去る平成29年3月、経済産業省に設置された「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会」から、全4回にわたる研究成果の報告書(以下、報告書)が発表された。

報告書では、働き方の選択肢を増やし、働き手と企業との関係を見直すことによる、ライフステージに合った柔軟な働き方、外部人材を活用したオープンイノベーションの促進等の必要性が提起されている。

本稿では報告書をもとに、これからの働き方を再考してみた。
働き方再考〔興〕~仕事と生活の「調和」から「統合」へ~

「雇用関係によらない働き方」とその4類型モデルとは

旧来の「日本型雇用(管理)システム」は、周知のとおり「終身雇用」「年功序列」「企業別労組」といった“3種の神器”を基礎としている。典型的には次の3つの特徴を指摘することができるだろう。

(1)雇用契約
使用者の指揮命令権とそれに対応する労働者の職務専念義務に基づき相互の身分が拘束される。

(2)1社就業
使用者の兼業・副業禁止規定や労働市場における新卒一括採用の慣行に基づき相互の契約が拘束される。

(3)オフィス勤務
使用者の労働時間・業務遂行の管理の必要性や労働者の公私分別の必要性から相互の就業場所が拘束される。

戦後長きにわたるこのような拘束を前提としたシステムがいま、日本の経済成長のひとつの足かせになりつつあることが、報告書によって指摘されている。
また同時に、それぞれの拘束を解くカギとして「請負契約」「兼業・副業」「テレワーク等在宅勤務」が対極の典型例として挙げられており、これらの働き方の担い手を次のようなマトリックスによって整理分類したうえで環境整備(社会保障・法制)を推進していくべきものとしている。


※「プラットフォーマー」とは…雇用関係によらない働き手と企業とのマッチングを仲介する事業者(例:クラウドワークス・パソナテック・ランサーズ)

A群は専門・基礎スキルが高く1社依存度は低いため、自身のスキルや人脈を活用して、多様な企業から企業内人材では遂行できない業務を請け負うパターンなどが想定されている。

B群は専門・基礎スキルが高く1社依存度も高いため、雇用者時代に培った高度なスキルや人脈を元に、特定の企業の専門性の高い業務を請け負うパターンなどが想定されている。

C群は専門・基礎スキルが低く1社依存度は高いため、特定の企業の経営戦略上、雇用関係ではない手法で外部にアウトソースした業務を請け負うパターンなどが想定されている。

D群は専門・基礎スキルが低く1社依存度も低いため、多様な企業からのスポットでの業務を請け負うパターンなどが想定されている。

これらの4類型をモデルとした「雇用関係によらない働き方」がいま、新たな「日本型」に加わろうとしている。

ワーク・ライフ・インテグレーションを見据えたHRM戦略を

従来、職業生活と私生活はあたかも対極にあるかのごとく、もはや二者択一とでもいわんばかりに明確に分別されてきた。

育児休業がその典型的な一つの例と言えるだろう。
当然足下の待機児童が解消されない現状からすれば、休業の恩恵たるや決して否定すべきところではないが、あくまでも一つの選択肢なのであり、本来仕事と育児とがトレードオフの関係として語られるべきではない。

今でこそ「両立支援」というタームによって子育て中の在宅勤務が認められつつあるが、もはや上述の働き方にとっては、育児に限った“特別措置”でも、職業生活と私生活とを“バランス(調和・均衡)させる”という概念でもなく、その両者を“統合(インテグレーション)”した一つの自己実現のあり方なのである。

すなわち、育児や介護といったライフイベントによることなく、ある時は労働者として、またある時は請負人として、さらには同じ企業内でも、ある業務については時間(期間)労働として、またある業務については成果(裁量)労働として、といった働き手自身のキャリアプランと企業のHRM戦略とのマッチングが、今後の事業活動、ひいては日本経済の持続的な成長にとって強く求められるだろう。

企業にとってはこれまで以上に業務の特性を細かく分析し、社内のコア業務として人的資本を集中させるべきか、はたまたその不足を社外のハイパフォーマー(先のマトリックス上でのA群)で補うか、あるいは社内でノウハウを蓄積・継承する必要のない業務(場合によっては部門そのもの)はプラットフォーマーを介して社外リソースに分散させるか……などといった、子会社等への下請負や派遣労働者の活用といった従来の視点だけではない広範な選択肢から、人的資本配分の最適化を図る必要がある。

もちろん報告書でもふれているとおり、各種の環境整備が進まなければ理想のままに終始してしまうことは言うまでもない。
しかしながら、いつまでもワーク・ライフ・“バランス”を追求していては、多様性社会のトレンドにそぐわないばかりか、人材や経験の流出にもつながりかねない。
これからはワーク・ライフ・“インテグレーション”をキーワードに、来るべき「新・日本型雇用」に応えられる体制づくりが肝要となってくることだろう。


社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー
代表 健康経営アドバイザー 楚山 和司

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