた人材開発技法で、企業では主にコーチ役を務められるようになるための研修を行っていることが多い。また新任管理職がプロのコーチから「コーチングを受ける」こともあるだろう。いずれにしても、最終的には新任管理職が部下に対してコーチングをできるスキルを身に着け、部下育成力が向上することが目的である。リーダーシップが、どちらかというと組織をどう牽引していくかというリーダーの姿を目指すのに対して、コーチングは個人個人に対して異なったコミュニケーションを取りながら、全体のパフォーマンスを向上させていく手法である。管理職にはどちらも必要な技法であるが、従来はリーダーシップだけで対応していた。コーチングが注目されているのは、ダイバーシティや働き方の多様化、また変化の早さなどの昨今の環境によるところが大きい。大きな声でチームを牽引するだけでなく、一人ひとりの違いを生かしてパフォーマンスを向上させるためにコーチングが必要とされているのではないかと考える。

第3位の「意識改革」は、人材開発・組織開発技法として何か定まったものがあるわけではない。しかし人事の皆様から選ばれたということは、外界の変化に対応するための社員の意識改革を管理職に推進してもらいたい、という意向なのであろう。

そのほか、「モチベーション向上」「チームビルディング」「ビジョン構築力」などの組織運営に関わる研修のニーズがあり、実施ベースでは少数派だった「ロジカルシンキング」「ファシリテーション」なども20%以上の企業が、今後実施していきたいと考えている。

〔図表5〕新任管理職研修に今後取り入れたい内容

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【3】新任管理職研修

新任管理職研修は、新入社員研修に次いで企業で実施されている研修である。受講者は、それまでの「被雇用者側・組合員」から、「雇用者側・非組合員」へ転換し、部下の業務の責任も負う立場となる。新任管理職研修においては、これらの労務的な内容と部下育成の両面で、新任管理職をサポートしていく必要があるだろう。さらには、管理職として配属されたあとも、より実績がだせる管理職となるためには個人個人の成長が必要だ。新任時だけでなく、継続的に管理職を育成していく必要があると言えるだろう。

【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年3月9日~3月17日
有効回答:162社(1001名以上:47社、301~1000名:44社、300名以下:75社)

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