政府の働き方改革の議論が本格的に始まり、残業時間に一定の上限規制が設けられそうだ。その中で注目されている「36協定」の見直しについて触れておきたい。
残業時間の削減につながるか!? 残業時間の上限設定検討へ

「36協定」とは?

平成28年9月27日、政府の「働き方改革実現会議」の初会合が開催された。その中で注目を集めているのが「36協定」の見直しだ。
 36協定とは、労働基準法第36条に基づき使用者と従業員代表者等と結ぶ時間外労働・休日労働の労使協定で、「サブロクキョウテイ」と呼ばれている。

労働基準法では1日8時間、1週40時間(特例措置対象事業場においては44時間)の法定労働時間と、週1日(または4週4日)の法定休日を定めている。これを超えた労働を命じる場合は、労使で書面による協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要がある。これが「36協定」といわれるものだが、届け出をしないで時間外労働や休日労働をさせると、労働基準法違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる。「36協定」の存在を知らない経営者も多く、未提出で是正指導の対象となることも多い届出である。

「36協定」であるが、無制限で残業時間を設定できるようにはなっておらず、厚生労働大臣告示により、月45時間(一定の場合は42時間)、1年360時間(一定の場合は320時間)という「限度時間」が設けられている。だが、予算・決算業務等、臨時的に特別の事情でその「限度時間」を超えることが予想される場合には、「特別条項付き」の協定を結べば、年間6回まで「限度時間」を超えて労働者を働かせることができる。

しかし、「限度時間」を超える延長時間は上限が設定されておらず、また、「特別条項付き」の協定を結ぶ特別な事情は臨時的なものに限られるのであるが、臨時的でない場合も各社の判断で適用されている場合もあり、その結果、残業時間を無制限に延長できるような運用がなされており、それが問題となっているのである。

もはやモーレツ社員は時代遅れ?

みずほ情報総研株式会社の「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業報告書(平成28年3月)」によると、「36協定」を締結している企業(調査数1414)のうち、「特別条項付き」協定を「締結している」が47.5%、「締結していない」が48.7%である。「特別条項付き」協定を締結している企業について、1か月間の特別延長時間をみると、「60時間超80時間以下」が40.4%で最も多く、次いで「60時間以下」が32.5%、「80時間超100時間以下」が14.9%であった。また、平均値は78.1時間であった。

厚生労働省労働基準局の通達(平成13年12月12日、基発第1063号)「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」によれば、いわゆる「過労死ライン」は「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働」とされている。報告書によれば、過労死ラインギリギリで特別延長時間を設定されている場合が多いようだが、100時間超としている企業もあり、そうであっても違法ではない為、問題といえる。

政府は残業時間に一定の上限規制を設ける方針なので、企業によっては、特別延長時間を見直す必要が生じる可能性がある。
安倍首相は、働き方改革を政府の「最大のチャレンジ」と位置づけ、「長時間労働の慣行を断ち切る」と強調している。長時間労働が育児や介護等生活との両立を妨げ、女性や高齢者が働き続けることを阻害し、少子化や生産性低下につながっているとの指摘もある。

今、お茶の間では「バブル芸人」が人気であるが、過去もてはやされた「モーレツ社員」も時代遅れとなり、「モーレツ社員芸人」が出てくる日も近いかもしれない。
各企業においては、長時間労働の見直しはもはや必須であり、従業員一人あたりの生産性を高める努力が必要といえる。


松田社労士事務所
特定社会保険労務士 松田 法子

この記事にリアクションをお願いします!