全6回にわたり、日本企業が今後労働市場から求められる「働きやすさ」をどのように「見える化」し、持続的な企業価値向上につなげていくべきかを考察・提案する連載コラムの第5回目。

今回は業種・職種を横断して事業主に求められる「メンタルヘルスケアと感染症予防対策」に焦点をあてて解説していく。
働きやすさの「見える化」(5)健康経営で社員も会社も元気になる!

注目される“こころの健康” ―― メンタルヘルスケアの基本

*前回記事はこちら

連載の第1回でご紹介したWHO(世界保健機関)の定義によれば、「健康」とは、身体面のみならず精神面での充足をも意味する。
日本においても、平成17年3月の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の公表、平成23年12月の「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の公表、平成27年12月以降の一定規模以上事業場におけるストレスチェック制度の実施義務化、といった一連の“こころの健康(メンタルヘルスケア)”対策が、政府主導のもと推進されているが、足元のメンタルヘルス不調者の状況(図表参照。独立行政法人労働政策研究・研修機構「職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査」(2012)より作成。N=5,250。有効回収率37.5%)は依然としてそれが未だ十分な成果をあげていないことを物語っている。



全産業平均でも、5割を超える事業所で何らかのメンタルヘルス不調を抱えた労働者が在籍しているということは、健康経営の取り組みを検討するうえで無視できない状況だ。

厚生労働省が公開している「職場における心の健康づくり」によれば、4つのケア(セルフケア・ラインによるケア・事業場内産業保健スタッフ等によるケア・事業場外資源によるケア)が必要とされており、このうち特に不調の兆候の1次予防としての役割が期待されるラインケアにおいては、日常の上司─部下間のコミュニケーションが欠かせない。
まずは通常時の各従業員の状況把握に努め、それと比較しての勤怠、体調、プライベート、パフォーマンスなどの低下や乱れに臨機に気づき、対応できるスキルが求められる。
特に長期休暇や人事考課の直後、異動から1ヵ月後などに不調が発生しやすいといわれており、不調者だけでなく周囲のメンバーも巻き込んでの組織的なリスクに発展する可能性もある。
健康経営では身体の健康にくわえて“こころの健康”づくりにも、ぜひ取り組んでいただきたい。

身近で危険な事業継続リスク ―― 感染症予防対策の基本

職場の健康課題を把握する際に見落としがちなのが、感染症対策だ。
これまで主に生活習慣病など従業員個々人の取り組みが求められる疾患について予防策等を解説してきたが、当然のことながら感染症による疾患 ―― 特に集団感染によるリスクは、事業活動が斉一的に重篤なダメージを被りかねないという点で、極めて優先度の高い健康課題といえる。

職場における感染症予防対策の第一歩としては、まず従業員個々人が感染症に対する正しい知識を持ち、理解を深め、予防行動を習慣として実践できる素地を形成することである。
具体的な予防行動について、主な感染症ごとにまとめると、次のとおりである。

(1)インフルエンザ [主な感染経路:飛沫・接触]
・対人距離の保持(2m超)
・手洗いの励行
・咳エチケットを守る(マスク着用など)
・職場の清掃・消毒
・定期的なインフルエンザワクチンの接種

(2)風疹 [主な感染経路:飛沫]
上記(1)インフルエンザ同様の行動にくわえ、特に次の職場では感染リスクが高まることに留意する。
・公共施設など不特定多数の者が出入りする職場
・昭和37~平成元年度生まれ(特に昭和48~55年度生まれ)の男性が多い職場
・風疹流行地域への海外出張または同地域からの人材受入が多い職場

なお、東京都では都福祉保健局の「職場で始める! 感染症対応力向上プロジェクト」の一環として、(1)研修教材の提供 (2)感染症BCPの様式の提供 (3)風疹予防接種実施機関の紹介(すべて無料)、を通じた対策優良事業者名の公表制度を設けている。
こうした自治体や保健所の施策も有効活用しながら、万一の際の事業継続に備えておきたい。

次回最終回では、健康経営の取り組みに有効な外部リソースの活用について、公的機関・民間機関・助成金の観点から、それぞれご紹介していく(予定のテーマから1回分構成を変更しています)。

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です


社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー
代表 健康経営アドバイザー 楚山 和司

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