お客様気分で働こうとする人が増えているように感じる中、そのことに苛立ちを覚える人も多いようだ。彼らを、働くことにおいて受動的な意識が目立つ「消費マインド」を持つ人、と認識すれば活用方法も見えてくるのではないだろうか。
「消費マインド」が働く現場に持ち込まれる時代。その対処法は?

「お客様」気分の、従業員の家族や就活生からの声

 会社に対して従業員のご家族がクレームを言ってくる・・・。最近、しばしば受ける相談の一つである。このような事は以前からあったが、多くは20代前半の従業員のご家族、特に新入社員のご家族からだった。しかし、近年は、40代、50代の従業員のご両親からのクレームも増えている。
  
 クレームの内容も変化してきているように思う。
以前は、残業が多い、上司からパワハラを受けた・・・等々、会社側に明らかに問題があるものが主であった。これらは会社側に何らかの改善策をとる必要を求めるもので、実質的にはクレームと言うよりも、有益な情報でもあった。しかし近年は、少し度が過ぎるのではないだろうか?と考えられるものも増えている。

 例えば、「息子がパワハラを受けた」、というクレーム。その実態をよくよく調査してみると、仕事上のミスに対して通常考えられる指導範囲だったケースがある。「会社で同僚からいじめに遭っている、会社としてどうにかしてほしい・・・」、これも実態を調査してみると、プライベート上の人間関係の問題にすぎなかった。「真夏の通勤途上で熱中症になった、涼しい時間帯になってから出社させてもよいだろうか?」という「お願い」もあった。こうした一つひとつのクレームに、会社としてどこまで対応すべきか、非常に悩ましい。

 小生はキャリアコンサルタントとして、就活中の大学生の相談業務も行っている。そこでも、次のような相談が増えてきている。
・会社説明会に行っても、人事の人から「入社してほしい」という熱意が伝わってこない。
・たくさんの会社の入社試験を受けるのも非効率なので、ピンポイントで入社試験を受けたい。私だったら、どこの会社ならば、ほぼ確実に入社できるだろうか?教えてもらえたら、その会社だけ受ける。
・休日が多くて、残業が少なくて、給料の高い会社でおすすめなのはどこですか?
等々。
 少し前の時代から考えると、「本当に働く意思があるのか?」それとも「ふざけているのか?」と耳を疑いたくなるような相談内容に聞こえるかもしれない。

「消費マインド」で働く時代。「労働マインド」は何処に行った?と考えるのは甘いのだろうか?

 これらの相談内容と接していると、「労働マインド」は何処に行った?と思うことがある。

 「労働マインド」とは、私たちは働くことで収入を得ている、という自覚の基に成り立つマインドである。そして労働の中では、自らの努力や頑張りは即時に正当に評価されず、長期的にジワジワと評価されるものである、という覚悟が、そこにはある。完全インセンティブな働き方であれば即時報酬につながるかもしれないが、そうした働き方は滅多になく、多少のジレンマや不条理は我慢をする。

 私たちは、そのような「労働マインド」で得た収入で、消費者として商品やサービスを購入する。このときは「消費マインド」で動く。
 「消費マインド」は、基本的には、こちらが支払う金額と、交換される商品やサービスが即時に等価であることを前提とする。支払う金額と、交換される商品やサービスが不当に低い価値のものであったり、不良なものであったりする場合は、「消費者」としてクレームを起こす権利がある。

 いま、労働においても「消費マインド」を持ち込む人が増えているのではないだろうか。従業員の家族の困った訴えは消費者としてのクレームに近いものがある。 また、「本当に働く意思があるのか?」と問いただしたくなるような相談をしてくる就活中の大学生は、会社選びを「少し高い買い物をする」感覚で行っているようにも感じる。

 「労働マインド」で働くことを当たり前としている者からすると、「消費マインド」で働く者、あるいは働こうとする者に対して、苛立ちを隠さずにはいられないだろう。しかし、「消費マインド」で働くことが、全て「悪いこと」なのだろうか。また、それが時代の流れであるとすれば、抗うよりも、それを受け入れることも必要では無いだろうか。

 「消費マインド」で働く者、または働こうとする者に対しては、それに呼応する人事制度の適用や対応をすれば、その人材を活かせることができるかもしれない。無理に「労働マインド」を強制するよりは、会社にとっても良いかもしれない、という考えは甘いであろうか。

 いずれにせよ、労働の現場に「消費マインド」が多く入り込んできているように見受けられる。困った就活生や従業員、またその家族の言動に苛立ちを感じたとき、それが「消費マインド」であると認識すれば、それを逆に活かす対応法も自ずと見えてくるのではないだろうか。


オフィス・ライフワークコンサルティング
社会保険労務士・CDA 飯塚篤司

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