『本業では得られない仕事の経験を得ることができ、プロ意識が高まった。』
『趣味など好きなことを仕事にできる醍醐味がある。』
『これまでの経験やノウハウで幅広い業界に貢献できるのがうれしい。』
・・・等々。
先日の某新聞紙上でこのようなコメントが次々と踊っていた。社外での仕事(副業)を認めることで、社員の能力を高めたり、新たな人脈を獲得したりすることが期待されているという。
ビジネスマンも二刀流の時代? 副業のリスクと注意点

副業解禁で、何が起こるか

リスク(1):士気低下リスク
 実際に社員の副業を認めたある会社のケースを目の当たりにしたことがある。そこで何が起こったか?ズバリ、人間関係が悪化した。副業をしている人が仕事でミスをしたり、遅刻や欠勤をしたりすると副業の影響ではないかと疑われる。また、副業先で自社の情報をペラペラしゃべっているなどといった噂も立ち始め、職場内の信頼関係にヒビが入り、結果として職場の士気は低下していったのである。その会社一筋で情熱をもって仕事をしている人からすれば二足のわらじは面白く映らないもののようだ。会社として副業を認めるのというのであれば、こうした事態に陥らないよう、自社の事情に合った、皆が納得できる制度をどう作るかが重要になりそうである。

リスク(2):長時間労働リスク

 副業の活動は本業をこなした上で行われるべきものである。もし本業の職場で一日8時間、週40時間のフルタイム勤務をしているとすると、副業の時間イコール時間外労働時間である。いわゆる過労死ラインは月80時間の時間外労働であるとされているが、このラインを意識すると本業の活動は自ずと短時間に制限されそうだ。この時間数管理は副業をする労働者本人のセルフマネジメントが大原則になることは間違いないが、安全配慮義務の重要性が高まる今、副業を認める会社側にも一定の労働時間管理義務が求められるようになるかもしれない。

リスク(3):労災リスク

 “労災で仕事を休んだら賃金の8割が労災保険から出る”と理解している人は多いだろう。確かにその通りで、1)業務上負傷または疾病にかかり、働くことができず、2)会社から賃金が出ない場合には、労災保険から休業補償給付と休業補償特別支給金とを合わせて賃金の8割相当額の給付を受けることができる。ただし、副業をしている場合は思いがけない罠がある。例えば次のようなケースである。
 A社(本業)…月収30万円
 B社(副業)…月収5万円
もし、B社で仕事中に怪我をして仕事が出来なくなった場合、労災から受けられる補償は5万円×80%=4万円/月のみである。A社の収入は考慮されない。(行政解釈S28.10.2基収3048、王子労基署長(凸版城北印刷)事件最高裁判決S61.12.16)
 もし副業が個人事業なら、最悪の場合労災からの補償はゼロだ。政府は副業をしやすくする指針を作ると言っているが、このあたりの制度的なフォローも必要になってくるのではないだろうか。

副業導入成功には秘訣がある

最後に、野球に詳しくない方でもプロ野球界の“二刀流”大谷翔平選手はご存知だろう。この大谷選手の成功例から二刀流(副業)の成功の秘訣を求めるならば、第一に本人にそれだけの実力と実績があるということ、そして第二に球団(本業の会社)の理解と協力があること、が挙げられよう。だとすると、これは誰にでもできるというものではないのではなかろうか。

二兎追うものは一兎をも得ずという言葉もある。前述の3つのリスクも合わせて、副業に関しては労使ともにまだまだ慎重に考えたい。

出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

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