HR総研では、人事業務の遂行に必要なスキルや、あるべきキャリアパスについて忌憚のない意見を聞いてみた。そこから出てきた課題は、「現場」経験者の少なさだ。ただ、これは人事部門に限った話ではなく、管理部門共通の悩みともいえそうである。

人事業務の遂行に必要なスキルは、「コミュニケーション能力」「企画・戦略立案力」「社内人脈」

人事部門の業務を遂行する上で必要な能力・スキルを複数回答可で聞いてみた。もっとも多いのは「コミュニケーション能力」で、85%である。人事は社内の様々な部署の人と関わるのが仕事だから当然の能力だ。第2位は「企画・戦略立案力」(76%)、次いで「社内人脈」(66%)である。
人事が経営の参謀として人材戦略を策定し、経営に貢献する人事を遂行するためには社内人脈が重要と言うことなのだろう。もちろん人事の「専門知識の高さ」(62%)は大切だし、「経営感覚」(60%)も必要だ。
これらの必要スキルに関しては企業規模・業種によって大きな差異は見られない。

[図表1]人事部門の業務を遂行する上で必要な能力・スキル(全体)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

必要スキルに対するリソースは足りないものだらけ

「人事部門の業務に求められている役割に対して、それを達成するためのリソース(能力・スキル開発の機会の提供、予算、人員の拡充など)が十分に提供されているか」を聞いた。
「十分提供されている」(5%)と「ある程度提供されている」(39%)が4 割強を占めたものの、「あまり提供されていない」(40%)と「全く提供されていない」(8%)は半数近くに上っている。
企業規模で差異があり、「1001 名以上」規模では「提供」が過半数だが、「301~1000名」や「300名以下」では10ポイント以上も低い。時代の変化に即応して人事は能力・スキルアップを図らねばならない。しかし足りないものだらけ。能力開発・スキル開発の機会が少なく、予算も人員も足りない。
フリーコメントからそんな現実を描写する声を紹介しよう。「日常業務とのかねあいで時間がとりにくい」、「人員の補充も思うようにできず、予算もなかなか厳しい」、「費用がかかる研修には許可が出ない」、「人的リソースの不足を訴えても、他の部署から押し付けられたローパフォーマーしか回ってこない。その一方優秀な人材は他部署との兼務等で人事業務に専念できない等、人的リソースが極めて不足している」。

[図表2]人事部門の業務に求められている役割に対して、それを達成するためのリソース(能力・スキル開発の機会の提供、予算、人員の拡充など)が十分に提供されているか(全体)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

[図表3]人事部門の業務に求められている役割に対して、それを達成するためのリソース(能力・スキル開発の機会の提供、予算、人員の拡充など)が十分に提供されているか(企業規模別)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

[図表4]「提供されていない」と感じるリソース(全体)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

あるべきキャリアパスは現場配属後に人事へ異動

「人事部門のキャリアパスはどうあるべきか」という設問では、「最初は現場に配属し、その後管理部門での経験を積むべき」が半数を占めた。「人事の専門家としてずっと管理部門での経験を積むべき」は「300名以下」では4割を占めるが、「301名~1000名」では23%、「1001名以上」では15%と少数派だ。人事の専門家であっても自社ビジネスの経験が求められているようだ。
しかし実態は違う。「営業や製造など現場を経験してから人事へ異動」は20%であり、「人事としてずっと異動しない」が21%だった。異動するとしても「総務や経理など管理部門の中で異動」が22%である。
また業種によっても「現場」経験に温度差がある。非メーカー系では「現場を経験してから人事に異動」が28%と多い。しかしメーカー系では9%と少ない。

[図表5]人事部門のキャリアパスはどうあるべきか(企業規模別)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

[図表6]人事部門で最も多い異動パターン(メーカー系)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

[図表7]人事部門で最も多い異動パターン(非メーカー系)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

人材配置・育成課題を6割の企業が抱える、足りない「現場」経験者

「人事部門の人材を配置・育成する上での課題」について聞いたところ、「ある」と回答した企業が約6 割、「ない」は約4割だ。
課題が「ある」と回答した企業のコメントには「ジョブローテーションという考えがなかった(できなかった)ため、現状は人に仕事がついている状態。全体像がはっきりしないため、どのような仕事・業務があるのかを洗い出し、整理してから出ないと手がつけられない」、「人事部門(に限らず管理部門は皆そうだが)は現場経験者から配置したいが、現場人員が不足しており配置が出来ない」、「人事業務を経験したのちに、他部門へ異動させるとなると、どこまで人事情報を見せていいのかが明確でなく、どの程度の業務を担当すべきか悩ましい」と具体的な悩みが語られている。

[図表8]人事部門の人材配置・育成課題(全体)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

スキルアップは社外セミナー・研修参加、書籍、交流会

人事業務は専門知識を必要とする。そのスキルアップや情報収集のために、人事はどのような支援を受けているのだろうか。最も多かったのは、「社外セミナーや研修参加」で70%。次いで「関連書籍購入」38%、「同業界の人事担当者との交流会参加」35%である。「資格取得援助」も32%と高い。「特に支援していない」という企業も2割弱ある。
これらの傾向は、企業規模、業種でほとんど差異がなかった。

[図表9]人事部門のスキルアップや情報収集の支援(全体)

「HR総研 人事白書2015」人事のスキルに関する調査結果

【調査概要】

■調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
■調査時期:2015年1月14日~4月22日
■調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
■調査方法:WEBアンケート
■回答者数:700名(1001 名以上 153 名/301~1000 名 195 名/300 名以下 352 名)

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