「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」が厚生労働省から公表された。居住地の変更を伴う「転勤」は、労働者の暮らしに大きな影響を及ぼす人事異動の一つである。ワークライフバランスが求められる時代の「転勤」について考える。
「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」の公表について

単身赴任妻の会、解散!

春は人事異動の季節である。弊所では筆者をはじめ、夫が単身赴任という家庭の割合が高く、「単身赴任妻の会」を結成し「夫の転勤の際は退職ではなく単身赴任で!」を合言葉に水面下で単身赴任を推進してきた。経営者の立場で言えば、せっかく仕事を覚え、これから、という職員が配偶者の仕事の都合で退職となるのはとても心苦しいことなのである。
そういった中、弊所内全ての家庭の単身赴任が終わり、妻の会も解散となった。ワークライフバランスが求められる時代の流れだろうか。
筆者も今流行りの「ワンオペ育児」真っ只中である。朝は食事の支度、二人の子どもの食事や着替えの介助を終え、保育園へ送り、仕事に向かうことから慌ただしく始まる。仕事が終わるとダッシュでスーパーに行き買い物、夕食の準備を済ませ、保育園へお迎えに行き、子どもの着替えや食事の介助をし、お風呂に入れ、寝かしつける。子どもが寝てからは(一緒に寝落ちしていなければであるが)後片付けをし、明日の用意や持ち帰った仕事、寝る準備をする。夜中は夜泣きで何度も起き、病気になれば救急病院に連れて行く……。常に時間に追われ、油断をすれば気を失いそうになるほどである。世の働くお母さんは同じような状況ではないだろうか。単身赴任が終わった今でも夫は朝早く出勤し、夜遅く帰宅する生活なので、単身赴任中とあまり変わらない生活を送っている。
「単身赴任妻の会」を結成しつつも私個人の身としては単身赴任が早く終わることを切に願っていた。小さな子どもがいる家庭での単身赴任はできるだけ避ける方が良い、と身をもって感じていた。
また、社会保険労務士としては、子どもに手がかかる期間は短いのに、あえてその期間に単身赴任をさせる必要性が会社にあるのか疑問を感じていた。

転勤に関する雇用管理のヒントと手法

「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」は平成29年3月30日に厚生労働省から公表された。
居住地の変更を伴う「転勤」は、労働者の暮らしに大きな影響を及ぼす人事異動の一つである。特に共働き世帯にとっては夫か妻かいずれかが退職か単身赴任の選択を迫られ、最悪、家庭崩壊の可能性もある。
ちなみに転勤命令は、過去の判例によれば「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができる」と解され、「業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである」とされている。(東亜ペイント事件 最高裁二小 昭61.7.14判決)
労働関係法令においては、育児・介護休業法第26条に転勤に関する定めがある。転勤により従業員が育児や介護が困難となる場合は、企業はその育児や介護の状況に配慮する義務がある。
また、労働契約法には、ワークライフバランス配慮義務が定められているし、他にも、男女雇用機会均等法第7条で、募集、採用、昇進、職種の変更に当たって、転勤に応じられることを要件とすることは性別による間接差別となるとし、禁止されている。やはり今のご時世では子育てや介護中の従業員について何も配慮せずに転勤命令を下すのは違法性があり避けた方が良いようだ。
前述の厚生労働省資料のポイントにもあるが、転勤命令の前に、まず、自社の転勤の必要性を再考したい。転勤という方法でなければだめなのか、他の方法により代替することが可能か、検討したい。また、転勤が必要な場合でも、転勤の可能性の有無や地域的な範囲、時期、頻度、期間等、転勤に関する予見可能性を向上させることが大事である。併せて、コース別雇用管理制度等、従業員が転勤の有無や働き方を選べる制度の導入も検討しておきたい。
現在、人手不足はバブル期以来の高水準だそうだ。優秀な人材の獲得が難しい時代、流出も防ぎたいところだ。その為には働き手にとって魅力的な企業である必要がある。人事制度についても然りであるが貴社はいかがだろうか。


松田社労士事務所
特定社会保険労務士 松田 法子

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