安全配慮義務の守備範囲はどこまで?

2017/03/03

社員A「《電話》体調不良で休みます。」
上司 「《電話》そうか、分かった。お大事に。」
社員B「Aさんまた病欠ですか?きっと仮病ですよ。」
上司 「でも最近色々とうるさいからなあ、安全配慮義務がどうとか・・・」

こうした病欠の多い社員対応についての労務相談がよく寄せられる。長時間労働等による労災事件のニュースが毎日のように報道され、企業の安全配慮義務についても厳しく問われている今、いったいどこまで配慮すればよいのか分からず、不承不承、労働者側の言いなりになってしまうケースもあるようだ。

“必要な配慮”の具体的な範囲とは
 法律にその解答を求めても、労働契約法に次のように書かれているのみである。
 『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。』(同法第5条)
 読んでみてガッカリであろう。知りたいのはその“必要な配慮”とは具体的に何なのか、ということなのだが・・・。ケースバイケースであり一律に定められる性質のものではないことは理解できるが、これでは実務での対応に困ってしまう。やはり一定の指針のようなものが必要だろう。

 そこで、この“必要な配慮”について、これまでの相談事例などもヒントにして、次の5項目を提案してみたい。

@健康診断等の実施
 労働安全衛生法第66条他により、事業者には労働者に対して医師による健康診断の実施が義務付けられている。法令順守はもちろんであるが、病気の予防や早期発見といった観点からも健康診断の意義は大きい。このほか長時間労働者の医師による面接指導や受動喫煙対策など、法令で求められている措置については当然押さえておく必要があろう。

A施設・備品の管理の徹底
 会社の自動車、バイク、施設、その他備品等を使用して仕事をする場合、これらの整備不良等に起因する事故が発生すれば企業側の責任は免れない。企業は労働者の心身への直接的な配慮だけでなく、こうした物的側面での配慮も欠かせないだろう。腰痛や転倒防止なども含めた職場環境全般に対して措置を講じたい。

B労働時間の適正な把握と長時間労働の削減
 過労死等防止対策推進法の施行や、今まさに推進中の働き方改革など、政府が長時間労働の削減に力を入れて取り組んでいることはご承知の通りである。そして、現実問題として悲しい事件が多数発生していることもまた周知の事実である。労働時間を正確に把握し長時間労働を削減していくことは、これからの企業にとって必須の取組みとなるだろう。

C適切な人事政策
 企業には労働者を配置する権利がある、と解されている。適材適所に人員を配置して、事業活動を活性化させていくことは重要な経営課題である。しかしこの権利は決して不当な目的(退職に追い組む目的など)で行使されるなどの濫用があってはならない。また、育児や介護などの事情にも配慮する必要があろう。企業側の論理だけでなく、「ワークライフバランス」の観点も取り入れた人事政策が求められそうだ。

D良好な人間関係
 人間であればウマが合う、合わないはあるだろう。好き嫌いもあって当然だ。多様な価値観、考え方、性格等があるのだから衝突があって当たり前と言える。(もちろん各種ハラスメントは論外である。)だからこそ、全員で努力する必要があるだろう。「気持ちの良い挨拶」「笑顔」「教育体制の構築」「相談窓口の設置」「仕事の期限(約束事)を必ず守る」等、企業として取り組めることはいくらでもある。ひょっとするとこの部分の改善だけでかなりの変化が職場にもたらされるかもしれない。良好な人間関係を作るために努力を惜しんではいけない。


 以上5点、安全配慮義務における“必要な配慮”についての基準の提案である。
 この取り組みに正解はないが、少なくともこれら@〜Dに真摯に取り組んでいれば胸を張って安全配慮義務を果たしていると言えるのではないだろうか。そしてこの取り組みに自信を持つことができれば、冒頭のような申し出にも毅然とした態度で臨むことができるだろう。
 安全配慮義務に対する取組みの要諦は、あやふやにしないことである。「ここまで我々は実行します!」と企業の姿勢や方針を明示して、それを全員で共有することができれば、もう安全配慮義務について迷うことはなくなるのではないだろうか。


出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎
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