HR総研が発行する「HR総研 人事白書2016」では、人材育成に関する調査結果を報告している。そのうち、今回は「教育体系」についての調査結果をレポートする。

「教育体系の有無」については、企業規模が大きいほど「ある」が多く、301名以上の規模では7割以上の企業が教育体系を有している。教育体系が設計されたのは、直近5年以内が半数以上であるが、1001名以上の大規模企業では、4割が2000年~2009年に設計されたものを利用している。
教育体系を改定するかについては、改定の予定があるのは4割弱であった。

教育投資を内製化と外部委託のどちらに比重を置くかという点では、「できるだけ内製化するが内部で対応できないものは外部を利用する」とする意見が最も多く、約6割となった。

教育方針として「社員全体の底上げ」と「選抜」ではどちらを重視するか、という質問には、「両方とも同程度行う」が、昨年の27%から40%へ増加した。ビジネス環境の変化に伴って、タレントマネジメントやキャリア開発など個人に焦点をあてた育成が求められており、人材育成における人事に求められる役割が次第に変化しているようである。

※企業規模別の数値、自由記述による課題提示等の詳細は、ログインの上、ぜひご確認ください※

「教育体系の有無」は企業規模が大きいほど「ある」が多い

人材育成にあたり、教育体系を有しているかを聞いた。教育体系が「ある」のは全体では65%。「ない」が22%で「作成中」が13%だった。企業規模別にみると、1001名以上では79%、301~1000名では73%と7割以上だが、300名以下では53%である。教育体系を作らずに、都度必要な教育を行っているのだろうが、教育体系がある方が社員にとってはキャリア開発がしやすいので、教育体系を有することが望まれる。

自由記述では、「教育体系が存在しないため早急に作る必要がある。教育制度はあるが試行的で散発的。」(メーカー、300名以下)、「系統間の違いや格差をどう解消するか。全社として教育体系にどう統一感をもたせるか。」(メーカー、1001名以上)といった声が上がった。

教育体系があっても、その実行性や社内での位置づけなどの課題がある。教育体系は企業の人材育成の根底を成すものなので、その在り方について人事は常に悩ましく考えている様子がうかがえる。

〔図表1〕教育体系の有無

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【1】 教育体系

直近5年での設計は全体半数以上。300名以下では7割以上

教育体系がある場合、いつ設計されたものかを聞いたところ、全体では16%が2015年度に設計されていて、40%が2010年~2014年と回答した。半数以上が直近5年以内に設計している。

規模別に見ると、300名以下の小規模企業では、74%が5年以内に設計をしている。一方1001名以上の大規模企業では45%が2000年~2009年の設計であると回答している。教育体系はビジネス環境の変化や人事制度の改定などに準じて設計・改定されるものであるが、1980年代、90年代に設計された教育体系を利用している企業が1割あり、形骸化が懸念される。

〔図表2〕教育体系の設計時期

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【1】 教育体系

教育体系の改定の予定があるのは、4割弱

教育体系の改定の予定について聞いたところ、「改定の予定がある」は39%、「改定の予定はない」が30%、「未定」が31%となった。業種・規模別にみると、1001名以上のメーカーでは、50%が「改定の予定がある」と回答している。

改定の予定がある企業の教育体系は、いつ設計されたものだろうか。2009年以前の設計のうち約3割、2010年以降の設計のうち約5割が「改定の予定がある」と回答しており、5年以内に設計している企業の方が改定を予定している割合が高い。短期間で頻繁に設計し直しをする企業と、長期間にわたって設計をし直さない企業とに分かれるようだ。

〔図表3〕教育体系の改定の予定

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【1】 教育体系

教育投資は「内製化」の方向性が約8割

教育投資を内製と外部委託のどちらに比重を置くかを聞いたところ、「できるだけ内製化の方針である」が全体では20%、「できるだけ内製化するが内部で対応できないものは外部を利用する」が58%であった。内製化を基本方針とする企業が合計で78%、約8割が内製化の方針であることがわかった。一方、「できるだけ外注化の方針である」は3%、「できるだけ外注化するが外部で対応できないものは内製化する」が8%で、あわせて11%である。

内製化・外部委託の課題として自由記述では、「内製化と外部委託のバランスが課題です。将来的には6:4を目指したいのですが、果たして内部講師を育成できるか。」(運輸、301~1000名)、「社内に特化した専門性の高いトレーニングニーズが多く、トレーニングも内策が必要となるが、教材を作る技術者が多忙のため、なかなか教育ができない。」(サービス、300名以下)などが上がった。

内製化のメリットとしてはコスト面や、社内講師を育成できるといった人材育成面、またノウハウが社内に蓄積できるといったナレッジ面でのメリットがある。一方、外部の利用はコストの負担はあるものの、社外の講師から社内では受けることができない刺激を受けたり、社内には無い新しいナレッジを享受できるといったメリットがある。それぞれのメリットを生かして効果的な教育研修を組み立ててほしい。

〔図表4〕教育投資の方針(内製化・外部利用)

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【1】 教育体系

「社員全体の底上げ」と「選抜」は両方同程度が4割

現在の「教育方針」のうち、「社員全体の底上げ」と「選抜人材への投資」では優先するかを聞いた。昨年の調査では、全体では「社員全体の能力・スキルの底上げを行う」と回答する企業が半数(50%)を占め、「選抜した人材に対して教育投資を行う」が20%、「両方とも同程度行う」が27%であった。

本年の調査では、「社員全体の底上げ」が40%に減少し、「両方とも同程度」が40%と大幅に増加した。この1年で、全体の底上げは欠かせないものの、「選抜人材への投資」についても重きが置かれてきたことがわかる。規模別に見ると「両方とも同程度行う」は300名以下の規模では30%、301~1000名では47%、1001名以上では48%と、大企業ほど選抜にも底上げと同等に力を入れる傾向がうかがえる。

自由記述では、「選抜型の教育投資への転換」(メーカー、1001名以上)、「階層別、選抜など、まだまだ単発で行なわれているのが実情で、制度化されていない。(一部されているものもある。)これを評価・社風と連動させ、「意味のある」教育体系を策定していく必要がある。」(メーカー、300名以下)などの課題が挙げられた。

従来は、人事の仕事は全社の底上げであり個々の能力開発は現場で、という考え方が一般的であったが、ここ数年でタレントマネジメントの考え方が普及し、個々人のキャリア開発を含めて、選抜人材の育成も人事のミッションとなってきたと言える。今後は、選抜人材への投資をより重視する傾向がより高くなっていくのではないだろうか。

〔図表5〕教育研修の方針(全体底上げ・選抜人材)

「HR総研 人事白書2016」人材育成に関する調査結果【1】 教育体系

【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年3月9日~3月17日
有効回答:162社(1001名以上:47社、301~1000名:44社、300名以下:75社)

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